第19回 「共通の絵」を見ることで、チームの仕事はどう変わるか

コンサルティングやトレーニングでよく議論の題材に使うたとえ話です。

「レンガ職人に、通りかかった人が『何をしているのか』と聞いたところ、以下の3通りの答えが返ってきた。
1人目 『生活のために、レンガを積んで生計を得ています』
2人目 『一流のレンガ職人になるために、日々こうして腕を磨いています』
3人目 『多くの人々が笑顔で集まれるような、素敵な教会を建てています』」

同じ現場で同じ仕事をしていても、頭の中のイメージで見ている「絵」はそれぞれ違います。
チームの仕事の成果に決定的な影響を与えるのは、目に見える基準以上に、この「各自が内面で持っている絵」の方です。
この絵こそが、細かな仕事の判断や、質に対するこだわりを決めています。

この絵が共有されていれば、極めて生産的に、快適に仕事が進みます。
逐一メンバーをルールで縛り、監視するコストも手間も少なくなります。メンバーは「何がこのチームでは正しいことか」を自分で判断し、自己規律を持って仕事にあたるようになるからです。

「この判断はこういうことですよね」
「このように準備を進めておきましたから」
「よく察してくれた!助かる!」

このような会話が頻繁に飛び交うチームは、「絵」を共有していて、仕事が速く、質も高いはずです。

一方、「絵」についてのズレが大きければ、仕事のやりなおし、手戻り、クレームが増えます。
表立った失敗にならなくても、顧客の満足や評判はゆっくりと下がり、業績に影響を与えます。

システム開発、イベント企画、製造業、どのような仕事でも同じです。
「3人目の視点」で絵を共有することが皆にとっての得になります。それが、組織の仕事と、顧客(社会)にとっての価値をつなぐ接点だからです。
価値が高まれば、報酬も増えます。

スポーツチームも同様です。
個々の技能に抜群に優れた集団でも、「全体の絵」(どう戦って、どう得点するか、どのようなプレーを表現したいか、観ている人にどのような感動を与えたいか)が曖昧ではチームの力は発揮されません。

上記レンガ職人のたとえ話は、ドラッカー自身もたびたび引用しているものです。
マネジメントの責任を担う人にとって、大切な視点を提供してくれるものだからです。

彼は、こう言います。
「組織にはたらく者は共通の目標のために貢献する。彼らの動きは同じ方向に向けられ、その貢献は隙間なく、摩擦なく、重複なく、一つの全体を生み出すように統合される。事業が成果をあげるには、一つひとつの仕事を事業全体の目標に向けなければならない。」

ここで言う「一つの全体」が、事業全体の目標であり、たとえ話でいえば「多くの人々が笑顔で集まれるような、素敵な教会の建設」という事業目標です。

日産自動車を再建したカルロス・ゴーン氏が、著書の中で、興味深い発言をしています。
当時の日産自動車には、戦略的なことから、組織風土やコミュニケーションに関することまで、数多くの問題が山積しており、その対応をどうするか問われた際の一言です。

「よいクルマが、すべての問題を解決する」

個々の問題を一つずつつぶすのではなく、日産自動車にとっての「目指す絵」である「よい車を作る」という目的に意識をもう一度集めることで、自然に個々の問題や、認識のズレが解消されやすくなるという考え方です。
当時の日産は、「よいクルマを作ろう」という基本的な絵、目的すらも曖昧で、技術、開発、営業(販社)、生産、マーケティングといった個々のセクションが部分最適な仕事を「極めて高い技量で」運営している状態でした。

消費者を感動させる様々な製品を世に送り出したアップル創業者で元CEOの故スティーブ・ジョブズ氏も「最初に『絵』ありき」の人でした。
彼が新製品を企画する際に使ったのはパワーポイントなどの細かい説明資料ではなく、「その商品を使って生活を楽しんでいるユーザ」をイメージした写真でした。なぜか、文字で伝えるよりも、開発メンバーに「何がこの製品の価値か」「何が大切か」「何が優先順位か」が明確にメッセージとして伝わったと言います。

2人目のレンガ職人であれ、1人目のレンガ職人であれ、気持ちの奥底では、「3人目でありたい」という願望を持っています。
本人も気づいていないかもしれませんが、仕事を通じて誰かに喜んでもらいたい、価値を感じてもらいたいという欲求は共通のはずです。
大切なのは、マネージャーがその接点をさりげなく作ってあげることです。

皆さんの会社ではいかがでしょうか。
忙しい日常の中、業務や技能の話だけに終始してしまっていませんか。
皆さんの会社や組織にとっての「3人目のレンガ職人の視点」は何でしょうか。あるいは、2人目の視点から脱しきれていない例はありませんか。
たとえ話を使うことで、リラックスして課題を見つめ直すことができます。
ぜひ、試してみてください。

次回は7月4日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

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