第150回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その79~メカ系設計とエレキ系設計とのBOMの壁

メカ系設計の「おまけ?」だったエレキ系設計でしたが、制御(ソフトウェア)の高度化やIoTニーズへの対応が必要となり高度化するに連れて、エレキ系設計に関わるBOMがメカ系設計BOMとあつれきを生むようになってきました。融和させる方法とは。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その79~メカ系設計とエレキ系設計とのBOMの壁

花粉症は順調に(?)ヒノキに反応し、全国一斉気味に咲いた桜を愛(め)でながらですが、相変わらずの鼻づまりで、風味のないキンミヤお湯割りです。
花粉症逃避ワーケーションという働き方がある様子。生産側エッセンシャルワーカーには厳しいですが、設計系で花粉症に悩みながら仕事をしているよりは良いのでは……
人気の逃避先は石垣島だとか! 確かに杉もヒノキもない。まして土日はパラダイスだし!

どうしてメカ系(機械機構系)BOMとエレキ系(電気、電子回路、ソフトウェア系)BOMとの間に壁ができてしまうのか?

特に生産設備設計やメカ機構が主体となる製品群を設計製造している場合、「昔からメカ・ファーストで設計しています」という言葉をよく聞きます。つまりメカ機構の設計が終わらなければ、エレキ系(含むソフトウェア系)はなかなか先行設計が難しく、「残った設計日程でエレキ系は完成させて」という構図になってしまいます。

私の記憶を思い返すと、当然、出図日程にエレキ系は間に合わず見切り発車生産となっていました。
メカ機構と布線(配管)工事までは何とか社内生産を間に合わせ、制御系の設計者は製品と一緒に客先に「出荷?」させられて、客先でデバッグをするという「気合と根性」の製造業でした。

流用化・標準化プラットフォームを構築して、コンカレント・エンジニアリング(同時進行設計)へ踏み出している中小中堅製造業は今回の問題を解消していくでしょうが、私が預かる製造業にはメカ系設計優先という考え方がいまだに根強く残っています。

時代は流れて、エレキ系設計に重要な働きが求められるようになってきました。
今まではPLC+ラダーシーケンスで制御して、それで何とかエレキ系設計を「良し」としてきたのですが、ICTの発達でエレキ系に求められる仕様としての以下のニーズが大変高まってきました。

  1. 周辺の機械、設備や中央制御ICTとのコミュニケーション
  2. 生産状況の生産管理システムへのレポート
  3. IoTによる予知保全(異常検出)

これらがメインのニーズです。

従って、エレキ系設計には

  1. これらの設計スキルをどのように獲得するか?(人材確保が主たるターゲット)
  2. コンカレントエンジニアリングが可能な環境を構築してメカ優先設計スタイルからの脱却

が二大テーマとして強く求められていきます。

設計者自身というより、明らかに設計幹部および経営者マターであることは間違いありません。
これらのテーマを解決しない限り、メカ系とエレキ系とのBOMの壁はなくならないと考えています。

本来エレキ系は基本的にプラスチック製ブロック玩具の設計です。カタログから部品を選択して、その組み合わせで設計していく性質ですので、メカ系のように似て非なる部品や使い捨て図面の再生産と比べると、流用化・標準化設計に移行することは容易です。
それだけにしっかりBOMを構築して、メカ系のBOMとの融和を図れば理想的なBOM構築が可能となります。

唯一、制御ソフトウェアの管理が目に見えない難題と存在しており、ここには多くの検討を必要とします。

現実の状況から少しでも前進するためには……

問題提起はしたつもりですが、先述したとおり預かる製造業の現実はいまだ周回遅れ以上の状態です。
もちろん、市場のニーズを満足できなければ企業としての存在価値はなくなります。そこには厳しい結果が待っています。

足元を再確認するために現状を分類してみましょう。

1:メカ設計は社内で行うが、エレキ系(含む制御ソフトウェア系)は一括外注(盤屋さん依存)

このタイプは頭が痛いというのが本音です。
外注先からの設計成果物としてのフィードバックも希薄で、制御系がブラックボックス化してしまっています。
バグ修正一つに対しても外注に依頼しなくてはならず、外注からは「今、担当のAは別件で無理です。対応可能な日程が分かったら連絡します」となります。そのようなことを繰り返せば、お得意さまを失う決定的要因になります。

もう一つは、他外注への転注ができないことです。制御系のノウハウを現外注先に握られてしまっていますから、コスト交渉にも応じてもらえず、主導権は外注にあり、まさに主客転倒状態です。
このような会社の設計部門には「自動機はメカで動かすものだ!」という半世紀前のエンジニアの亡霊がいまだにさまよっているように感じてしまいます。

2:メカ系もエレキ系も自社設計(方針に決めた)だが、BOMが不完全である

前項からの脱却も含めて、改革を進めていくことをDXの力を借りながら進捗(しんちょく)させている会社です。
もちろん、流用化・標準化プラットフォームの構築は必須となりますが。急にエレキ系のエンジニアが募集できるはずもなく、外注先を頼る必要性は捨てきれません。
せめて、BOMを外注に渡してブラックボックス化してしまうことだけは防いでいこうという方針です。

私もこのような過程はやむを得ないと考えています。それでも、大きな前進です。
ただし、BOMをどのように構築していけばメカ系BOMとエレキ系BOMとの壁をなくすことができるか? の検討は大いに重ねてほしいと考えています。そこには各社各様の考え方やルールがあって良いわけで、教科書的なルールに依存することは不要です。

例えば
「センサーとその取付板はメカAssy BOMのどこに位置付けるか? 取付板はメカ系、エレキ系どちらが設計するのか?」
「インバーターモーターのモーター本体とインバーターはどのように分割してBOMにするのか?」
「空圧部品の電磁弁はメカ担当か、エレキ担当か?」
等々。

今まで検討さえしなかった事柄が俎上(そじょう)に乗って来るのです。少しずつですが壁の崩壊の先駆けとなります。

制御盤を一括外注していたエレキ系が内製取り込み生産を一気に始めることは厳しいとしても、せめて外注に制御系全体のBOMを渡して製作させることが最初の目標となります。再述しますが、ブラックボックス化させないための始めの一歩です。

3:組み込み型コンピューター+IoTフロントエンドにチャレンジ

皆さんに少し勇気を持っていただける事例を紹介しましょう。
紹介する製造業は典型的な中堅製造業サイズで、自動生産機器設計製造です。流用化・標準化プラットフォームの必要性も早くから認識して、構築の努力を重ね稼働させています。つまり、コンカレントエンジニアリングが可能な環境ができあがっているわけです。

当初、エレキ系の制御はPLC+ラダーシーケンスという典型スタイルでしたが、IoTや高度なコミュニケーション能力を得るために抜本的な改革を実行しました。
そもそもPLCというのは、古き時代のリレー制御盤をコンピューターに置換するため、言語も含めて苦肉の策で生まれたものです(私は木に竹を接いだコンピューターと呼んでいます)。

従って、コミュニケーションや拡張性、画像処理さらには高級(低級)言語対応能力には限界があります。
なによりの欠点は高価であることです。欲しい機能のモジュールを増やすことはできますが、その都度価格が跳ね上がっていきます。設計者からすれば「自分で使用しているラップトップがこんなに高性能なのに、このPLCは数倍の価格でこれ?」という疑問が湧いてくるのです。

「では、このラップトップPCにI/Oを増設して制御すれば良いはずだ」という自然な発想が生まれて当然です。
ただし、ラップトップPCにも弱点があって、動作環境やノイズ耐性などの弱点があります。
そこで登場したのが「組み込み型コンピューター」というPLCの耐環境性とラップトップPCの高機能、高拡張性を兼ね備えたコンピューターカテゴリーの出現です。PLCと比べてリーズナブルな価格でコミュニケーション能力の高さや高級言語対応も含めて処理速度の高速化を図れます。

さらにIoTの高効率データ収集手法としてフロントエンド・PCモジュールという手法を発案しました。
これについては、後日詳細に説明する機会を得たいと思いますが、データをログするセンサーとなる末端に小さなPCボードを担当させて、先述したメインの組み込み型コンピューターの負担を劇的に軽くしています。

この小さなPCボードは市販されており、なかなか優れものです。USB、イーサネットなどの拡張I/Oを持ち、そして大変安価(数千円)で独自のOSも搭載しています。まさにIoTのフロントエンドには最高です。

1から3の事例の格差は残念ながら現実です。そして10年後に生き残っている製造業はどの事例か? 論をまたないと思います。
まずは必要十分条件として一刻も早く、メカ系BOMとエレキ系BOMとの壁を崩壊させることです。
そのための仕組みとして、流用化・標準化プラットフォームの構築が必須だと考えます。

以上

次回は6月7日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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