第120回 お客さんの経営課題は業界、競合、需要の三つの情報から考える

課題解決型営業、戦略営業、アカウントプランや仮説提案……いずれも顧客の経営課題を把握することは大切です。しかし考えられない、考えてもただの一般論で使えない。経営課題を考えられない、理解できない原因の一つはその背景となる市場環境の情報収集です。今回は経営課題を考えるための市場環境の情報収集についてご紹介します。

お客さんの経営課題は業界、競合、需要の三つの情報から考える

多くの会社で要望を聞いてくるだけでなく、自らお客さんの課題や提案の仮説を考え積極的に提案する営業が求められています。しかし、なかなか仮説を考えられない……。

工場向け技術者教育システムの営業担当Aさんが、化学メーカーのセントコーポレーションに対する受注獲得計画(アカウントプラン)を作成していました。まずは、セントコーポレーションにどんな提案ができるのか?

顧客の市場環境や経営課題を調べる

Aさんは、上司のBさんから「提案はお客さんの市場環境や経営課題を調べてから考えるんだよ」と教えてもらい、インターネット検索やお客さんのホームページで市場環境や経営課題を調べ、技術者教育システムに関する課題と提案の仮説を考えていました。

Aさんの仮説は……

市場環境

  • 製造業では、採用競争が激しく技術者の採用は難しい。
  • 化学技術の進歩により新素材の開発が進んでいる。
  • 化学業界では、低機能で安価な製品と高機能で高価格な製品の二極で競争が激しい。

セントコーポレーションの経営課題

  • 技術者の減少に対し、少人数での生産体制を整備。
  • 高機能製品に対応できる技術者を育てる教育体制の整備。

セントコーポレーションの生産現場の状況

  • 生産工程の中で自動化できる部分はIoTを進めて無人化、省人化を進める。
  • 人で作業しないといけない部分に人材を集中して技術力の高い若手社員を育てる。

セントコーポレーションの課題

  • 熟練技術者の高度な技術を動画で習得させる必要がある。
  • 勘と経験ではなく、作業方法をマニュアル化して教育する必要がある。

セントコーポレーションへの提案

  • 若手社員に対し、作業マニュアルと動画で勉強できる環境を整備。
  • 工場内にカメラを設置し熟練技術者の作業を撮影し、製品や工程ごとに作業方法の動画を作成する。
  • 動画ごとに熟練技術者にヒアリングして、作業方法や注意事項など作業マニュアルを作成する。

出来上がった提案書は一般論を並べたもの

上司Bさんに見てもらうと……

上司Bさん
「これって、ただの一般論じゃないか」
「化学メーカーのセントコーポレーションじゃなくて、自動車メーカーでも、食品メーカーでも変わらないだろう」
「この仮説の中の『生産』っていう言葉を『施工』、『工場』を『建設現場』、『技術者』を『作業者』に変えれば建設会社でも該当してしまうぞ」
「ちゃんとセントコーポレーションについて調べないとダメだろう」

Aさん
「ちゃんと調べたんですけど……」
「セントコーポレーションのIR資料に『生産体制の再構築』とか、『教育体制の整備による高度な技術者の育成』って書いてあったんです」

しかし……

Aさんの提案は
「若手社員に対し、作業マニュアルと動画で勉強できる環境を整備」

Aさんが考えた課題は、
「技術者の減少に対し、少人数での生産体制を整備」や「人で作業しないといけない部分に人材を集中して技術力の高い若手社員を育てる」「勘と経験ではなく、作業方法をマニュアル化して教育する必要がある」

「生産」を「施工」、「技術者」を「作業者」に言葉を変えると、
「作業者の減少に対し、少人数での施工体制を整備」や「人で作業しないといけない部分に人材を集中して技術力の高い若手社員を育てる」「勘と経験ではなく、作業方法をマニュアル化して教育する必要がある」

自動車メーカーでも、食品メーカーでも、建設会社でも……どの業界でも該当するし、変わらない。
セントコーポレーションに対する課題や提案ではなく、ただの一般論。

なぜ、Aさんの仮説はただの一般論になってしまったのでしょうか?
理由は複数ありますが、みなさんも探してみてください。

市場環境のTCNから経営課題を見いだす

ここで、Aさんが調べた市場環境について考えてみましょう。

Aさんが、調べた市場環境は、

  • 製造業では、採用競争が激しく技術者の採用は難しい。
  • 化学技術の進歩により新素材の開発が進んでいる。
  • 化学業界では、低機能で安価な製品と高機能で高価格な製品の二極で競争が激しい。

この三つの情報だけで考えると、

  • 技術者が採用しづらいため少人数で対応するか、未経験者を育てるか。
  • 新素材の開発を進め製品の高機能化を進める。

すると考えられることは「高度な技術を持つ技術者を社内で育てる」ぐらい。

この三つの情報に加えて、下の二つの情報があったらどうなるでしょう?

  • 高機能製品に対する需要が拡大している(取引先の自動車メーカーや設備機器メーカーが軽量化や省エネを進めているため)。
  • アジアや南米での需要が拡大している(取引先の自動車メーカーや設備機器メーカーがアジアや南米の生産を強化しているため)。

すると「アジアや南米に進出し、現地での技術者の確保と高機能製品に対する教育で技術力を強化し、自動車メーカーや設備機器メーカーに対するシェアを拡大する」
というように一般論でなくセントコーポレーションについて考えられます。
少なくとも自動車メーカーや食品メーカー、建設会社には該当せず、化学メーカーのことを考えられます。

Aさんが調べた市場環境の情報は業界の傾向と競争の状況の二つだけでした。

「採用競争が激しく、技術者の採用は難しい」や「化学技術の進歩により新素材の開発が進んでいる」という業界の傾向。
「低機能で安価な製品と高機能で高価格な製品の二極で競争が激しい」という競争の状況。

そして、「高機能製品に対する需要が拡大している」「アジアや南米での需要が拡大している」という顧客需要の状況に関する情報がありませんでした。
その結果、ただの一般論になってしまったのです。

市場環境(お客さんを取り巻く環境)の情報を下の三つの視点で集めると、お客さんの経営課題をより適切に考え、理解することができます。

市場環境のTCN

Trend
業界の傾向
Competitor
競争の状況
Needs
顧客需要の状況

アカウントプランや提案では、お客さんのビジネスがどのように変わっていくのか? お客さんが何に力を入れていくのか? を考えることは大切です。

そのために、Trend、Competitor 、Needs の「市場環境のTCN」を調べ、考えましょう。
一般論では、お客さんに対する有効な攻め方も、興味を持ってもらえる提案も作れません。

市場環境のTCNから経営課題を考える方法は……

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次回は5月15日(月)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社セントリーディング 代表取締役社長

桜井 正樹

セールス・マーケティング企業で15年以上、法人向け提案型・課題解決型営業を専門にコンサルティング、アウトソーシング、教育事業に携わり、株式会社セントリーディング設立。IT企業、設備機器メーカー、販促・マーケティング会社など150社以上の営業強化を経験。
株式会社セントリーディング

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