第130回 医療機関のM&A その前に……

コロナ禍において医療機関の経営は補助金などでしのいでいますが、やがて補助金もなくなります。そして、資金に余裕がない医療機関が増加するような状況になれば「M&A」が行われる可能性が高くなります。今回は医療機関のM&Aの基本をお話しします。

医療機関のM&A その前に……

新型コロナのまん延により医療機関の経営は現在では補助金などでしのいでいますが、やがて補助金もなくなります。その時に医療機関の経営は大丈夫なのでしょうか? その答えはいずれ明らかになるでしょうが、個人的には資金に余裕がある医療機関(数は多くないと推測します)と資金に全く余裕がない医療機関との二つに分かれると思います。そのような状況になったときに「M&A」が行われる可能性が高くなります。第43回の当コラムで、実際に私が経験したM&Aの失敗事例を紹介しました。医療機関のM&Aは一部のチェーン病院と呼ばれる病院以外は、あまり多くは経験していません。経験していないため、そのノウハウもありません。すなわち、M&Aが経営を苦しくするきっかけになってしまうことも考えられるのです。そこで今回は医療機関のM&Aの基本をお話ししたいと思います。

医療機関のM&A

医療機関を個人開設と医療法人に区分して整理します。

 買い手
個人開設医療法人
売り手個人開設ほとんどないほとんどない
医療法人診療所ではあり得る最も多い
  • * 作成:株式会社FMCA

上記の表でも分かるように、個人開設の医療機関はM&Aが成立する可能性が低いです。個人開設の医療機関については、M&Aではなく事業承継という形で経営者が変わっていくというパターンが多いのではないでしょうか。一方で医療法人については、その医療法人が病院であった場合は、多くは医療法人がM&Aをする形になります。

医療機関を買い取る側の医療法人としての基本的な事前確認事項

現在の損益と資金繰り

現在のお金の状況確認です。特に資金繰りについては資金繰りに何らかの不具合があるためにM&Aの対象となっていることが多いため注意が必要です。

棚卸資産/固定資産

資産については、現在の資産内容に加え、耐用年数や使用期間、医療機器などは現在の状況なども確認します。設備投資の額の算出などにも必要な情報です。

簿外債務や偶発債務などの有無

意図的ではないにしろ、積極的に情報を開示してこない部分ですので、慎重に調査することが肝要です。

外来/入院患者の分析(患者数/単価など)

後述の診療圏分析の内容と合わせて、疾患別の地域シェアを算出します。仮にシェアが既に高いのであれば、患者を増やす戦略から単価を増やす戦略を立案します。シェアが低いのであれば、患者数を増やす戦略を立案します。

届け出済みの施設基準

新たに届け出ができる可能性のある施設基準を洗い出します。

現在の取引先企業と取引内容

いったん全ての取引先との契約、契約内容を白紙にします。M&A後の合算したスケールメリットを生かした新たな交渉を開始します。

診療圏調査(近隣の競合医療機関分析を含む)

所在地での自院の強み弱み(SWOT分析など)、シェアの算出などを分析します。

医療機関の将来性、価値の算出

買収する医療機関の機能を補完する機能や強化、バックアップする機能などグループ全体の機能、医療の質の向上ができるのか否かの判断を行います。

建物、構造物

この点は非常に重要です。耐震化、耐火構造の有無や廊下幅、病室面積など医療機関には決められた基準があります。その基準に合わせた増改築が可能かどうかということです。さらに建物に手を入れることは非常にコストがかかります。M&A後に予想外の費用で本体の医療機関に影響が出ないようにしなければなりません。

職員の感情

買収をされる側の職員は、まず良い気分ではありません。M&Aに反対しているかもしれませんし、M&A後に非常に非協力的だったり、退職してしまったりすることも考えられます。M&Aの双方が良い感情でM&Aをすることはまずありません。少なからず双方に表に出さないまでも抑えている感情はあるものです。

M&A後はこのわだかまりなどを解決するために、何回も話し合いをします。買収側の医療機関から専従者が送り込まれますが、この専従者の立ち居振る舞いもポイントです。決して上から目線で見たり、そのような態度をしたりしてはいけません。かといってへりくだる必要もありません。対等な立場で「お互いに良くしていこう」という共通の目標に向かうように理解してもらうことが大切です。

M&A前にはなかなか職員に直接話を聞くことは難しいと思われますが、旧経営陣の方で職員のアンケートなど実施してもらえば、状況の確認は可能です。

皆さんはどう思いますか?

次回は11月9日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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