第116回 営業指導は「意識が変われば」でなく「行動が変われば意識が変わる」

提案営業や戦略営業に変えようと一生懸命に指導……。しかし、御用聞き営業から変えられない。長い間の経験で身につけ習慣化した営業は「やりなさい」「変えなさい」という指導ではなく、型にはめて継続させ矯正しなければなりません。今回は営業改革を進めるために必要な営業の標準化についてお話しします。

営業指導は「意識が変われば」でなく「行動が変われば意識が変わる」

御用聞き営業や商品案内営業から提案営業や課題解決型営業へ。
場当たり的、属人的な営業から戦略営業や組織的な営業へ。

今日の営業は大きな変化を求められています。

しかし、なかなか変わらない。
「提案しろ」「戦略を考えろ」と指導しているのに変わらない……。

どうやったら変えられるのでしょうか?

営業手法の身に付け方とは

「どうやって営業のやり方を身につけてきましたか?」

ほとんどの人が、体系的な手法を学ばず、さまざまな経験を積み、その場の苦労や努力で身につけてきました。
つまり、場数、経験。

長い間の経験により身につけ習慣化したやり方……つまり“癖”。
場数や経験で身につけた営業のやり方は“癖”と同じなのです。

“癖”ってどうやって直しますか? 変えますか?

「提案営業に変えないと」と言うだけでは変わらない

パソコン販売会社の営業マネージャーAさんが悩んでいました。
「うちの社員は御用聞き営業しかできない」
「いつも『提案営業に変えないといけない』『提案しろ』と言っているのに」

ある日、Aさんが営業会議で指導していました。

Aさん
「購入予定を聞くだけの御用聞きやパンフレットを見せて紹介する商品案内だけじゃ新規のお客さんから案件を取れない。お客さんの課題を聞いて提案しないと」
「明日からはお客さんの業務内容について、会話しながら課題を聞き出して提案依頼を獲得してください」

翌日、営業経験5年の部下Bさんが新規のお客さんを訪問しました(1件目のお客さん)。

訪問前、マネージャーAさんはBさんに
「御用聞きや商品案内じゃなくて、ちゃんと課題を聞いてこいよ」

そして、Bさんはお客さんを訪問し
「御社のWeb広告ビジネスの場合ですと、営業の方はクライアント以外にもプロバイダーとか制作会社との打ち合わせも多いんですか?」

お客さん
「そうなんです。だからほとんど外出で、営業が会社にいることは少ないんです」

Bさん
「ただ、社内の企画部の人との打ち合わせも多いですよね」
「外出中に企画の調整などを行う環境って必要じゃないですか?」

お客さん
「そうなんです。営業部と企画部の連携がうまくいっていないので、外出中に打ち合わせできる環境が必要なんじゃないかと思っていたんです」

Bさん
「そうなんですか。当社ではノートパソコンだけじゃなくてWeb会議システムも取り扱っていますので、よろしければ営業部と企画部の連携がうまくいく方法を考えてご提案させていただきますが」

お客さん
「ぜひ、お願いします」

Bさんはお客さんから課題を聞き出し提案依頼を獲得しました。

そして、会社に戻るとマネージャーAさんは
「課題を聞き出そうとしたから提案を獲得できたんだよ」
「これからも御用聞きや商品案内ばかりじゃなくて課題を聞き出すように」

その翌週、Bさんは別のお客さんを訪問(2件目のお客さん)。
前回同様にお客さんの課題を聞き出そうとしていました。

Bさん
「御社の人材紹介サービスの場合ですと、営業の方はクライアントとの打ち合わせ以外に求職者との打ち合わせも多いんですか?」

お客さん
「いや、求職者はカウンセラーが担当しているので営業はクライアントとの打ち合わせばかりだと思います」

Bさん
「そうなんですか。営業の方は外出が多いんですか?」

お客さん
「私は総務部なのでよく分かりません」

Bさんはお客さんの反応が悪かったため苦しくなって
「ノートパソコンの購入予定はありますか?」

お客さん
「しばらくないと思います。それに、いつも購入する時にお願いしている会社がありますので」

その翌週、Bさんはまた他のお客さんを訪問(3件目のお客さん)。

Bさん
「当社のノートパソコンとWeb会議システムをご紹介させてください」
といって商品を一生懸命に説明。

そして、Bさん
「ノートパソコンを購入する予定はありますか?」
と課題を聞こうとせず、購入予定を聞いてしました。

Bさんは3件目のお客さん以降、課題を聞き出そうとせず御用聞きや商品案内ばかりに戻ってしまいました。

御用聞きや商品案内に戻ってしまった理由を考える

なぜ、Bさんは戻ってしまったのでしょうか?

マネージャーAさんが「課題を聞き出して提案依頼を獲得してください」「御用聞きや商品案内じゃなくて、ちゃんと課題を聞いてこいよ」と指導したのに……。
そして、1件目のお客さんで成功体験があったのに……。

答えを下の選択肢(1)~(3)から考えてみてください。

選択肢(1):「2件目のお客さんでうまくいかなかったからやめてしまった」

選択肢(2):「課題を聞き出そうとしたけどチャンスがなかった」

選択肢(3):「課題を聞き出そうという意識が低下し、元の営業に戻ってしまった」

はじめに「場数や経験で身につけた営業のやり方は“癖”と同じ」とお話ししました。
少し“癖”の直し方についてお話ししましょう。

例えば、猫背。

いつも姿勢が悪く、猫背が“癖”になってしまっている……。
姿勢の悪さや猫背ってどうやって直しますか?

「背筋をまっすぐにして座りなさい、歩きなさい」と指導されたとしましょう。
その直後や1日ぐらいは意識して背筋をまっすぐにしているかもしれません。
しかし、2日後、1週間後、1カ月後には戻ってしまい、悪い姿勢に戻り、猫背のまま。

“癖”というものは、意識せず自然とやってしまう型です。
一時「意識しなさい」「やりなさい」「直しなさい」と指導されてもしばらくすると戻ってしまいます。
戻さないためには、朝から晩まで四六時中、そして一時ではなく、1週間、1カ月……指導し続けないといけない。
そんなことは無理でしょう。

“癖”である猫背は、「意識しなさい」「やりなさい」「直しなさい」ではなく、背筋がまっすぐになるコルセットをつけて、まっすぐな姿勢を一定期間継続させて直します。

つまり、悪い型を適正な型にはめて修正する、そして継続することで意識せず自然とやってしまう型にする。

なぜ、Bさんは3件目から御用聞きや商品案内ばかりに戻ってしまったのでしょうか?

答えは、選択肢(3)。
「課題を聞き出そうという意識が低下し元の営業に戻ってしまった」

Bさんは5年間の場数や経験により御用聞きや商品案内を意識せず自然とやってしまう型になっていました。
そのため、一時「課題を聞き出すように」と指導されても、元の御用聞きや商品案内に戻ってしまったのです。

場数や経験で身につけた営業を変えるのであれば、「御用聞きや商品案内じゃなくて、ちゃんと課題を聞いてこいよ」と指導するだけでなく、適正な型を作り、継続させましょう。適正な型を作り、型にはめて継続させることで、今までと違う適正な営業のやり方が習慣化され“癖”になるのです。

場数や経験で身につけてきた“癖”である営業を変えるためには……

心が変われば行動が変わる
行動が変われば習慣が変わる
習慣が変われば人格が変わる
人格が変われば運命が変わる

  • * ウィリアム・ジェームズ(米・心理学者)の名言より引用

ではなく、

行動が変われば成果が変わる
成果が変われば意識が変わる
意識が変わればさらに行動が変わる

なのです。

はじめに意識を変えようとするだけでなく、型を作り継続させ行動を変えさせるのです。

営業は話す内容や話し方などの行動を変えることでお客さんの反応や得られる情報、成果が変わる仕事です。
そして、一つ一つの行動で成果を重視する営業は成果が変わることで意識が変わっていくのです。
そして、意識が変われば、さらに行動が変わっていくのです。

「意識しなさい」「やりなさい」「直しなさい」と訴えかけるだけでは、やりません、直しません、継続しません。

「行動が変われば成果が変わる、成果が変われば意識が変わる」
営業は、型と継続で行動を変えさせましょう。

型と継続で営業を変える方法とそのPOINTは……

「営業のアドバイス」個人・法人会員サービス

次回は1月16日(月)更新予定です。

今月のクイズ(営業のクイズ)

クロージング
あなたはテレアポ代行サービスの営業です。
年末の挨拶でお客さんの取締役営業本部長に会えることになりました。
さあ、どうする?

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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
株式会社セントリーディング

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