第25回 グーグル社も積極的に取り組む「自分の内面のマネジメント」

「あの人とは一緒に仕事ができない!」
「この猛烈に忙しいときに、こんな仕事をふられてやっていられない!」
「忙しくて、メンバーと話す時間はおろか、お客さんと話す時間もない!」
「この仕事、一体何のためにやるの・・・?」
「だめだ、全くモチベーションが上がらない・・」

 現代企業の多くの人が、その内側でさまざまな葛藤を抱えます。そして現代組織やチームの「生産性」は間違いなく、個々の人間、とりわけその組織をリードするマネージャーの「内面」で差が出ます。「そんなことはない。会社の戦略、組織構造、採用基準・・・自分の外にいろいろな問題がありすぎる」という人が多いです。しかし、多くの研究結果が示すのは、現代企業で働く人の多くが自分の内面の「注意」「意図」「感情」「思考」などをうまく処理できず、仕事の生産性を大きく下げてしまっているという事実です。

「まず自分自身を知り、自分という希少な資源を活かす。その上で、組織やチームをマネジメントすることができる」

私がドラッカーから学んだ大切な教えの一つです。

 なぜ自分の「内面」なのでしょうか。それは、現代が間違いなく「知識労働」「知識資本」の時代だからです。財務資本や産業資本(工場や設備)や肉体労働の生産性が業績を決めるのではなく、そこで働く知識労働者が知恵やアイディアを交換し、建設的にチームワークを発揮する会社が業績を高めています。つまり、自身の内面にある知恵、創造的なアイディアといったものが社員からバンバン引き出されなければ、強い製品やサービスは生みだせない時代なのです。ただ残念ながら、この「知識資本」の考え方は、ほとんどの会社で十分理解されていません。深く考えれば、それは「考え方、働き方、チームマネジメントのしかた」を根本から変えないといけない超重要課題です。

 知識労働の最先端の会社の一つに、誰でも知っているグーグル社があります。その中で面白いプログラムが実践されています。それは「Search inside yourself (あなた自身の内面を探れ)」というトレーニングプログラムです。EQ (感情指数)の専門家のトレーニングを受けたチャディー・メン・タンという技術者が、自分自身の内面の意識、感情、思考をうまく統制し、日々の仕事を楽しく、生産的に行うための計20回のトレーニングプログラムに昇華させたものです。技術者としても卓越した業績をあげていたチャディーは、これをきっかけに人材育成担当に異例の抜擢を受けます。

 詳しくは、チャディー自身の著書「サーチ!富と幸福を高める自己探索メソッド」(宝島社)に書かれていますので是非読んでみてください。面白いのは、この「心」「意識」といった一見「非科学的」にとれるコンセプトを、「誰よりも科学的にものごとを捉えるのが好きで得意」だというこのチャディーが合理的に説明しようとしているところです。例えば、「瞑想」(Meditation)のことを彼は、「情動すなわち短期的な感情の変化を高い解像度で知覚すること」といった言葉で定義します。「心」「感情」といった抽象度が高いテーマを社内の「IQが超高い」技術者が実践し、成果をあげられるプログラムにしているところが興味深いです。実際、グーグル社内でこのプログラムを受けたセールス・エンジニア、開発者が実務の中でさまざまな効果を実感していると言います。

「社内外からのクレームや要望に、感情的に対応しなくなったので、以前の何倍も生産的、建設的に仕事ができるようになった。」
「心がストレスで乱れることがない。結果、お客さんからの信頼が抜群にあがり、別の案件も契約できた。」

といった効果です。グーグルを退職する予定だった優秀なエンジニアたちがこのプログラムをきっかけにそのまま在籍することを決め、様々な新しいプロジェクトを立ち上げたという話もあります。さらに、当然のことですが、このトレーニングのおかげでプライベートも一気に充実したものになったという人も多いそうです。

 このグーグルのトレーニングの詳細は前述の著書に任せるとして、その要点を簡単に言えば、
■意のままに心を鎮める
■自分の「注意」(アテンション)を見つめ、望む方向にその注意を向ける
■自己認識と自制をする
■集中力と創造性を向上させる
■自分の心のプロセスや情動のプロセスを明瞭に知覚する
といういわば「心のトレーニング」です。これらを通じて、鍛錬を積んだ心の中に自信や創造性が自然と沸き起こってくることに気づくようになります。

 私も、母校の経営大学院で、この「セルフ・マネジメント」(自分の内面のマネジメント)を専門に教える教授と出会い、仕事への考え方、マネジメントへの考え方が一気に変わりました。ドラッカーの「まず自分自身を知ることから始めよ」というメッセージは、次代の研究者や実践家に確実に受け継がれて、「知識労働者」たちのいきいきとしたワークスタイルを生みだしつつあります。

 皆さん自身も、「超知識産業」で発展するグーグル社で行われている取り組みから、何かご自身の考え方、働き方、マネジメントのしかたにつき、ヒントを得ていただければと思います。まず、自分自身の内面と向き合うことが実は仕事において最も効果が高いことに気づくはずです。

【書籍のご案内】

いつもコラムをお読みいただき、ありがとうございます。
本コラムにも紹介されているような、マネジメントという仕事を創造的なものにするための「原則」をまとめた書籍を出版いたしました。

「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
藤田 勝利 著

「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(amazon.co.jp Webサイト)

実話を基にした7つの「ケース」を使って、マネージャーに役立つ考え方を説明しています。
会社経営をされている方、事業部・部・課などを任された方、新規事業のチームを率いる方、開発や制作のプロジェクトマネージャーの方など、「組織やチームのマネジメント」を担っていく方に是非お読み頂きたいと思います。

次回は2014年1月9日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

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