電子帳簿保存法におけるスキャナ保存|改正のポイントと保存要件は?

「電子帳簿保存法」により、文書保存の負担軽減のため一部の国税関係書類を紙ではなくスキャナ保存することが認められています。スキャナ保存するために必要な手続きは原則ありません。要件を満たしていれば、コピー機のスキャナ機能の使用またはスマートフォンやデジタルカメラで撮影した画像を電子データとして保存できます。
スキャナ保存の対象書類、および保存要件など「スキャナ保存制度」について詳しく解説します。

電子帳簿保存法におけるスキャナ保存制度

「スキャナ保存制度」は、「電子帳簿保存法」で定められた保存区分の一つです。保存要件に当てはまっている場合、紙で作成した書類をスキャンし電子データとして保存できます。スキャナ保存する方法と、法律改正により緩和されたポイントについて解説します。

電子帳簿保存法とは?

「電子帳簿保存法」とは、紙の書類での保存が義務付けられている帳簿書類について、一定の要件を満たすことで電子データ(電磁的記録)の状態での保存を認める法律です。

この法律の制定および改正が行われる背景には、経済社会のデジタル化に対応し、電子化により生産性・記帳水準を向上させるという目的があります。

電子データ(電磁的記録)の状態での保存とは、具体的にはメールやクラウドサービスを介して受け取った電子データを紙で出力せずに電子データのまま保存することです。また紙で出力した書類のなかでも、手書きによる記載がない場合はスキャナ保存することができます。

スキャナ保存とは?

「スキャナ保存」とは、要件を満たした紙の取引関係書類を正式な保存文書として認める制度です。

紙の書類をコピー機や複合機のスキャナ機能またはスマートフォンやデジタルカメラで読み取り、データ化して保存します。スキャナ保存は電子帳簿保存法における三つの保存区分のうちの一つで、その他の二つは「電子帳簿等保存」と「電子取引」です。

電子帳簿等保存
電子的に作成した決算書などの帳簿や領収書といった書類を電子データのまま保存する
電子取引
電子的に授受した取引情報を電子データのまま保存する

スキャナ保存に関する電子帳簿保存法改正のポイント

2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法により、スキャナ保存の要件が以下のように緩和されました。改正後のポイントを確認してみましょう。

緩和されたポイント補足説明
税務署長への事前承認が不要2021年12月31日までは事前の承認申請が必要だった
タイムスタンプ要件と検索要件の緩和

・タイムスタンプの付与期間が、最長約2カ月とおおむねね7営業日に変更

・受領者等がスキャナで読み取る際の国税関係書類への自署が不要

・クラウド上で入力期間内に電磁的記録の保存を行ったことを確認できる場合は、タイムスタンプの付与に代えられる

・検索要件の記録項目は、取引年月日・取引金額・取引先に限定される

・税務職員による電磁的記録のダウンロードの求めに応じられる場合、範囲指定や項目を組み合わせての検索機能はなくても良い

適正事務処理要件の廃止相互けん制や、定期的な検査および再発防止策の社内規定整備が不要
スキャナ保存された電磁的記録に関連した不正があった場合の重加算税の加重措置隠蔽(いんぺい)または仮装された事実があった場合、重加算税が10%加重される
  • * 出典:

「電子帳簿保存法が改正されました」(国税庁・PDF)

電子帳簿保存法のスキャナ保存の対象となる書類区分

国税関係書類すべてがスキャナ保存できるわけではなく、主に取引関係書類およびその控えが対象です。スキャナ保存ができる対象書類について詳しく見ていきます。

スキャナ保存の対象となる書類

国税関係書類のうち、取引関係書類にあたるものはスキャナ保存の対象です。具体例としては以下が当てはまります。

取引相手から紙で受け取った書類
【例】
請求書、見積書、納品書、領収書
自社が作成して取引相手に交付する書類の写し
【例】
請求書の控え、見積書の控え、納品書の控え、領収書の控え

スキャナ保存の書類区分

さらにスキャナ保存の対象となる書類には「重要書類」と「一般書類」二つの書類区分があり、それぞれスキャナ保存の要件が異なります。

重要書類資金や物の流れに直結、連動する重要な書類で、写しも同じ重要度を持ち、重要書類に区分される取引の開始時と終了時に取引内容を明らかにするための書類【例】契約書、領収書
一連の取引の中間過程で作成される書類【例】預り証、借用証、預金通帳、小切手、約束手形、有価証券受渡契約書、請求書、納品書
重要書類資金の流れや物の流れに直結、連動しない書類で、写しも一般書類に含まれる【例】検収書、入庫報告書、貸物受領書、見積書、注文書、契約の申込書

電子帳簿保存法のスキャナ保存の要件

スキャナ保存の対象は、二つの書類区分に分けられると説明しました。全ての書類を同様にスキャナ保存するのではなく、書類区分ごとに定められた保存要件に従う必要があります。

スキャナ保存の要件

重要書類と一般書類の区分により、一部のスキャナ保存の要件に違いがあります。具体的な違いは以下の表の通りです。また、保存要件を満たせばスマートフォンやデジタルカメラでの撮影による電子データ化も認められています。

 重要書類一般書類
入力期間の期限

【業務処理サイクル方式】
国税関係書類にかかる記録事項の入力を、その業務の処理にかかる通常の期間(最長2カ月以内)を経過した後、速やか(おおむね7営業日以内)に行うこと

【早期入力方式】
国税関係書類にかかる記録事項の入力をその受領等後、速やか(おおむね7営業日以内)に行うこと

【適時入力方式】
適時に入力(注)
一定水準以上の解像度
およびカラー画像による
読み取り
  • 解像度が200dpi以上であること
  • 赤色、緑色および青色の階調がそれぞれ256階調以上(24ビット)であること
  • 解像度が200dpi以上であること
  • 白黒階調(グレースケール)での読み取りも認められる(注)
タイムスタンプの付与

入力期間内に、「一般財団法人 日本データ通信協会」が認定する業務に係るタイムスタンプを一つの入力単位ごとに電磁的記録の記録事項に付けること

  • * ここで定めるタイムスタンプとは、電磁的記録が変更されていないことについて、保存期間を通じて確認することができ、課税期間中の任意の期間を指定し、一括して検証できるものに限る
  • * 入力期間内に対象の国税関係書類に係る記録事項を入力したことを確認できる場合、タイムスタンプの付与要件に代えられる
読み取り情報の保存

読み取った際の解像度、階調および当該国税関係書類の大きさに関する情報を保存すること

  • * 国税関係書類の受領者等が読み取る場合で、当該国税関係書類の大きさがA4以下であるときは、大きさに関する情報の保存は不要
大きさに関する情報の保存は不要(注)
バージョン管理国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項について訂正または削除を行った場合には、これらの事実および内容を確認することができる電子計算機処理システムまたは訂正または削除を行うことができない電子計算機処理システムを使用すること
入力者等情報の確認国税関係書類に係る記録事項の入力を行う者またはその者を直接監督する者に関する情報を確認できるようにしておくこと
帳簿との相互関連性の確保国税関係書類に係る電磁的記録の記録事項と当該国税関係書類に関連する国税関係帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認することができるようにしておくこと
見読可能装置の備え付け等

(1)14インチ(映像面の最大径が35cm)以上のカラーディスプレイおよびカラープリンターならびに操作説明書を備え付けること
(2)電磁的記録について、次のイ~ニの状態で、速やかに出力することができるようにすること

イ:整然とした形式
ロ:当該国税関係書類と同程度に明瞭
ハ:拡大または縮小して出力することが可能
ニ:4ポイントの大きさの文字を認識できる

白黒階調(いわゆるグレースケール)による保存の場合、ディスプレイ及びプリンターはカラー対応である必要はない(注)
電子計算機処理システム
の概要書等の備え付け
電子計算機処理システムの概要を記載した書類、そのシステムの開発に際して作成した書類、操作説明書、電子計算機処理ならびに電磁的記録の備付けおよび保存に関する事務手続を明らかにした書類を備え付けること
検索機能の確保

電磁的記録の記録事項について、次の要件による検索ができるようにすること
(1)取引年月日その他の日付、取引金額および取引先での検索
(2)日付または金額に係る記録項目について範囲を指定しての検索
(3)2以上の任意の記録項目を組み合わせての検索

  • * 税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合には、(2)および(3)の要件は不要
  • (注)スキャナ保存を行う国税関係書類にかかる電磁的記録の作成および保存に関する事務の手続きを明らかにした書類(これらの事務の責任者が定められているもの)の備え付けを行う必要がある
  • * 出典:

「はじめませんか、書類のスキャナ保存」(国税庁・PDF)

スキャナ保存の要件を満たすか確認する方法

要件を満たすソフトウェアなどには「公益社団法人 日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)」の認証マークが付いています。自社でソフトウェアを独自開発する場合は、税務署や国税局に設けられた、事前相談の窓口で要件を満たしているか確認できます。

保存要件を把握し積極的にスキャナ保存をすすめましょう

2022年1月1日以降、電子データで作成した書類は紙ではなく電子データにおいて保存することが義務付けられます。過去にパソコンなどで作成し、紙で出力した国税関係書類のスキャナ保存は義務ではありません。
しかし電子データ化することでペーパーレス化の促進にも直結し、紙の文書を保管していたスペースが有効活用でき、書類整理のための出社や業務が不要になります。スキャナ保存を積極的に推進し、時間やスペースの無駄を省きましょう。

本記事の監修者

岡 和恵

大学卒業後、2年間の教職を経てシステム会社に入社。
システム開発部門でERP導入と会計コンサル、経理部門での財務および税務会計を経験。
税理士、MBA、CFPなどを取得。
2019年より税理士事務所を開業。会計・税務の豊富な実務経験と知見を活かし、税理士業務のほか監修者としても活躍中。

  • 保有資格

    ・税理士・CFP

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