第137回 「人的資本経営」で必要な「組織価値観・組織風土」の維持・強化

最近、「人的資本経営」というキーワードを見聞きする機会が増えているのではないかと思います。そもそも「人的資本経営」が、なぜ今声高に叫ばれているのか? 「目に見えない資産・インタンジブルアセット」の代表的な一つである「組織価値観・組織風土」への取り組みのあり方を考えていきます。

「人的資本経営」で必要な「組織価値観・組織風土」の維持・強化

こんにちは!

最近、「人的資本経営」というキーワードを見聞きする機会が増えているのではないかと思います。

経済産業省は「人的資本経営とは、人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です」と定義しており、2023年3月期決算から、上場企業などを対象に「人的資本の情報開示」が義務化されたことで、いろいろな形で目にする機会が増えてきた要因の一つではないかと思います。

そもそも「人的資本経営」が、なぜ今声高に叫ばれているのか? また、これは大手企業だけの問題なのか?という視点と併せて「目に見えない資産・インタンジブルアセット」の代表的な一つである「組織価値観・組織風土」への取り組みのあり方を考えていきます。

今、なぜ「人的資本経営」なのか?

経済産業省主導の「人的資本経営コンソーシアム」設立趣意書には以下のように記されています。

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」への注目が高まっています。2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードには、人的資本への投資について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ具体的に情報を開示するべきであること等が記載されました。
~中略~
企業価値評価における人的資本の重要性が高まる中、企業による人的資本情報の開示の在り方についても国内外で議論が進んでいます。日本では、有価証券報告書において、中長期的な企業価値向上における人材戦略の重要性を踏まえた「人材育成方針」や「社内環境整備方針」について記載することや、女性管理職比率、男女間賃金格差等を具体的な開示項目とすることなど、人的資本に関して一歩踏み込んだ情報開示の在り方が議論されています。
~中略~
経営陣が自社の中長期的な成長に資する人材戦略の策定を主導し、実践に移すとともに、その方針を投資家との対話や統合報告書等でステークホルダーに説明することは、持続的な企業価値の向上に欠かせません。
~後略~

小難しく見えますが、簡単に言えば、労働生産性人口の縮小が不可避な現実を考えると、

  1. 新卒採用が難しくなる
  2. 若年層社員の離脱リスク→人員補充の困難性
  3. 既存社員の高齢化→定年退職/ノウハウの消失リスク
  4. ロボット・AIによる汎用(はんよう)業務代替領域拡大

などが挙げられ、故に「従業員にとって、どのような考え方をしている組織であるのか?」を明確にし、その指標も定めて計測していることが、投資家や株主にとっても、その企業の成長性や将来性を考慮した判断ができる。そのために必要な要素として「人的資本経営」に注目が集まっているのではないでしょうか。

だとすると、これは「大企業」だけにとっての取組課題なのでしょうか……。前述の(1)~(4)の項目を見てみると、「大企業」以上に「中堅・中小企業」にとっての方が切実で切羽詰まった課題のような気がします。

インタンジブルアセットとは「見えない資産」

事業を進めるうえで、物理的資産/タンジブルアセットとしては、製品そのものやサービス、それらを製造する設備、さらには財務指標としても明示される金融資産などが挙げられます。

それに対して「インタンジブルアセット」とは「見えない資産」であり、

  • 人材
  • 知的資産
  • 共通の価値観/組織風土
  • 働きがい
  • リーダーシップの質

といったものが挙げられ、これらがイノベーションやアイデアの源となり、その結果として、コーポレートブランドやレピュテーション(評判)につながっていくとの考えが成り立ちます。

人材/モチベーションやリーダーシップに関してはこのコラムで何度も取り上げていますので、今回は「組織価値観・組織風土の維持/強化」に関して取り上げてみます。

「組織価値観・組織風土の維持/強化」は不断の努力から

「組織価値観・組織風土」は、多くの場合(特にオーナー企業の場合)、その経営者の人生観・価値観・職業観といったものの見方・捉え方が大きく反映されていくものでした。終身雇用や年功序列が一般的だった時代には、毛色の違う新入社員が入社してきても、組織の中での日々の判断や意思決定に触れていく中で、良きにせよ悪しきにせよ、徐々に、あるいは知らず知らずのうちに、その組織における価値観や風土に染まっていったものです。

ところが時代が変わり、転職による人材の流動化が一般的になっていく中では、そうした組織価値観や風土を理解できずに、その齟齬(そご)に苦しむことが増えて、お互いに不幸を招く結果になってしまうことも考えられます。そんな中で、楽天グループ出身の方から驚きの話を聞く機会がありました。

それは、毎週月曜に8~9時までの1時間を掛けて行う「朝会」の話でした。

最初に「朝会」と聞いた瞬間は、いわゆる「部署ごとの朝礼」的なことを想像したためピンとこなかったのですが、よく聞くとその「朝会」というのは、楽天グループ、つまり楽天市場だけではなく、楽天トラベル・楽天モバイル・楽天カード……といったグループ会社全体(おそらく18,000人規模)を対象にした「朝会」だと聞かされ、驚きました!

もちろん、全員が一堂に集まるということはできないわけですが、毎週持ち回りで、今週はトラベル社員がリアルに集まり、翌週はモバイル社員がという要領で集まり、他の方々はオンラインなど、自席から参加するそうです。

さらに指定されたテーマに沿って、各社がどのように取り組んでいるのかを5分程度のプレゼンをし、共有するそうです。この目的は、M&Aや大量の中途社員の存在を踏まえ、いかに企業としての風土・文化として何を大切にしているかの共有の場だということでした。

さらに驚いたのは、その毎週行われる「朝会」に三木谷社長は原則ほぼ毎回参加し、15分程、話をして、直接社員との質疑応答もあるそうでビックリです。出張や移動中でも、車などからも参加するそうですから、その徹底ぶりから、そこに賭ける本気度を感じます。

世の中的にもオープンになっているようですので、下記Webサイトもご紹介します。

楽天グループ株式会社 公式コーポレートブログ「楽天の企業文化を育んできた仕組みとは」

  • * 「朝会」への参加・不参加を、社員証読み取り装置によって記録しており、不参加の場合、人事評価でマイナスとなる。
  • * 「朝会」中は、PCをいじるなどは禁止されており、毎週の「朝会」冒頭にそのアナウンスがされる。

この例でも分かるように、組織価値観・組織風土を維持/強化していくのは、社訓やビジョンの唱和ではなく、トップの行動にひも付く覚悟・コミットの体現、継続が重要であるのではないでしょうか……。

皆さんは「自社の組織価値観・組織風土」は経営者の行動の「鏡」という認識をどの程度持っておられますでしょうか……。

今後もよろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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