第135回 病院移転大全~その2~

前回コラムでは、「病院移転」におけるステップを整理して、担当分野を定めたプロジェクトチームを発足し進めていくことをご紹介しました。今回はその分野のうち「患者移送」について解説します。

病院移転大全~その2~

前回コラムでは、最初に移転日を決めて逆算して移転計画を立てること。計画の推進はプロジェクトチーム(以下PT)で進めていくこと。PTの個別担当としては、「患者移送」「医療機器移設」「什器移設」の三つの分野に分けることをご紹介しました。今回は三つの個別分野のうち「患者移送」について解説します。

入院患者の移送リスクは非常に高い

入院患者の移送は非常に高いリスクが伴います。入院しなければならないほどの重症度の患者を別の病院へ移っていただくのですから、最大・細心の配慮が必要です。さらに未来日である移転日にどのような患者がどの病棟に何人入院しているのか誰も分かりません。したがってどのような患者が何人いても(病床に制限がありますので、上限はありますが)、その時の状況に合わせて臨機応変に対応することが求められます。

どのような状態の患者をどのような移送手段で転院していただくのか。この時の「患者の状態」とは、医療・看護の重症度とは異なることもあります。考慮すべきは、疾患、状態、症状はもちろんですが、急変する可能性やADLの状態も考えなければなりません。

入院患者の移送手段としては、大きく救急車と担送車、車いす可能移送車に分けます。ストレッチャーで移送する患者や移送リスクが高い患者は救急車による移送を行います。車いす使用者および車いすを使用したほうが良い患者は、車いすで移送可能な車両により移送します。その他の患者は担送車で移送することになります。

同時にそれぞれの状況の患者にどのようなスタッフを配置して移送するかも検討します(ペアリング)。例えば、ストレッチャー使用患者には、医師1人、看護師前後に1人ずつ合計3人体制とするなどです。

医療スタッフが行う移送準備とは

次に患者を振り分けるために事前に医療スタッフ(主に医師や病棟スタッフ)に振り分ける要素を洗い出していただき、その項目を整理してもらいます。最終的には入院患者個人の状態一覧表を移送当日、入院患者に持っていただきます。この患者の状態一覧表は、非常に重要なツールです。

なぜなら、移送当日は自分の受け持ち患者、自分の配属先の病棟以外の患者の移送も手伝う可能性が高いため、どのような患者なのかを短時間で把握するのに必要なアイテムとなります。

整理した項目を使って各病棟では、救急車使用患者○人、車いす使用者○人、担送車使用者○人と振り分け作業に慣れていただくトレーニングをしていただきます。このトレーニングを続けていくと、おおよそどのような搬送手段での対象患者数というのが明らかになってきますので、その対象人数を基に入院患者移送計画を立てていきます。

以下に患者搬送計画見本を記載します。縦軸は時間軸です。見本では5分単位となっています。横軸は移送手段ごとに患者名や旧病室、新病室などの情報が網羅されています。この計画書立案のためには、事前に決めておく方針や調査があります。

患者移送計画書見本

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  • * 株式会社FMCA作成

病院に求められる移送のための準備

事前に決めておく内容としては、移送対象とする患者数を減らすかどうかという点です。前述したとおり患者の移送には危険が伴います。その危険性を少しでも減少させるために「移送患者数を減らす」という考え方があります。具体的には、外泊可能な入院患者を移転前に外泊してもらい、外泊期間が終わったら新病院に来ていただくというものです。

しかし、近年の病院移転の考え方は外泊患者が多いと、それだけ入院収益が減少してしまうため、外泊はさせずに安全に全入院患者を移送させるというものに変わってきています。この部分は病院自身のお考えに沿った方針を決めれば良かろうと思います。

方針が決定したら、移送対象患者数も決まりますので、次に決めなければいけないのが、何日で移送するかということです。対象人数が多く、短期間で移送しなければいけない場合は、移送ルートを複数準備しなければなりません。

いずれにしても短時間で移送することが求められますので、計画した時間どおりに移送させることが重要です。そのため、旧病院の移動時間の計測や、移送ルートの実走(時間測定)なども事前に測っておく必要があります。患者移送車のルート検討、必要に応じて警察や救急とも相談を行います。

担送車による移送は、数人ずつ車内に乗り込んでいただきますので、計画時間に合わせて病室から降りてくるのではなく、車両が出発する(正面玄関などの)場所に搬送患者の歩留まりを作っておくと良いです。さらに車いすから降りて担送車へ、移動式ベッドからストレッチャーへなど、患者の移乗が頻回に繰り返すことになります。この作業を慣れない人が行うとすぐに腰を痛めてしまいますので、セラピストの方々にお願いすることになります。

さらに患者を移送中に急変した場合を想定して、どのような対応を行うのかを決めておく必要もあります。急変時に旧病院に戻るのか、新病院で対応するのかを決めておきます。急変時対応する病院には、急変対応する医療スタッフを配置する必要があります。筆者の経験では移送中に陣痛が始まり、事前に決めていた新病院で無事に出産第一号となった例がありました。

忘れていけないのは入院患者の食事です。食事の3回のタイミング時にどこにどの患者がいるのかを把握し、その状況に合わせて配膳することになります。栄養部の負担を軽減するためには(特別食を数日間だけ外部に委託することは困難だと思いますが)、常食であれば、お弁当を外部に委託するという方法もあります。

また、職員の食事のことも忘れてはいけません。新旧病院の食堂の稼働の可否や稼働時間帯、メニュー。稼働しないのであればお弁当の準備、必要個数。お弁当を届ける場所や職員が食事する場所の確保、食事時間の確保なども事前に考えておく必要があります。しかし、事前に計画を立てていても、イレギュラーな対応は発生しますので、食事についても臨機応変に対応できるようにしておく準備をしておきましょう。そのためには想定されるイレギュラーな状況を考えておき、その状況にどのように対応するのかを栄養部で考えておく必要があります。このイレギュラー対応については、栄養部だけのことではなく、全部署共通の事前取り組み事項となります。

  • * 今回は病院職員による患者移送を前提に解説しました。

患者移送まとめ

患者状態評価表の作成

  • 上記評価表のトレーニング
  • 患者移送手段別患者数試算
  • 患者別手段別ペアリング
  • 個人別患者状態一覧表の作成

患者移送計画書の作成

  • 移送ルート
  • 移送ルート数
  • 移送時急変対応
  • 食事計画
  • 旧病院移送ルール
  • 新病院移送ルール
  • 職員配置計画
  • 想定イレギュラー抽出
  • イレギュラー対応案

皆さんはどう思いますか?

  • * 移転に関してのご相談は以下にお願いします。
    【株式会社FMCA】fujiimca@gmail.com

次回は4月12日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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