第27回 「社会的使命」が組織を変える

■ ある組織を根本から変えた「問い」

「まず社会的な使命があり、次にビジョンがあって、その次に戦略があり・・・」

経営学の書籍を読めば、大体どの本にもこのように書いてあります。企業ミッション(使命)やビジョン(目指すもの)を策定するための方法論も多数紹介されています。
しかし、どこか「表層的」「機械的」に感じてしまうことはないでしょうか。頭では大切だと分かっていても、どこかしっくりと自身の中に落ちない。
文字で奇麗に書かれた言葉やスライドから、自分の仕事の本当の社会的意義をじっくりかみ締めることは難しいかもしれません。

社会的使命というものは、日々の仕事において実際にはどういう意味を持つのでしょう。
私が尊敬する、ある方から教えていただいた話は、私にあらためて事業における「社会的使命」の重要性と実用性を再認識させてくれるものでした。ここで、参考までにご紹介させてください。

それは、ある外資系の医療機器メーカーで抜群の業績を上げていたマネージャーの話でした。
その方のマネジメントスタイルは「上意下達」の典型で、徹底した指示・コントロール型。メールや電話で情報を伝達し、部下の行動を厳しく管理するため、確かに無駄がなく効率的に結果が出る仕組みができていました。しかし、業績的には抜群の結果を出せても、そのやり方では組織内でさまざまな深刻なトラブルが発生するようになります。
そこで、エグゼクティブコーチングを受けながら、1年以上かけてご自身の内面と向き合い、マネジメントスタイルを変革していかれたそうです。紆余曲折する中で、最終的に、部下の方にある「問い」を考えてもらうことがとても効果があることに気づいたといいます。その問いとは、以下のものでした。

「あなたは、その仕事で、何人の命を救えると思うか?」

■ 社会貢献と自分の仕事を「つなげる」と何が変わるか

あまりに大きい問いなので、最初は誰も明確には答えられなかったはずです。
「そんなことを日々の仕事で考えたことはなかった(そんな余裕も与えられなかった)」という方も多かったでしょう。
しかし、不思議なことに、この大きな問いを軸にさまざまな組織内コミュニケーションが円滑に進むようになり、以前より業績も向上していったそうです。

「この顧客訪問、この作業、このミーティングをすることで、最終的にはこのように、これだけの人の命を救うことにつながる」と個々人が深く考えるまでにこの問いの意義が共有されれば、上長の指示やルールによって受け身で動く意識から、「本来はこうすべきではないか」「こうしたい」という主体性が高まってきます。

日々の業務だけではありません。
事業企画をする際、新しいマーケティング戦略を提言する際にも効果が現れます。
膨大で詳細なデータと資料があっても「当人の本当の想い」が感じられないプレゼンテーションではなく、本人が心の底から「この事業を通じて社会に対してどんな幸福をもたらしたいか」が強く伝わるプレゼンテーションの方が、聴く人を引き込みます。話し方の巧拙より、「社会的使命」が心から伝わることの方が人間感情に訴えかけ、良い結果を生みます。
これは、東京オリンピック誘致につながったプレゼンテーションを思い出しても明らかです。
 
営業活動も同様です。
効率よく営業活動をする担当者に「何か伝わるものがない」と感じるお客さんはきっと多いはず。
その営業担当者が、「その製品やサービスを通じて、社会に対してどんな幸福をもたらしたいか」が心から伝わってくれば、きっと顧客側も応援したいと感じるはずです。
これは、会社が作る奇麗な文言というより、社員自らの言葉で語られることが大事です。

■ 結局、目指すべきマネジメントの姿とは?

 社会的使命と日々の仕事をつなげる力を理解いただけたでしょうか。
それは情緒論ではなく、実際に事業の上で「結果」につながっていきます。
つなげる上では、最初は「こじつけ」でもよいと思います。
上記の例でいえば、「この作業をした結果、こういう提案が病院に受け入れられる土台ができて、結果、このような機器が導入され、このように院内で使ってもらえば・・・結果的にこのような患者さんの命が今まで以上に救えるようになる・・かもしれない」といった具合に。
この「こじつけ」が大事です。
自分の日々向きっている業務や仕事が「大切な目標に向かっているか」「自ら目的を見失い、作業が目的化していないか」を自分自身の内面でつなげていくことができるからです。

 人が生き、働く上で、「社会や世の中の人に対してどんな貢献ができているか」は最上段に来るモチベーションであり、主体性・創造性を発揮する鍵です。
社会的な使命と自分の目の前の仕事が結びついた時、働く人が持っている能力が一気に開花していくのです。
上司の指示や会社の規定ではなかなか動かなかったものが自発的に動き出します。
無駄な管理的コストも時間も大きく削減されます。

「Management by Objectives and Self Control」
(目的と自己規律によるマネジメント)

これが、ドラッカーが求めた、理想とするマネジメントの姿です。
大きな目的や目標を共有しながらも、日々の細かい仕事や判断は現場のメンバーの自己規律にゆだねる。
そういう組織を目指して日々それに近づいていく為に話し合い、組織を成長させるということです。

大きな目的にあたる社会的使命は、どんなことでもかまいません。

「その仕事で、何人の笑顔を生みだせたと思うか」
「そのサービスで、どれだけの人に一生の幸せな思い出を届けられると思うか」
「そのシステム開発で、どれだけの人が仕事のストレスを軽減できるだろうか」
「その資材の提供で、どれだけの良質で安心できる建物が早期に完成するか」

などなど。
皆さんの事業内容に合う重要な問いを一つ見つけ、ぜひ社内で話し合ってみてください。
最初は居酒屋で飲みながら、でもよいです。大切なのは、問いを発することで、無意識に小さな「誇り」「やりがい」「自己規律」が内面に育ってくることだと思います。

【書籍のご案内】

いつもコラムをお読みいただき、ありがとうございます。
本コラムにも紹介されているような、マネジメントという仕事を創造的なものにするための「原則」をまとめた書籍を出版いたしました。

「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
藤田 勝利 著

「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(amazon.co.jp Webサイト)

実話を基にした7つの「ケース」を使って、マネージャーに役立つ考え方を説明しています。
会社経営をされている方、事業部・部・課などを任された方、新規事業のチームを率いる方、開発や制作のプロジェクトマネージャーの方など、「組織やチームのマネジメント」を担っていく方に是非お読み頂きたいと思います。

次回は3月6日(木)の更新予定です。

関連するページ・著者紹介

この記事のテーマと関連するページ

基幹業務システム SMILE V 2nd Edition 人事給与

人事管理から定型の給与計算業務までをフルサポート。自由項目を利用した独自の人事情報や、履歴情報を管理することで、人事異動の判断材料などにご活用いただけます。

この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

公式Facebookにて、ビジネスに役立つさまざまな情報を日々お届けしています!

お仕事効率研究所 - SMILE LAB -

業務効率化のヒントになる情報を幅広く発信しております!

  • 旬な情報をお届けするイベント開催のお知らせ(参加無料)
  • ビジネスお役立ち資料のご紹介
  • 法改正などの注目すべきテーマ
  • 新製品や新機能のリリース情報
  • 大塚商会の取り組み など

ページID:00077830