第5回 設計部門のモチベーション・プランニング

前回は、流用化・標準化設計の実現推進の原動力として「設計部門の5S活動」を紹介しました。品目コードやBOM(部品構成表)の必要性の理解も、この活動の重要なテーマであることを話しました。これらに関わる皆様の「気づき」はいかがなものでしたでしょうか?

さて、偉そうに?何度も繰り返し訴求している流用化・標準化設計ですが、実は、私自身何度となくチャレンジして、何度となく失敗をしています。このコラムも私の「失敗の研究成果」?をお届けしているのではありますが、数少ない本質への理解を迫られた、つまり「なるほど!失敗の原因はここに有ったのか!」と、私自身が納得できた考え方が、今月の内容です。ひとえに、「これから、流用化・標準化設計を目指す皆様に前轍を踏むことがない様に」と言う気持ちで、以降、したためてまいります。

いきなり、結論です!
流用化・標準化設計を成功させる(=失敗させない)三要素は

1:流用化・標準化設計のルール=運用ルールとしての決め事
2:そのルールを実現して維持管理する設計プラットホーム=設計資産管理と情報共有
3:??

少し解説しましょう。
1:のルールに関しては、いわゆる流用化・標準化設計規定と呼ばれるもので、各社の流用化・標準化設計の目指す形とそれを維持する為のルールブック作成です。「目指せ!レゴブロック設計」という漠然とした考えを、各社の製品、設計資産状況、設計スタイル、人員等の現実に整合する様に、具体的なルールを構築して行きます。ですから、このルールには各社の特徴がしっかりと「畳み込まれている」べきで、どこかのノウハウ本から引用したルールでは運用が滞ってしまうことは自明です。

2:上記のルールが決まったらそのルールを「運用する仕組み」が必須です。設計部長が全設計者の後ろに背後霊の様に立って、ルール運用を指示・監視できる訳ではないので、部長に成り替わって正しい運用を促す仕組みが必要です。まさに第3回にお話しした、蛸壺設計の壺を割る仕組みでもあります。私はこれを設計プラットホームと呼んでいて、設計者全員がこのプラットホーム上で設計業務を行う仕組みです。これはITが最も得意とする仕組みです。データベースを基本とするシステムですが「融通の利かない=例外を作らずルールを維持する」良き監視役となります。ルールが維持できれば、それに則ったBOMの構築をIT機能の応援を受けながら実行して行きます。

3:??の答えは今月の題名である「設計部門のモチベーション・プランニング」です。
そして、まずは私の失敗の原因がここにあったことを先に吐露しておきます。1、2項に関しては試行錯誤はあったものの、それなりに自信の持てる物を用意できたと思っています。ところが、このモチベーションと言う設計者のマインドに関わるマネジメントが大いに不足、いや、できなかったのです。

「設計者は自分のメリットに成らないことは絶対やらない!」
今思えば、この鉄則というか本能を無視してしまったわけです。業務命令で運用させようとしたことが、大きな落とし穴として私を待ち受けることになってしまいました。

設計者のニーズを上手く反映しないばかりか、「給料もらっているのだから運用せよ!」という、今思えば、ずいぶんと高飛車なマネジメントをやらかしました。やはり、毎日、出図納期に追われ、不具合や新規技術と格闘している設計者の切迫した気持ちを慮(おもんぱか)ることがとても大切なのだとの気づきです。

では設計者の気持ちを慮るとはどの様なニーズの切り口なのでしょうか?
いろいろありますがまずはABCで上位三項目・・・

A)設計が楽になる=類似図面の撲滅=無駄な図面を書かない
「何か同じ様な図面、前に書いたなー」
「設計者の人数分、類似図面が存在する」
この様な無駄を撲滅します。

B)「探す・見つける」と言う設計していない時間の撲滅
私がコンサルティングで預かった設計部門は、設計時間の30~40%を「探す・見つける」に費やしていました。まずはこの時間を撲滅するだけで、設計時間に心理的にも、物理的にも余裕が生まれます。

C)A,Bで生まれた時間を自己実現の為に使う(使うと言う教育も含め)
設計者の自己実現を叶えられる環境を用意する=自分自身の存在価値創造や不得手な設計パートの他者ノウハウ共有等、似て非なる図面を綿々と書き続け、設計変更や現場対応に追われる日々を送っている設計者に、自己実現は叶いません。設計者としてのスキルアップを自ら図るチャレンジの機会を、どうやって手に入れるかに有ります。

これらA、B、Cのニーズを上手に反映出来れば設計者自ら「自分のメリット」を感じ取ることが可能となり、自ずと流用化・標準化設計に取り組む姿勢を持ち始めてくれます。

この「自分のメリットを感じる」をプロデュースすることを、私は「モチベーション・プランニング」と呼んでいます。「自分のメリットを得るためには、設計部門全体のメリットに注目する必要がある」という気づきを与えて、「その為には流用化・標準化設計は不可欠だ」と考えてもらうこと。そうして、設計者全員に流用化・標準化設計構築へのGive&Takeがマインドセットされれば、先述した業務命令などは不要となり、自ずと構築されて行くことになります。

私自身、モチベーション・プランニングの必要性に気づいた時は、モチベーション=やる気創生と誤解をして、プロジェクトを幾つも立ち上げたり、担当責任者を何人も任命したりして結果を踏み外す経験もしましたが、その反省から、設計者自身の「プライベートな思い」としての自己実現を何処までイメージしてもらえるか、させるか、が肝だという考に至りました。これはとても大切な要件だと思っています。

そして、もう一つ隠れたモチベーション・プラン・・・
実は仕込みとしてチラチラ見え隠れさせていた項目があります。私はこれを裏プランニングと呼んでいます。
それは・・・
「設計効率上がって少数精鋭化出来れば、そりゃー給料やボーナスも上がるよなー」と言う私、設計担当取締役のつぶやきでした。

設計者は自己実現として「給料を上げる」という項目を挙げることはあまりありません。
多少、給料が低くても本当の自己実現が叶うのであれば歯を食いしばって頑張ってしまうものです。だからと言って、この性に甘えているだけでは、そのうち疲弊してしまいます。気持ちが折れてしまうということです。
従って、この裏プランニングの存在表明と実行は、表のモチベーション・プランニングを活性化する表裏一体のとても大切な触媒と考えています。

皆様いかがでしたでしょうか?流用化・標準化設計の実現は、仕組みと設計者マインドのマネジメントさえ確立し、実行すれば決して難しい絵空事ではないと言うことはわかっていただけましたでしょうか?

「何か新しいことをやろうとすると人がいません、足りません、と返事が返ってくる」と嘆く経営者を沢山見ました。そして「少数精鋭で付加価値の高い設計部門にしたい」という思いや、希望を多くの経営者から聞きます。その嘆きの解消、思いや希望の実現は何処まで行っても経営者としての決断にあります。
来る日も来る日も、「なんだかなーー」との自己実現とは対極に在る思いを設計者にさせている経営の現実に、問題の本質が有ると思います。

ですから、「どうか、一刻も早く流用化・標準化設計にチャレンジください」と今月を軽く括りたいのですが、今の事業環境を直視すると、「流用化・標準化設計を一刻も早く実現し、少数精鋭化へのチャレンジなきサバイバルはあり得ない!」との切迫した提案を届けざるを得ません。
そこまで製造業ニッポンの中小・中堅製造業の設計部門が置かれているポジションは悪くなっているのです!

次回は5月初旬の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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