第136回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その65~半導体生産設備の巻き戻しが始まった!? ~設備製造で一番多忙な半導体生産設備製造業に異変が生じている~

半導体需給バランスの崩れで、多くの製造業が辛酸をなめる状況が続いています。しかし、その中で新規半導体生産設備製造に対するキャンセルが発生しています。この矛盾した動向の裏には何があるのでしょうか?

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その65~半導体生産設備の巻き戻しが始まった!? ~設備製造で一番多忙な半導体生産設備製造業に異変が生じている~

「春は名のみの風の寒さや~」と早春賦を思い起こしながら執筆しています。
花粉症の気配を感じながらのキンミヤのお湯割りです。鼻水を拭き拭き、なぜか少々塩味を感じるのは気のせいでしょうか?(笑)

不足している半導体の新規生産設備がキャンセルされるということは?

半導体とひとくくりにいっても用途、構造、生産プロセスによって大きく異なります。
例えば、カテゴリー的にまとめますと、

  • 記憶を担う「メモリー」
  • 演算処理を担う「CPU」
  • 論理回路を担う「FPGA」
  • 電力制御を担う「パワー半導体」
  • アナログ信号を担う「OP(オペ)アンプ」

など、大きなくくりで表せばこのようになります。

その中で、ICTの構成要素として一番多用されるのがメモリーです。皆さんもスマートフォンのメモリーが何ギガバイトというスペックでおなじみのメモリーです。

一般論ですが、このメモリーは容量が多ければ多いほど、ICTとしてのシステムが高性能になるという性を背負っており、需要家はまずはメモリーの確保に躍起となるわけです。もう一つの特性として互換性が高く、流用が容易であるため、結果「腐るもんじゃないし、買える時に取りあえず確保する」という需要家の動向となります。

実際の製品受注に応じた引き当て購買行動ではなく、「買える時に買っておきたい」という購買部門意識が優先することになります。

このような需要家の取り合いが過剰需要を生み、結果メモリーのひっ迫を招きました。半導体メーカーはそれに応える、というか「追い立てられる」ように増産用新規設備を半導体生産設備製造業に対し、P/Oを乱発(?)してきました。さらに、主要国は危機管理の一環として半導体生産事業に対し、国家予算をつぎ込んで後押しをしたわけです。

ところが、コロナ禍も落ち着き、半導体メーカーが今後の需要を冷静に分析すると……
実需と需要家が抱える将来在庫の間に大きな隔たりがあることに気づき始めたのです。
隔たり……つまり過剰供給の予感です。

今、一番忙しい中小中堅の半導生産設備製造業にキャンセルが迫っている

半導体メーカーと半導体生産設備製造業の関わりを俯瞰(ふかん)してみましょう。

通常、大手の半導体生産設備製造業は、一次外注から上がってくるユニットや専用装置メーカーから納入される製品を最終アセンブリーする形態が通常です。そのユニット製造に関わる多次外注も含めると多層構造になっているわけです。

現況は、コロナ禍で続いた高機能部品不足から昨年納期の設備製造を追い上げるために、上記した全ての外注は繁忙を極めているはずです。

おそらく経営者から社員までキャンセルなどというイメージはなく、「忙しすぎるからキャンセル歓迎」などという声も聞こえてきそうです。

私の耳には、既に半導体メーカーからの新規半導体生産システムのキャンセルが半導体設備大手製造業に届き、「善後策の話し合いに入っている様子」との情報が入っています。この影響が小規模外注に波及するまで半年以上は掛かるでしょう。

そうであっても、ドミノ倒しのごとく外注としての製造業本体はもちろん、部品商社や派遣人材、パートまで大きな負の揺り返しが予想されます。キャンセル・ドミノ効果となって、中小中堅製造業に痛手を負わせることになります。

加えて、状況証拠の域は出ませんが、知人が経営している商社にも異変が生じているようです。この商社は、余剰在庫を買い取り、それらを求める製造業に再販するという形態の生業(なりわい)です。特に余剰在庫には「レトロ半導体」が紛れている場合が多く、したがって「お宝」に巡り合うことも多いようです。

しかし、コロナ禍の最中には払い下げ在庫買い取りの申し出はほとんどなく、“商売上がったり”だったようですが、今年に入って余剰在庫(=お宝)の払い下げ買い取りの問い合わせが大きく増加しているようです。過剰に購入してしまった半導体部品在庫にメスが入りつつあるということだと考えています。

コロナ禍では繁忙を極めていたため、そのような状況を予想しにくいことも理解はできますが、いち早く空気を感じ取って、対応策を考えたいものです。

しかし、半導体全体の需要が減るわけではありません。CPUや論理回路系、パワー半導体系はEVなどの需要から、特定のカテゴリーの半導体は今後もひっ迫が続くでしょう。自動車の納入待ちは60万~70万台がいまだに存在するといわれているわけですから。半導体生産設備はみな同じなのではなく、先述したカテゴリーごとに特質があり、簡単にメモリーからCPUに業態移行するというわけにはいかないのです。

最近話題の2n(ナノ)線描(若干マユツバ?)も含めて、それ程容易な世界ではありません。そのような中で中小中堅の半導体生産設備に関わる製造業には、現状の繁忙に溺れることなく、将来動向をしっかり見据えていただきたいと考えています。

再述すれば、「全ての半導体が実需を上回る思惑需要の状況にある」という冷静な視点を持って、適切な将来対応を希望するものです。

以上

次回は4月7日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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