第22回 今こそ、「真摯さ」について語ろう

ドラッカーの著書を初めて読む方の多くが、共通して「すごく印象に残った」と言われるくだりがあります。以下の、「真摯さ」に関する箇所です。少し長いですが、引用します。

「人のマネジメントに関わる能力、たとえば議長役や面接の能力は学ぶことができる。管理体制、昇進制度、報酬制度を通じて、人材育成に有効な施策を講ずることもできる。だが、それだけでは十分ではない。スキルの向上や仕事の理解では補うことのできない、ある根本的な一つの資質が必要である。人としての真摯さである。最近は、愛想をよくすること、人を助けること、人付き合いをよくすることが、マネジメントの資質として重視されている。だが、そのようなことで十分なはずがない。
事実、うまくいっている組織には、必ず一人は、手をとって助けもせず、人付き合いもよくない者がいる。この種の人間は、気難しいくせにしばしば人を育てる。好かれている者よりも尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。自ら知的な能力を持っているが、真摯さよりも知的な能力を評価したりはしない。」
(ドラッカー著「経営の真髄 (Management)より)

彼の考え方の中には、知性・知識・技能よりも大切なこととして、この「真摯さ」があります。真摯さとは何でしょうか。

原著では、真摯さに該当する単語は主に「Integrity」が使われています。「Integrity」には「誠実」「高潔」という意味もあります。確かに、英語で「Integrityがある人」と言えば、高潔な人格を持った立派な人、という意味で最上級に近い褒め言葉です。

しかし、ドラッカーは、「マネージャーは高潔な人であれ」ということを言いたいわけではない(と私は思います)。大事なのは、Integrity のもっとシンプルな訳である「一貫性」の方です。では、「一貫性があるマネージャー」とは何でしょうか。それは、

「その組織として、自分自身が人間として、正しいと思うことを、あらゆる軋轢(あつれき)や障害を乗り越えてでも、一貫して目指す人」

だと私は思います。

その会社の掲げる理念に共感して入社しても、現場ではその気持ちが折られてしまう様々な障害が存在します。組織間の軋轢やカベ、制度や権限のカベ、人間関係、人事評価、業績数字プレッシャーによる制約・・当初の志や自分の目的を危うくする多くの問題が存在するわけです。

しかし、そういった制約や壁に負けてしまうと、社員の仕事も行動も、どんどん本来の「価値」から離れていってしまう。だからこそ、「マネージャー」にはぶれない一貫性が求められるのです。

「この会社の、この組織の理念に照らして本当に正しい判断とは?」
「目先の利益を越えて、顧客の喜びや満足を高めるために本当に重要なことは?」

これらを一貫して考えて行動できる人には、多くの仲間がついてきます。そうでない人は、一時的に業績や評価を伸ばせたとしても、顧客や仲間の信頼を得ることはできず、成果も長続きしません。

上記のドラッカーの言葉にあるように、組織にも自分にも一貫して「高い水準の仕事」を要求する人、自ら背中を見せて高い水準に挑もうとする人は、結果として多くの人に気づきを与え、人を育てます。

もちろん、簡単なことではありません。「誰が正しいか」ではなく「何が正しいか」を一貫して貫こうとすると、社内はもとより、場合によってはお客様とも「激論」になることがあります。例えば、目の前のお客様自身が保身に走り、全体の利益と反する判断をしそうになっているとき、などです。率直な意見をぶつけることで営業機会を失うかもしれませんが、それでも堂々と議論をできる人がいます。仮に、その場では一時的に言い争いになっても、あとになって「あのような本音を率直に言ってくれる営業はあなただけです」と思ってもらい、お客さんとさらに強い信頼関係が築けた、という例が多いのも事実です。

企業でも、部門でも、学校でも、お役所でも、スポーツチームでも、どのような組織でも共通するマネジメント原則です。一貫してその組織が本来目指している価値を貫くことを目指し、少々の軋轢や逆風にひるまない。そうすることで、「顧客からの強い信頼」「メンバーがその組織に感じる誇りや働きがい」「後輩たちの技能的・人格的成長」といった何にも代え難い大切なものが得られます。奇しくも、いま、多くの企業で失われていて、どの会社も欲していることばかりです。

「真摯さ」(Integrity/一貫性)が組織を活性化させるために、何より大切な鍵である理由をご理解いただけたかと思います。業務や組織が複雑化する今こそ、この「真摯さ」というシンプルな原則に立ち返ることで、大きなブレークスルーがあるのでないでしょうか。

以上

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今後も、どうぞよろしくお願いします。

次回は10月3日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

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