第36回 「コミュニケーション」は同意を得ることが目的ではない

仕事柄、さまざまな会社の経営課題と向き合うことが多いです。

「ビジョンや戦略があいまいだ」
「若手のモチベーションが下がっている」
「部署間で壁があり、意図や情報が流れていない」

など、表現もさまざまです。しかし、突き詰めて行くと、皆さんある一つの根本的な課題に言及されます。それが、「コミュニケーション不足」です。本コラムの以前の記事(第24回 プロ野球日本シリーズに観た「コミュニケーション」の本質)でも触れましたが、「コミュニケーション」とは情報伝達ではなく、意思・意図の疎通のことです。

第24回 プロ野球日本シリーズに観た「コミュニケーション」の本質

■「チーム」の三つの条件

「コミュニケーション」は、人が集まって仕事に取り組む上で、欠かせない鍵です。なぜそこまで大切なのでしょうか。

例えば、満員電車で乗り合わせた人たちは、いわば単なる「群衆」です。しかし、目の前で急にご老人が倒れたとしたら、その瞬間に群衆が「チーム」に変化します。それは、チームに必要な以下の三つの条件をその人達が満たすからです。

【1】共通の目的 (「このご老人をなんとか助けたい」)
【2】協働する意思 (「自分1人では無理だ。皆で協力しよう」)
【3】コミュニケーション(「まず、座席へ座らせましょう!」「私が右から支えます!」など)

組織名称や拠点の有無にかかわらず、この三点を満たしていれば、その集団は間違いなく「チーム」です。

この三つの中で何が「土台」になるかと言えば、三番目のコミュニケーションです。コミュニケーションがなければ、共通の目的も、協働する意思も成立し得ません。

■ 結論や同意を得ることを目的としない

「あの部署のメンバーと話し合ったとしても、意見がまとまらず収拾がつかないだろうな。」
「部下と方針をしっかり話し合わないといけないけれど、ゆっくり時間をとれない。中途半端に終わってしまいそうだ。」

多くの人が「コミュニケーションの場を創る」ことに過度に慎重になっているようです。「結論が出ない」あるいは「同意が得られない」といった慎重論が先行し、真剣に話し合うことに一歩踏み込めない。誤解されているのですが、コミュニケーションの目的は、同意を得る事ではありません。

私がお勧めするのは、「結論が出なくても、同意を得られなくても、重要なテーマがあるのであれば、一度顔を合わせて意見を交換してみる」ということです。それによって、当事者同志が、「現時点では同意はできないけれど、あちらもかなり悩んではいそうだな。我々も少し考慮してあげないといけないかもしれない。」といったように、わずかながらでも、共通の目的に近づくことができるのです。少なくとも、全く意図が共有されていなかった段階よりは、一歩進みます。この「一歩進んだ」状態は、小さなステップに見えるかもしれません。しかし、実際には、「その小さな一歩」が、組織の中の「大きな非効率」を減らすことに役立ちます。コミュニケーション不足による致命的なミスやトラブルを未然に防止することにも役立ちます。ドラッカーはこう言います。

「同じ事実を違ったように見ていることを互いに知ること自体が、コミュニケーションである。」
(「マネジメント」より)

同じ事実を、人は自分たちの「眼鏡」で、自分たちの都合のよいように見るものです。その結果、さまざまな誤解や、トラブルが生まれます。その状態を、一気に解決しようとしても難しい。ドラッカーが言うように、「同じ事実を我々は、違った視点で見ているのだな」と知ること自体がコミュニケーションだとすれば、そのハードルがぐっと下がるのではないでしょうか。

■ 身体で言えば「血流」とにかく「流す」ことに意義がある

コミュニケーションとは、身体で言えば「血流」です。流れを止めようとすると鬱血し、さまざまな他の部位に悪影響を及ぼします。だからこそ、とにかく「流す」こと。必ずしも同意が得られなくても、コミュニケーションが流れていること自体に、意義があるのです。

ドラッカーはこう言います。

「組織において、コミュニケーションは単なる手段ではない。それは組織のあり方である。」
(「マネジメント」より)

急激な情報化/IT化の中で、会社内で想いや意見を率直に語り合ったり、考えを知り合ったりする機会が少ない昨今。あえて時間を使い、もっともっと「コミュニケーション」の流れを活性化するべきです。そのために、オフサイトミーティングや、社員のイベントを活用することも有効な「投資」です。社員同士のスポーツイベントなどを通じて、「言葉を交わす」ことだけでも組織に血が流れ始めます。そういう意味で昨今復活しつつある社員旅行や、運動会といったイベントにも一定の合理性があります(もちろん、現代に合うようにイベントにも工夫をこらすことが大切ですが)。

皆さんの組織では如何でしょうか。時間を惜しんで、基本的なコミュニケーション(血流)が滞ってしまっていることはありませんか。もしそういうことがあれば、無理に「同意」「結論」を得ることではなく、お互いの想いを語り、「相手が何を、どのように見ているか」を知る事で、明日からの業務に大きな変化が起きるはずです。

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次回は12月4日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
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