第20回 なぜあのマネージャーの「目的」には皆がついて行くのか?

「満員電車の乗客は、『他人の集まり(いわば群衆)』です。しかし、ある瞬間にその群衆が『組織』『チーム』に変化します。それはどんな瞬間でしょうか?」

これもよく研修やコンサルティングの現場で話させてもらうたとえ話です。
「急に車内で災害が発生したとき」
「急病人が出たとき」
といった答えが出されます。

まさしくそのとおりで、例えば、満員電車で妊婦の方が急に倒れたとします。
その瞬間、「この人(と赤ちゃん)を助けなければ!」と考える「群衆」は一気に「チーム」に生まれ変わります。
誰々が車掌に連絡をする、社内でお医者さんがいないかどうか確認する、といった形で協働体制とコミュニケーションが発生します。

群衆とチームを分けるのは、このように

  1. 「共通の目的」
  2. 「協働する意思」
  3. 「コミュニケーション」

の3条件が揃うことだと言われます。

社名も社屋もなくても、3点がそろえば、その目的を完遂するまでは立派な「組織」であり、「チーム」です。
逆に、同じ会社の、同じ部署にいるメンバー同士でも、この3点が満たされていなければ、残念ながら「群衆」です。
同じ部署にいながら、「目的」を共有していない(しようとしていない)、協働・協力を避ける、真の意思疎通としてのコミュニケーションができていない、といった状態では、組織とは言えず、極論すれば単に人が近くで働いているに過ぎません。

特に重要なのが、最初の「目的」の共有です。

多くのマネージャーが
「目的は明確なはずだし、伝えているのだけど、なかなか部下が動いてくれなくて。」あるいは、
「部下がなかなかモチベーションを上げてくれなくて。」
という悩みを抱えています。

「目的」の共有について、マネージャーと部下の間にあるギャップとは何でしょうか? 誤解を恐れずに言えば、「部下がその目的を『好き』だと感じる表現ができているかどうか」の差です。

多くの人をチーム活動に巻き込み、協力と貢献を集められるマネージャーは、「目的の設定と表現」にこだわります。
聞き手が「好感」「共感」を抱く形で目的を伝えています。
会社の上層部から振られた達成目標をそのまま(自分自身も納得がいかないまま)部下に命じるようなスタンスは絶対にとりません。

先日お話を聞いたあるスクールカウンセラーの方は、子供の「やる気」が高まるには、「目的が分かり、さらにその目的を『好き』だと思うこと」が条件だと言われていました。

子供も大人も同じ人間。感情に左右されます。機械的に与えられる目的・目標を好きになれるわけもなく、たとえ従ったとしても創造性の高い自発的な仕事は期待できません。

では、どのような「目的」が聞き手の共感・好感を生むのでしょうか。
ドラッカーは、マネジメントの目的について、

  1. その組織特有の使命を映していること(組織使命の視点)
  2. 人の能力を活かし、人を成長させること(個人の視点)
  3. 社会の問題解決に貢献すること(社会の視点)

の3点が重要な視点だと述べています。

人が好感を持ち共鳴する「目的」も、根本的にはこの3要素を満たしているものだと私は考えています。

すなわち、

  • 「この組織だからこそやれる、やるべきだ」
  • 「自分の能力が活かせそう、すごく成長できそう」
  • 「社会に対して価値ある仕事ができそう」

というメッセージを直感的に受け取れば、メンバーのモチベーションは高まるはずです。

3点目の「社会の問題解決につながる」という条件については、特に重要性が見直されています。
利益や業績以外の、「社会に対する貢献」「共通善への貢献」に多くの人がますます価値を見いだしているからです。
冒頭の満員電車の急病人の例でも、電車の乗客たちを突き動かすのは理屈やお金ではなく、「正しいことをしたい」という本能的な欲求であるはずです。

ドラッカーはこうも言います。

「コミュニケーションを成立させるのは受け手である。」

受け入れがたいことですが、どんなに目的を伝えたつもりでも、受け手の中に入り込んでいなければその目的伝達(コミュニケーション)は失敗です。

皆さんの組織でもぜひ確認してみてください。
その「目的」は、メッセージの受け手であるメンバーが聞いていて奮い立つような、好感が持てるような目的でしょうか?違和感があれば、目的の置き方と表現を上記に照らして再考してみてください。
コミュニケーションも、仕事の協力体制も格段に良くなっていくはずです。

【書籍出版のお知らせ】

いつも、「『創造』するマネジメント 〜ドラッカーから学んだ実践経営学〜」
をお読みいただきありがとうございます。
本コラムに書かれているようなマネジメント論をまとめた書籍を、7月19日に上梓(じょうし)いたします。

「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
藤田 勝利 著

ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント(amazon.co.jp Webサイト)

是非お読みいただき、ご意見・ご感想をいただければ嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。

次回は8月1日(木)の更新予定です。

関連するページ・著者紹介

この記事のテーマと関連するページ

基幹業務システム SMILE V 2nd Edition 人事給与

人事管理から定型の給与計算業務までをフルサポート。自由項目を利用した独自の人事情報や、履歴情報を管理することで、人事異動の判断材料などにご活用いただけます。

この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

公式Facebookにて、ビジネスに役立つさまざまな情報を日々お届けしています!

お仕事効率研究所 - SMILE LAB -

業務効率化のヒントになる情報を幅広く発信しております!

  • 旬な情報をお届けするイベント開催のお知らせ(参加無料)
  • ビジネスお役立ち資料のご紹介
  • 法改正などの注目すべきテーマ
  • 新製品や新機能のリリース情報
  • 大塚商会の取り組み など

ページID:00077837