第24回 プロ野球日本シリーズに観た「コミュニケーション」の本質

創設9年目で悲願の日本一の座を射止めた東北楽天ゴールデンイーグルス。「マネジメント」の観点から、その中でもとりわけ気になる選手がいました。
楽天の嶋捕手です。放送で観る限り、彼の言動からはマネージャーとしての資質、とりわけ「コミュニケーション」の能力に極めて高いものを感じます。

第7戦の試合中に、解説者の古田敦也さんがこんなことを話されました。

「楽天の投手をよく見てください。同じ『サインにうなずく』にしても、何度も繰り返しうなずいているのが分かりますか。これは、嶋捕手が単にサインの伝達だけではなく、その他にもさまざまな『意図』を送っているからです。『高めに球が抜けないように気をつけろ』『肩の力を抜け』『こういう球の軌道のイメージだよ』など、ジェスチャーを使って何度も意図を投手に送っているので、それに対して投手が納得して何度もうなずいているのです。」

多くの捕手と投手が淡々と「(バッテリー)サイン」の交換をする場面が多い中で、嶋捕手と楽天投手陣はその通常の「サイン」に加え、さらに伝えたい「意図」を交換し合って、共有し合っている。
私は、この解説を聞きドラッカーの以下の言葉を思い出しました。

「コミュニケーションと情報は別である。前者は知覚の対象であり、後者は論理の対象である。」

コミュニケーションには、論理的に正確な「情報」だけでなく、生身の人間である相手が意図を「知覚」できることが不可欠です。
最近は、システム化・情報化が進み、多くの組織で「情報のやりとり」自体がコミュニケーションであると誤解されています。
しかし、コミュニケーションとは、本来情報の授受を意味するのではなく、人間同士が、本当に意図するところを「知覚」し合って初めて成り立つものです。
冒頭の嶋捕手の姿勢からは、マネジメントとして学ぶべき点が沢山あるはずです。

「最低限しっかり会話もしているし、目的や目標も示しているつもりですよ」という声もよく聞きます。
しかし、多くの業界で市場が飽和し、また競争も激化している時代です。
表層的な指示やメッセージだけでは、卓越した成果につながる意図やアイディアは練り込まれてきません。

「その商品やサービスが顧客に買ってもらうとしたら、どのような価値を購入してくれるのだろう?」
「営業提案をする際に、他社とは違うどのような価値を最も訴求すべきだろう?」
「この販売促進施策やイベントをやることで、どのような成果を自分たちは得たいのだろう?単に来場者数の増加か?あるいは顧客からの安心感・信頼感の醸成だろうか?」

このような、根本的な意図を話し合って、上司と部下、或は組織を跨いだ同僚との間で「知覚」しあうことが不可欠です。
そうでなければ、決して顧客に選ばれる、ブランド価値の高い製品・サービスは磨かれないはずです。

コミュニケーションの語源は、ラテン語で「コミュニカチオ(Communicatio)」です。コミュニカチオの意味は「共有する」だそうです。
意図やメッセージを双方や関係者が「共有」して初めてコミュニケ−ションが成功するのだということを如実に表しています。

コミュニケーションとは組織のありかたそのものです。単に話法や技法を修得するだけでもうまくいきません。
以下の点が組織内で、徹底されていることが基本条件になります。

【1】(基本的なところで)目的や目指すものを共有している
【2】信頼関係がある(互いにリスペクト/尊重し合っている)
【3】お互いの価値観や考え方を(最低限)認識している

おそらく前述の嶋捕手は、普段から、同僚、先輩、後輩の話をよく聞く人だと思います。普段のそういった関わり合いの結果として、上記【1】、【2】、【3】が相互に生まれている。
その結果、大事な試合中にそのような「コミュニケーション」が成り立つ土壌ができていると思うのです。ちなみに、【2】は仲が良いか悪いか、ということよりも、「(たとえ仲が良いとはいえない関係であっても)相手の強みや資質を認め、尊敬/尊重している」ということです。

「私からあなたへ」ではなく「我々の中の一人からもう一人へ」。

これも、ドラッカーがコミュニケーションについて語った重要な原則の一つです。
情報を相手に渡すだけではなく、同じ目的を共有するコミュニティ/仲間の中で意図を話し合い、共有しあう。会社であれ、公的機関であれ、スポーツチームであれ、大切な原則です。

皆さんの組織ではいかがでしょうか。「忙しいから」という理由で、逆に組織の成功条件である「コミュニケーション」の重要性を見過ごしていないでしょうか。
その結果、逆にコストやトラブルが増えてしまう、あるいは大切な顧客を失ってしまう、ということはないでしょうか。
ぜひ、組織内で「本当のコミュニケーションが行われているか」を考えて、改善案を話し合ってみてください。
間違いなく、思わぬ効果があるはずです。

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次回は12月5日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

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