第129回 経営の視点から見る「タイパ」

現在は企業経営も含めて、「タイパ」という表現が一般的になるように「いかに手っ取り早いか」が求められている事実があります。今回は、「タイパとのトレードオフで失うもの」がどのようなことなのか? ということを考えてみたいと思います。

経営の視点から見る「タイパ」

皆さん、こんにちは!

アッという間に、2022年のカレンダーも10月半ばとなってしまい、今年も残り2カ月余りのタイミングを迎えています。少し早いかとは思いますが、この1年の出来事を振り返る機会も増えていく時期に向かっていくわけで、今年も続いた新型コロナウイルス感染症の影響に加え、やはりロシアのウクライナ侵攻に始まり、中国の対台湾政策、北朝鮮の度重なるミサイル発射による挑発などは今後も引き続き大きな影響を及ぼすであろう出来事の始まりだったのではないでしょうか。

このような世界の出来事は、民主主義国家と社会主義国家との思惑の違いであったり、現在民主主義の国においてもポピュリズムの台頭という分断につながったりと、ますますお互いの主張の衝突が緊張を増す様相にあるように思います。

こんな時期だからこそ、私たちは改めて、自由主義であり、民主主義の中の企業経営の組織にいることの意味を理解し、どう考え、どうあるべきかを認識しておく必要があるのではないでしょうか。

現在は企業経営も含めて、こうした「正解のない問い」が増えてきており、その問いとどう向き合うかは非常に重要になってきています。一方で「タイパ」という表現が一般的になるように、「いかに手っ取り早いか」が求められていることも事実です。

今回は、こうした時代の流れの中で、「タイパとのトレードオフで失うもの」がどのようなことなのか……ということを考えてみたいと思います。

「タイパ」の弊害

最近、何かと目にする表現の一つに「タイパ」があります。
「コスパ」と同じ表し方で、コストパフォーマンスならず「タイムパフォーマンス」の略称です。倍速視聴に始まり、ファスト教養・ファスト家事、さらには働き方や子育てにまでその考え方はスタンダードになりつつあり、「石の上にも3年」なんてことはバカげた発想にしか過ぎないと捉えている人たちが増えているようです。

ある側面では「確かに!」と納得してしまう部分や、オンデマンド映像などをスキップしている自分がいるのも否めない現実として認めざるを得ません。また、日々の仕事もスピーディーにこなすことが求められていますし、目の前にヤマのように積まれた大量の仕事をこなす方向に意識が向くことも分からないわけではありません。

ただし、個人的には、「タイパ」にはトレードオフがあるように思えてならず、「速さは、長期のメリットを損なう」ような気がしてなりません。

では、この「長期のメリット」という朧気(おぼろげ)で曖昧な表現の部分をもう少し明らかにしてみたいと思います。

それは

  • 目的やゴールを見失いかねない
    「あることに時間をもっと使いたいから、それ以外の時間を節約したい」のは理解できますが、それをしているうちに「目的と手段の混同」が起きてしまい、タイパすることが目的化され、いつの間にか「時間を掛けるべき大切なコト」も「タイパ」思考で捉えてしまう。
  • 成果や結論を早く求め過ぎ、思慮の浅い思考に陥りがち
    良質なアウトプットは、内省の時間を含めてインプットと同時並行的に起こるはず(いわゆる“気づき”)ですが、倍速視聴などでは、そうした「自分の心と向き合う時間」が持ちにくい。
  • コンテキスト・文脈を理解できない
    いわゆる「間」や「行間に込められた意図」など、そこにある事象の細かいところを深読みする能力が阻害され、表面的な理解しかできず、潜在的な価値やニーズに気づけない。

つまり「行き過ぎた時間の効率化」は、短絡的な思考や行動につながりかねないってことでしょうか……。

「時間」がもたらすものは何か

児童文学の名著『モモ』(著:ミヒャエル・エンデ)でも「時間」がテーマであり、時間を掛けることの意義・意味を問い、「時間」が何をもたらすのか、本当の豊かさとは何か、そんなことを考えさせる物語ですが、そもそも私たちはそんなに時間を惜しむほど、一体何に追い立てられているのでしょうか……。この「正体」も明らかにしたいコトの一つです。

私が感じる、その「正体」とは、

  • 人よりも良く見られたい
  • 人よりも優位に立ちたい
  • 人よりも得していたい(損していないか?)

といった考えや潜在的な意識が根本ではないかと思いますが、いかがでしょうか……。

でも実は、その結果、得られるものは「時間」という漠然とした同質的価値でしかなく、自分と向き合う時間をしっかり確保し、インプットと同時に自分ならではの「気づき」を経たアウトプットを自分の人生に積み上げていくことに、その人なりの独自的な価値につながるはずなのではないでしょうか……。

企業活動においても「月次単位や四半期単位での短期業績思考」に対する批判や弊害を指摘している人は少なからずいるにも関わらず、企業文化や価値観・組織風土・人材育成といったテーマに関して、中長期的な思考で本気で取り組もうとしないのも、こんな思考の弊害の一つかもしれません。

モノゴトには、促成栽培しようとすると歪(ひず)みが出る懸念と表裏一体だということを認識しておかないといけないってことなんだと思います。会社でも「タイパ」という単語は使わないまでも、「効率アップ、効率アップ」という掛け声はよく聞かれるのではないでしょうか……。

本来、私たちが目指すべき「効率アップ」は、あくまでも「お客さん自身の効率アップ」に貢献すべきであって、そのためには「社内では手間を掛けてでも実現する価値がある」と捉えるべきなのに、知らないうちに「私たちの効率アップ」が目的化してしまっているのではないでしょうか……。

こんなことを考え、こんなふうに書き記している私は「タイパより大切なモノがある」と固く信じているシーラカンス的ビジネスマンであることを表している最大の証しかもしれませんが……(汗)。

少なくとも、映画を倍速で見てもストーリーの確認はできるとしても、その物語の背景にある人の心の機微や、人の喜びや悲しみといった感情に寄り添うなど、等倍でしか伝わらない・理解しきれない部分はあまたあるように思います。

そして、経営に携わる経営者はもちろん、そこで働く人、さらにはお客さんも全て、そうした感情を持った人であることを忘れないようにしたいものだと思います。

今後もよろしくお願いいたします。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 トータルソリューショングループ TSM支援課

三宅 恒基

1984年大塚商会入社。コンピューター営業・マーケティング部門を経て、ナレッジマネジメント・B2Bなどビジネス開発を担当、2003年から経営品質向上活動に関わる。現在は、業績につながる顧客満足(CS)を志向した「価値提供経営」と共に、組織風土・人材開発・自律性育成テーマでの企業支援、セミナー・研修講師などに携わる。

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