第11回 誤解されている「目標管理」

皆さんは、「Management by Objectives (MBO)」という言葉を聞いたことがありますか。
日本語では、「目標管理」と訳されることが多い言葉です。
多くの会社で、人事評価・業績評価に使われる「ツール」というイメージも強いかもしれません。

この「MBO」は、ドラッカーの考え方をベースにしています。
本人をして「マネジメントの哲学」と言わせる程、重要な基本原則なのですが、そもそもドラッカーがこの言葉にこめた思いが正確に理解されず、誤った使われ方をしていることが目立ちます。
二つの点から、その誤解を解きたいと思います。

まず一点目は、「目標を管理する」ことではなく「目的や目標によってマネジメント(経営)していく」ことがその言葉の本質だということです。

組織には多くの優秀な専門家がいますし、現代組織は特に構造が複雑になりがちです。その中で、個々の事業や仕事の目的・目標を全メンバーで意識的に共有していくことが欠かせません。
どんなに優秀なプレイヤー・専門家でも、知らず知らずのうちに部分最適な視点に陥り、事業本来の目的からそれてしまい、個々人のスキルや組織の力が発揮されないことが多いからです。

しかし、実際にはこの「MBO」を、「目標値や目標テーマを管理していく」という風に誤って認識しているケースが多いです。
これでは、本来の願いとは逆に、ますます部分的な視野から抜け出せなくなってしまいます。「シートに目標値や文言を埋めて提出すればよい」、あるいは「この社員の目標値は組織バランス的にはこの辺りだろう」といった本来の趣旨と違う使われ方も増えてきます。
「目標値」「データ」をやりとりすることよりも、「この業務は全体目標と合致しているだろうか?」「そもそも全体の事業目的や目標はメンバーと本当に共有できているだろうか?」という問いかけをしながら、人間と人間の間で真の目的を確認し合うことの方が遥かに大切です。確認し合うプロセスで、自然と目的が合ってくるからです。

そして二点目。
正確には、この言葉は、「Management by Objectives and Self Control」といいます。
後半の「Self Control」 が大切なのです。「目標と自己管理によってマネジメントする」ということは、全体の目的・目標を共有し、さらに「社員が(「やらされ」ではなく)自発的に、自己規律によって」働ける組織にしていくことが最も理想的だという考え方です。

昨今は、事業環境の変化が激しく、企業の業績も伸び悩みがちです。
そういう中、利益を捻出するためにますます多くのルールや制度を導入する企業が少なくありません。
社員は、あまりに多くのルール・統制の中で自由な発想を持ちにくいのが現状ではないでしょうか。
そのうえ、「MBO」「目標管理」までがツール化・ルール化してしまっては、まさに本末転倒です。

「論語」にも、このような言葉があります。

「子曰、道之以政、齊之以刑。民免而無恥。」
〈子曰く、之を道(みちび)くに政(まつりごと)を以てし、之を斉(ととの)うるに刑を以ってすれば、

民免(まぬが)れて恥づる無し〉

法律や命令だけの政治で人民を指導し、人民を規制しようとし、これに従わないときは刑罰を以って
臨むなら、人民はその刑罰を免れさえすればよいとして、悪いことを恥ずかしいと思わなくなる。
大義、道徳をもって統治することの大切さを説いています。

ルールや制度で縛っても、本当に価値のある創造的な発想やアイディアは生まれにくい。
「悪いこと」まではしないとしても、社員の思考・行動基準が「ルールを守っていればよい」という低い水準に下がりやすくなります。
変化の時代にこそ、「目的」を常に確かめ合う風土や、「社員の自発的な自己規律」を促すマネジメントが求められます。

皆さんの職場では、いかがでしょう。あふれる業務ルールは、すべて本当に必要なものでしょうか。
目的にかなったものでしょうか。

思いきって棄てられるルールは棄て、社員の自発性が発揮できるスペースを空けることで思わぬアイディアや発想が生まれるかもしれません。是非、一度社内で意見交換してみてください。

次回は11月8日(木)の更新予定です。

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この記事の著者

PROJECT INITIATIVE株式会社 代表取締役

藤田 勝利

1972年生まれ。上智大学卒業後、住友商事、アクセンチュアを経て、クレアモント大学院大学 P.F ドラッカー経営大学院にて経営学修士号取得。ベンチャー企業執行役員として事業開発に従事後、2010年独立。次世代経営リーダー育成や新規事業の分野で幅広く活動中。著書:「ドラッカー・スクールで学んだ本当のマネジメント」(日本実業出版社)
PROJECT INITIATIVE株式会社

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