第28回 誰にでもできる「イノベーション」思考

■ 「イノベーション」の主体は技術ではなく人間

経営における「イノベーション」とは一体何でしょうか。
経営資源に対して、新しい経済的価値を付加することです。例えば、提供するのは同じ製品であっても、その製品の新しい使い方を新しい顧客層に提案し、需要を発掘できたとします。
そうすると、その製品を製造し販売する社員とその時間という資源に対して新しい価値が生まれます。
あるいは、顧客が喜んで買いたいと思う新しい製品機能や新サービスが加えられたとすれば、それは原材料や設備といった経営資源に新しい経済価値が付加されたことになります。

「イノベーション」は、大規模な技術開発から生まれるものだと思われがちです。
しかし実際は、大規模な技術革新を伴わなくとも、むしろ「人間の思考の仕方や、ものの見方を少し変える」ことから全く新しい付加価値を生みだすというのが経営におけるイノベーションの醍醐味(だいごみ)です。
そういった人間の創意工夫による着想や見方の変化が伴っていなければ、いくら技術・性能的にハイスペックでも、それは顧客に選ばれるものにはなりません。
残念ながら、巷(ちまた)ではそのような製品やサービスが数多く生まれてしまっているのも事実です。

■ 「変化」に着目する

昨今、多くの会社で「イノベーションを生みだせ」「新しい事業を創造しろ」という号令が飛び交っています。
しかし、「イノベーションを生まなければ」「新しいサービスや製品を早く生まなければ」と考えれば考える程、逆に革新的なアイディアが遠のく気がします。
どんどん思考が「どんなサービス/製品がよいか」というプロダクトアウト(製品やサービスありき)的な発想になってしまうのです。
では、どのように考えていけばよいのか。ドラッカーは、こう言います。

「イノベーションとは、企業家に特有の道具であり、変化を機会として利用するための手段である。」(ドラッカー「イノベーションと企業家精神」)

イノベーション自体は目的ではなく、それは道具であり手段に過ぎません。
目的は「変化を商売の機会(チャンス)として利用する」ことだと定義します。
したがって、「イノベーションを起こすには?」という問いではなく、以下の3点が重要な問いになります。

【1】「注目すべき、社外で起きている重要な変化は何だろう?」
(技術、消費トレンド、経済、業界構造、雇用、人口動態、法規制面など)

【2】「その変化は、自社の商売や顧客の動向にどう影響を与えるだろう?」

【3】「その変化を事業・商売の機会として利用するにはどうするとよいだろう?」

これらの問いを立て、小さくても行動を起こすことで、経営者だけではなく社員の皆さんも「企業家精神」を発揮することができます。
安定しているマーケットには既に多くのライバル企業も参入して、価格競争に陥りやすいです。
しかし、「変化」しているものから商機を先に掴むことで、自社がイニシアチブをとって新しい事業や商売を築くことができます。
それこそが企業家精神です。

■ 「最も身近にあるのに、見ようとしていない」重要なヒント

 ドラッカーは、変化の中からイノベーションの機会を発見する視点を七つ定義しています。
上記の書籍や、私の書籍の中でもその七つを紹介していますので、詳細は割愛しますが、ここでは「最も手軽に、簡単に発見できる一つ目の変化/機会」として挙げられているものを紹介します。
それが、「予期していなかった成功や失敗から、その背景にある顧客や市場の需要の変化を読み取る」という考え方です。

企業のマネージャー向け研修の場などでも、このテーマで議論するといろいろな経験談が聞けます。

「『無理かな』と思っていた提案が、意外な程にクライアントに高く評価され、契約に至った。」
「導入した業務システムが、こちらが意図していた用途と全く違う使われ方を顧客企業内でされている。しかも、それがとても好評。」
「製品提案時に、これまでとは違う要望や質問が顧客から出される事が増えている。しかも、その要望にどこか共通項がある。」
「コンペにおいて、全くノーマークだった別会社にあえなく敗れてしまった。」

などなど。
これら「予期せぬ結果」は、通常の業務の中では流されてしまい、深く議論されることがありません。
人間は、自分の提案や意図を受け入れて欲しいと願う心理が強いものです。
だから、その意図と異なる反応や事象に対しては、無意識にシャットダウンしてしまう傾向があります。
しかし、このように「自社側が予期していなかったお客さんの反応」こそ、イノベーションのチャンスです。
意外だった、予期していなかった結果から、その背後にある顧客や市場の変化、要求の変化を見定めて他社に先駆けてその変化を活かした新しい提案をすることができるからです。

■ 顧客側の発している、「変化のサイン」に敏感になる

法人であれ、個人であれ、お客様も当然「生き物」です。
その考え方やニーズは、お客様自体を取り巻く環境の変化を受け、変化していきやすいものです。
イノベーションの最短の方法というのは、お客様サイドが出している「サイン」(予期していなかった反応)から、その変化を読み解く努力を真剣にすることです。

「最近の提案活動で、お客様からよく出される、これまでと違う質問、要望、ニーズはないだろうか?」
「予期していなかった受注・契約が思いがけずとれたことは最近なかっただろうか?」
「予期していなかったトラブルやクレームなどの問題は最近発生していないだろうか?」
「その予期しなかった反応の背景に、(小さくても)イノベーションにつながる重要な変化の種は見えないだろうか?」

このようなシンプルな問いにつき、ぜひ皆さんの職場でも話し合ってみてください。
私の経験から言っても、この問いかけにより、意外なほどに多くの面白いアイディアや気づきを得る事ができ、営業上のブレークスルーにつながると思います。

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次回は4月3日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
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