第10回 多くの組織で見落とされている「チーム創り」の原則

「メンバーの主体性が高まらない」
「社員のモチベーションが低い」
「言われたことしかやらない」

組織のリーダーやマネージャーから頻繁に聞かれる悩みです。
「仕事のミッションや、全社・部署目標も伝えているのに」というのが皆さんの言い分です。
しかし、ここには重要な点が抜け落ちているように感じます。

私は、企業の幹部やマネージャーの方に話をさせていただく場合、あるエピソードを紹介させてもらいます。
それは、一昨年に発生したチリ落盤事故で33名が無事に救出された出来事の背景にあった「マネジメント」の大切な基本原則についての話です。

この事故での奇跡的な救出劇の背景の一つに、現場リーダーのルイス・ウルスワさん(写真)が沈着冷静にリーダーシップを発揮したことがあります。

極限のストレスがかかり混乱状態になりやすい中で、ウルスワさんの指揮により、メンバーは「睡眠」「労働」「余暇」の8時間ずつのサイクルを守るようにしました。
そして、「労働」においては、それぞれのメンバーの性格や強みを考えながら、「食料の確保と配分」「衛生」「地上との通信」などの目的ごとに小チームに分け、チームリーダー・責任者を明確にしました。
そして、「このチーム、このリーダーでなければできない極めて重要な役割と期待」を与えたと言います。

救出前に、地下でこのような「マネジメント」が行われていると聞き、私は極めて理にかなっていると感じました。
一つ間違えれば、食料の奪い合い、絶えない争いにより、自滅してしまう状況になってもおかしくありません。
また、あのような過酷な状況では、目標やルールを言い聞かせるだけでは絶対に機能しません。
各々が、その個性・資質・強みに合った「自分にしかできない、重要な役割と使命」を認識することで、貢献にメンバーの焦点が合い、全体としての成果につながります。

ちなみに、このウルスワさんが救出された際、NHKのニュースで彼がドラッカーの「マネジメント」の愛読者であったという報道がありました。ただ、事実関係は定かではありません。

いずれにせよ、ドラッカーのマネジメント理論で原則になっているのは、

「おのおのの人間に価値ある役割を与えることで、貢献と責任に意識を向かわせることがマネジメントの最も重要な仕事である」

ということであり、ウルスワさんの行ったことはその原則にかなっていました。

メンバーが

「これが自分に期待されている役割だ」
「自分だからこそ、こういう貢献を期待されているのだ」

という思いを実感できなければ、決してモチベーションや当事者意識は高まりません。
多くの会社で、「仕事を割り振っている」という機械的な感覚から抜け出せず、「あなただから、この役割を期待している」という人間の貢献意欲を根本から鼓舞するメッセージが抜け落ちてしまっているように感じます。
全体の目標やゴールの話だけをされても、個々人には「遠い」と感じてしまうことが少なくありません。

「マネジメント」は教科書で学ぶものではなく、現場で実践してチームとしての成果を上げるためのものです。
そのために、「意義ある共通の目標」と「個々人に期待する崇高な役割」がリンクすることが大切です。
個人の側にも奮い立つ、意気に感じる大切な役割が与えられないと人は自発的に動かないからです。

複雑な組織マネジメント理論よりも、基本原則を追求していく方が賢明です。
炭坑の英雄たちが証明したことから、私たちが仕事や生活ですぐに活かせる大切なヒントを得られる気がします。

次回は10月4日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

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