第94回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その29~設計部門の評価制度を考える その3

設計部門の働き方改革としてテレワーク(在宅勤務)が実現しようとしています。そうなると、勤務時間労働ではなくなり、アウトプットされる設計成果物に対する評価が必須となります。今回は本シリーズの最終として評価を実行する幹部層の評価軸を定め、能力を高める査定トレーニングの重要性をご紹介します。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その29~設計部門の評価制度を考える その3

処暑を過ぎると残暑も一息つけます。しかし、まだまだ三冷ホッピーは汗をかきかき、小生のデスクの上で主役を演じています。

評価を行う幹部層の査定スキルが評価制度の成否を握る

前回の「その2」を経て、ようやく査定基準が評価のモノサシとして完成したわけですが、これでやっと評価制度確立の道半ばなのです。評価=査定をするという人間業の行為に対するOJTをどのように考えて行くのか? 重く、長いプロセスです。

何度も述べていますが「会社は選べるが、上司は選べない」と感じてしまうスタッフをいかに少なくするのか? スタッフのモチベーションをそぎ、退社や働き甲斐を失うきっかけとなってしまう最悪の事態を招かないためにもスタッフの評価を実行する、つまり幹部層の評価に対する「スキル=査定スキル」をしっかり向上させるための試行錯誤は、経営層としての必須案件です。

査定行為というのは決して楽しいものではありません。「信賞必罰」を実行するのですから。信賞つまり褒美を授ける方はよいとしても、罰を与えることを喜ぶ上司はいないでしょう。ましてや、このところのセンシティブな話題でもあるパワハラやセクハラと誤解されてしまうような査定結果を導いてしまわないためにも、根拠を示せる査定スキルの確立は評価制度の根幹をなす大変重要なテーマなのです。

しかし、残念なことに、多くの中堅・中小製造業の幹部は査定を行ったことがほとんどなく、未知の世界。設計部門で高い技量を誇っていた幹部でさえも、頭を抱えてしまう程の難題なのです。
何のトレーニングをしていない設計部門幹部に査定をさせると、おおむね以下のような傾向に分類されます。

  1. 上位査定のみ:信賞必罰の信賞ばかりで必罰なし。「良い上司で居たい!」「良く思われたい!」
  2. 全員オール3(5段階査定 :査定したくない。人類皆兄弟?
  3. 全員ダメダメ:殿様設計部長。「早く俺のようになれ!」スタッフは全員白けて断絶状態。
  4. 好き嫌い査定:子飼いは良い査定。いつも文句を言ってくるスタッフは悪い査定。
  5. 色眼鏡査定:「Aは良いに決まっている」「Bは悪いに決まっている」⇒ 一度見たスタッフ態度や技量が染み付いている。

このようなところでしょうか……

「こんな幹部に査定はさせられない」と思われるでしょうが、案外こんな現実です。

査定する幹部も人間ですから、このような傾向があることを多少は理解する必要はあるのですが、「人が人を査定するという厳しい環境」の中では、何をどのようにマネジメントしていくのかはまさに経営層の腕の見せ所です。

しかし、既に述べましたが、完全な査定環境は望むべきではないというのが私のコンセプトです。それは経験則から完全な査定環境構築は不可能だと思っているからです。しかしそれでも大切なのは「どうしたら少しでも完全に近づくのか?」というプロセスの共有だと考えています。

まずは三つの査定要件の徹底を目指す!

私の幹部層への査定OJTの目指すべき査定スキルのコンセプトは、以下の三つです。いろいろ枝葉はありますが幹となる、次の三つをしっかりと目指して、査定スキルを向上させてください。

1.査定をしっかり正規分布させる。

要は「信賞必罰」を実行するということです。「5段階評価で5を付けたら1も、4を付けたら2も付けてください」ということです。難しい組織論は置いておくとして、私の経験則からしても組織のクラス分け松竹梅は2:6:2になっていくと感じています。

この松竹梅はまさにフラクタルで、設計技量やチームワークマネジメント等のスキルの松竹梅は組織を大きくしても、小さくしても松竹梅比率は変わらないということです。オール3とか全員4以上とか全員2以下などという査定は許されません。

スタッフをしっかり観察するという行動なしには実現できませんし、何よりスタッフ一人一人に興味が湧かないと、正規分布はさせられません。

2.必罰つまり悪い査定の理由を説明して納得させる。

このための必要十分条件は「リスペクト」です。「尊敬の念」というと少し堅くなりますが、査定する「幹部=上司」と査定されるスタッフとの人間関係というか、心の関係です。

いろいろな設計部長を拝見してきましたが「何でこの人が設計部長なの?」と私が思ってしまう人には誰も査定などしてほしくないでしょう。

設計部門の幹部を生業としている以上、まずは設計技量としてのリスペクトを得ているか否かです。設計部門スタッフが「いつかはあの幹部の技量を目指したい」と思っているのか否か? ここは設計部門としてとても大切な要件です。

さらに望むべきは「ボスとしての度量」です。自身の技量に対する不安を抱くスタッフに対する安堵感を与えられる「ボス=幹部」であるべきです。

コンサルで預かる会社では幹部に対して「スタッフを守れる波消しブロックたれ」とか「汚水を浄化する高機能浄水場たれ」とか、事あるごとに言っています。これはまさにスタッフに対する安堵感の醸成なのです。

この関係が構築できていれば「必罰」を与えても、スタッフは甘んじて受け入れてくれるでしょう。ましてや、その「必罰」をバネに設計者としての技量や弱点の改善を図ってくれると思います。「あの設計部長がそう言うのだから頑張ってみよう」というポジティブな反応です。この反応こそが、評価制度を確立する意味でもあり求める成果なのです。

3.部門間格差査定を恐れない。

これは100%経営者マターです。経営コンセプトとして、どの部門を重要視しているのかを明確に見せていく行為です。これを言うと「どの部門も大事ですし、不可欠です」という経営者が居ますが、そういうことではないのです。

例えば技術先行型製造業でありたいと思えば、人材確保やモチベーションプランニングとして技術部門(設計部門)の査定に「オフセットを掛けること(高い評価をするなど)」は立派な経営戦略だと考えます。「良いボーナスが欲しければ技術へ来い」的な社長、つまり経営者としての思い入れはあってしかるべきです。経営コンセプトを可視化する意味でも大変重要だと思っています。

いかがでしょうか? テレワークという設計部門の働き方改革が浸透することは歓迎すべきです。ようやく中堅・中小製造業にもその可能性が見えてきました。この実現は設計者としての自己実現にもつながりますし、多様なライフワークにも応じることがでいます。さらに結果設計部門の「生産性=設計効率向上」にも直結します。

であればこそ、設計者一人一人の「技量、貢献、チームワーク」に対する評価をしっかり行うことで、この働き方改革をより良い結果に結び付けることができるのだと考えています。従って、査定を行う幹部層の査定スキルアップなしにはこれらの要件はかなわないのです。査定スキルの向上と一言で言っても長い時間を要するテーマです。であるからこそ、一刻も早い行動を起こされることを希望いたします。

次回は10月4日公開予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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