第121回 アカウントプランは「できるかどうか、どうやってやるか」を悩むから価値がある

受注獲得計画(アカウントプラン)を作成する営業が増えています。顧客の経営課題や予算、組織や決裁者、競合を考えて、どうやって受注を獲得するかという計画です。しかし、実態はただの一般的な営業プロセスを並べているだけで、実行できる計画になっていない。今回は実行し、成果を上げるためのアカウントプランについてお話しします。

アカウントプランは「できるかどうか、どうやってやるか」を悩むから価値がある

期が変わりアカウントプラン(顧客から受注を獲得する計画)を考えている営業の人が多いことでしょう。
ちゃんと実行できるアカウントプランを作っていますか?

一生懸命に時間をかけて作ったアカウントプランを見てみると、実行できない、意味のないものが多い。

ある営業が考案した、陥りがちなアカウントプラン

Web会議システムの営業担当Aさんがアカウントプランを作っていました。

お客さんはモーターメーカーのリーディングテクノロジー。
昨年、営業本部に購入してもらい、今期は研究本部に営業してWeb会議システムの受注を獲得したい。

リーディングテクノロジーとは大阪支社の営業企画部長と接点があり、Aさんが考えたアカウントプランは……

リーディングテクノロジーの経営課題

リーディングテクノロジーのIR資料で調べてみると……

  • 自動車や家電メーカーの高度化する需要に対応するため、研究開発を強化する。
  • 地域別、取引先別の提案力を強化し、新製品の販売を促進する。

リーディングテクノロジーの拠点や組織

ホームページを見てみると……

  • 本部は、営業本部と研究本部とに分かれている。
  • 営業本部の中に東京支社と大阪支社とがあり、それぞれに営業企画部がある。
  • 研究本部は東京にある。
  • 研究本部の中の先端技術研究部と研究推進部も東京にある。
  • 研究本部の中の商品開発部は、東京と大阪、中国、ドイツにある。

リーディングテクノロジーの投資について

大阪支社の営業企画部長に聞いてみると……

  • 営業本部は今期の投資は抑える。
  • 研究本部は投資を増やして、技術者の採用を強化するらしい。

研究本部の状況

大阪支社の営業企画部長に聞いてみると……

  • 研究本部では4年前にWeb会議システムを導入したけれど、機能が足りず不満らしい。
  • 研究推進部が研究本部のシステム導入を担当していて、IT企業との取引も多いらしい。

そこで、Aさんが作ったアカウントプランは、

5月:営業企画部長から研究推進部の紹介を獲得
6月:研究推進部との面談で当社のWeb会議システムを紹介
7月:研究推進部に研究本部で使っているWeb会議システムの問題点をヒアリング
8月:研究推進部にWeb会議システムを提案
9月:研究推進部から研究本部の受注を獲得

みなさん、Aさんが作ったアカウントプランについて考えてみてください。

ちゃんと実行できるのでしょうか?
受注を獲得できるのでしょうか?

意味のあるアカウントプランとは何か

Aさんに聞いてみました。

大阪支社の営業企画部長から東京の研究推進部を紹介してもらえるの?
どうやって紹介してもらうのか? お願いしたら紹介してくれるの?

研究推進部は当社のWeb会議システムを気に入ってくれるの?
どうやって気に入ってもらうの?

研究本部は投資を増やすそうだけど、Web会議システムの予算をとっているの?
予算をとっていないのであれば、どうやって予算をとらせるの?

研究推進部はIT企業との取引も多いらしいけど、コンペにならないの?
コンペになるのであればどうやって勝つの?

すると、Aさんは、
「紹介してくれるか分かりません、取りあえず営業企画部長にお願いしてみます」
「気に入ってくれるか分かりません、取りあえず紹介してみます」
「予算をとっているかは研究本部と接点がないので分かりません、会った時に聞いてみます」
「コンペになるかは分かりません、コンペになった時に考えます」

???アカウントプランを作った意味はあるのだろうか???

計画(プラン)とは……目的に対し、あらかじめ達成する方法や手順を考えること、目的を達成するための企ての内容。

Aさんのアカウントプランの場合……リーディングテクノロジーの研究本部に営業して、Web会議システムの受注を獲得するという目的を達成する方法や手順、達成するための企ての内容でなければなりません。

つまり、できるかどうかを考え、どうやってやるかを考えるものであり、一般的な営業プロセスを書くものではありません。

できるかどうかを考え、どうやってやるかを考える

例えば……

できるかどうか?

  • 研究本部のシステム導入を担当している研究推進部と接点のある大阪支社営業企画部長は、組織も本部が異なり、拠点も離れている。
  • 営業企画部長から研究推進部を紹介してもらうのは難しいかもしれない。

どうやって紹介してもらうか?

  • 大阪支社の営業企画部長から拠点が同じ大阪支社の商品開発部を紹介してもらえないか?
  • そして、大阪支社の商品開発部から研究推進部を紹介してもらえないか?

地域別、取引先別の提案力を強化し、新製品の販売を促進しているから営業本部と商品開発部が連携して自動車メーカーに提案している可能性があるだろう。
大阪支社では営業企画部長と商品開発部の接点はあるだろう。

高度化する需要への研究開発を強化しているから顧客の要望に対し、開発を行う商品開発部と先進的な研究を行う先端技術研究部の連携は必要だろう。
大阪支社の商品開発部と先端技術研究部や研究推進部の接点もあるだろう。

できるかどうか?

  • 研究推進部では取引しているIT企業が多い。
  • 大阪支社の商品開発部から単純にお願いして紹介してもらおうとしても「既に取引しているIT企業がある」と断られるかもしれない。

どうやって紹介してもらうか?

  • 研究推進部が会いたいと思うネタを作らないといけない……。
  • 高度化する需要への研究開発を強化して、地域別、取引先別の提案力を強化しているから、営業本部と商品開発部と先端技術研究部の情報共有は重要だろう。

単純にWeb会議を紹介したいと言っても断られるかもしれないけど、顧客情報と研究開発情報の共有と有効活用という提案を切り口にすれば紹介してもらいやすいかもしれない。

すると、「営業企画部長から大阪支社の商品開発部を紹介してもらう」
そして、「大阪支社の商品開発部から研究開発推進部を紹介してもらう」
そのためには、「顧客情報と研究開発情報の共有と有効活用という提案」を考える。

Aさんが作ったアカウントプランと比べてみてください。
Aさんは「紹介を獲得」「Web会議システムを紹介」「Web会議システムの問題点をヒアリング」「Web会議システムを提案」と言っていますが、できるかどうかも考えていないし、どうやってやるかも考えていない。

受注を獲得する計画であるアカウントプランで最も大切なものは、一般的な営業プロセスの羅列でなく、受注獲得に対する課題と対策(個別対策)である「できるかどうか、どうやってやるか」にこだわり、考えることです。

この最も大切な個別対策をこだわらず、考えずにアカウントプランを作成しても意味がありません。
アカウントプランは、アプローチ、予算、組織、競合……「できるかどうか、どうやってやるか」にこだわり、悩み、考えることに価値があるのです。

アカウントプランを作成する方法と手順は……

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次回は6月19日(月)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
株式会社セントリーディング

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