第4回 「事業は何か?」を問うことでなぜ圧倒的に生産性が高まるのか

これまで、マネージャーに求められる創造性、イノベーション、組織を作る際の大切な考え方、について書きました。
今回は、ドラッカーの「経営学(マネジメント学)」の中でも最も大切なこと、組織の「目的」をいかに設定するかについて書きたいと思います。

ドラッカーと言えば、企業であれ、政府であれ、病院であれ、学校であれ、共通して「五つの質問」を最初に聞くことで知られています。
それは、

  • あなた方の事業(使命)とは一体何か?
  • あなた方の顧客とは誰か?
  • 顧客は何を買うか(何を価値とするか)?
  • 手に入れたい成果は何か?
  • その為の計画はどうなるか?

というものです。
ドラッカーの問いは極めてシンプルですが、百戦錬磨の経営者も答えに困ったと言います。

事業と言えば・・「銀行業」「製造業」「運送業」「教育業」・・当たり前の答えは山ほど出てきます。しかしドラッカーは「当たり前の答えが正しいことはほとんどない」と言います。

時代変化の中で、事業の定義が陳腐化し、他の組織も同様のことをやろうとしていてお客様にとっても存在意義や価値が見えにくくなることが多いからです。

実はこの「事業の目的」の微妙なずれやあいまいさが、組織の創造性や生産性を著しく下げていきます。

ドラッカーはこう言っています。

「組織にはたらく者は共通の目標のために貢献する。彼らの動きは同じ方向に向けられ、その貢献は隙間なく、摩擦なく、重複なく、一つの全体を生み出すように統合される。事業が成果を上げるには、一つ一つの仕事を事業全体の目標に向けなければならない。仕事は全体の成功に焦点を合わされなければならない。」(ドラッカー「現代の経営」より)

残念ながらこの原則を理解しないと、逆に、

  • 一つ一つの仕事が全体の目標に向かって融合されない
  • 社員や仕事の間に隙間が生まれ、衝突が生まれ、重複が生まれる

という事態になり、創造性どころか投入した資源を下回るアウトプットしか生まなくなります。

全員が、この問いに対して話し合い、意見をぶつけ合い、自分たちでしっかり腹落ちした事業の定義を見いだしている組織には、どのような強さがあるでしょうか。

  • 営業マンが、提案時に明快に、自信を持って、自社や商品の価値を伝えられる。安易な値引き競争にならない。
  • 事業の目指すところが明確なので、さらに掘り下げてさまざまなアイディアが社内に生まれる。
  • メンバーが、自身の役割や果たすべき貢献を主体的に見いだしやすくなる。無駄な管理ルール・管理コストが発生しにくい。
  • 商品やサービスをむやみに拡大することがない。ニーズが絞れているので在庫も減り、営業面でも生産面でも無駄なコストがかからない。
  • 人の採用や育成基準が明確になる。採用や育成の失敗リスクが下がる。

などなど。他にも沢山の経営上のメリットが生まれます。

例えば、ある広告会社の例。
ネット化の流れで、「事業の再定義」が必要になっていました。さまざまな角度からのディスカッションを経て、自社の実績やノウハウ、強み、そして何よりお客様からの要望の強さを総合的に分析し、「教育関連のイベント企画/プロデュース事業」という新しい事業を定義されました。それにより、社員の意識がこれまで以上に統一され、様々な生産的なアイディアが生まれ、営業効率も高まり、人の採用や育成方針にも明確な指針が生まれました。

日々の決まった業務や管理作業からいったん顔を上げ、この基本的な問いを議論して明確にするだけで、驚く程組織の生産性が上がります。

最初の一言を発するのには少し勇気がいるかもしれません。しかしこの「見直し」作業は簡単でコストはかからない上に、真剣にやれば得られる効果は絶大です。私の経験上もそう断言できます。是非、読者の皆さんにも試していただきたいです。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

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