ファストファッションは勝ち組ビジネスモデルなのか? 知っておくべき問題点

現在、ファストファッションはアパレル市場で圧倒的な強さを誇っています。安くおしゃれな服を着回せるとして、消費者にはメリットが多いように見えますが、実はその裏では深刻な社会問題が起きています。本記事では、ファストファッションの概要について解説するとともに、業界関係者であれば知っておきたい問題点や企業向けの取り組み事例をご紹介します。

ファストファッションとは

「ファストファッション」とは、最新の流行を取り入れた商品を低価格で売り、短期間のサイクルで大量に生産、販売するビジネスモデルのことです。トレンドをおさえたおしゃれな洋服を気軽に楽しめることから、「ファストフードのファッション版」のような意味で使われる場合も多くあります。世界規模で事業展開するケースが多く、ブランドの知名度が高いのも特徴です。例えば、海外ブランドでは「ZARA」や「H&M」、国内ブランドでは「ユニクロ」や「GU」、「しまむら」が有名です。これらのブランドの多くが、発展途上国に生産拠点を置いていることも特筆すべき点です。

ファストファッションの歴史

ファストファッションは、どのような流れで消費者の生活に浸透してきたのでしょうか。ファストファッションの歴史について、解説します。

最初の大きなきっかけは、1990年代初頭のバブル崩壊です。高級ブランドがそれまでの勢いを失い、その枠を埋めるような形で、1990年代後半から低価格が売りのファストファッションブランドがアパレル市場で頭角を現し始めました。ユニクロで「フリース」が大ヒットし、ZARAやH&Mなどのブランドが次々と日本に上陸し始めたのもこの時期です。2000年代後半から本格的なファストファッションブームが到来し、今では若い世代に限らず、幅広い年齢層がファストファッションに慣れ親しんでいます。コストパフォーマンスが高いアイテムを、いかにうまく着回せるかがおしゃれのコツになっており、衣服の単価が下がる大きな要因にもなっています。

業界は低迷でも好調なファストファッションブランド

国内ではアパレル不況が叫ばれて久しく、そこへさらに新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけています。各メディアでも、名門ブランドの経営破綻や大手ブランドの大量閉店など、経営環境の厳しさを伝えるニュースが相次いでいます。こうした報道を見聞きすると、業界全体が深刻な危機にさらされているような印象を受けますが、実はそうでもありません。

株式会社矢野経済研究所の調べによると、2019年の国内アパレル総小売市場規模は前年比99.3%の9兆1,732億円となり、横ばいからマイナス推移に転じました。しかし、業界全体が伸び悩む中、ユニクロを世界展開するファーストリテイリングは非常に好調です。2019年8月期末に約1兆9,000億円の売上を創出するなど、国内アパレルブランドの中では独走状態にあり、その売上規模は世界の中でも上位を誇っています。2021年春の中間決算発表においても、新型コロナウイルスの影響で売り上げは減ったものの、日本や中国で値引き販売を抑制、さらに物流を効率化するなどして増益を達成しています。

ファストファッションの問題点

安価で流行をおさえた服を着回せるファストファッションは、消費者にとって非常に魅力的です。しかし、その裏では大きく分けて、二つの深刻な問題が起きています。

労働者の人権問題

まずは、「労働者の人権問題」です。ファストファッションで一般的に使用されている布地の価格は、どこで調達してもほとんど変わりません。 すなわち、安く服を作るために削られるコストは労働力です。賃金が安い発展途上国で生産し、労働コストをギリギリに抑えることで、低価格を実現しているのです。賃金が安いだけではなく、ファストファッション工場で働く人たちの労働環境は、「長時間労働(きつい)」「非衛生な環境(汚い)」「安全管理が不十分(危険)」と、まさに「3K」といわれています。

こうした問題が顕在化する大きなきっかけとなったのが、2013年にバングラデシュで起きたビルの崩壊事故です。事故が起きたビルには、当時複数の縫製工場が入っていましたが、老朽化していたにもかかわらず改修工事を怠ったため、1,000人以上が亡くなる大惨事を引き起こしました。

環境汚染問題

次に、「環境汚染問題」です。低価格を実現するため、多くのファストファッションの素材や染料には、有毒な化学物質や合成繊維が使用されています。これらの環境にとって有害となる物質は、衣服の製造工場から排水され、海を汚染しています。安い服は自宅の洗濯機で躊躇(ちゅうちょ)なく洗いやすいという点も、これに拍車をかけているといえるでしょう。

また、製造や処分、輸送過程においても大量の二酸化炭素を排出するため、大気汚染への影響も深刻です。短期間で安く服が作られる分だけ廃棄の数も多く、大量の衣服が焼却や埋め立てで処分されています。さらに、ファストファッションでは染色にも大量の水を使用するため、水の消費量という観点でも環境へ及ぼす影響は甚大です。

コロナ禍で広がるスローファッション志向

新型コロナウイルスは、人々のファッション志向にも特徴的な変化をもたらしています。エステー株式会社が、在宅時間が長くなったコロナ禍の2020年に実施した、「衣類への価値観に関する意識調査」の一部を紹介します。

同調査によると、従来のファストファッション志向が減少した一方、その対極の価値観にあたる「スローファッション」に関心を示す割合が増加していることが判明しました。服を長く楽しむという意味を持つスローファッションを今後取り入れていきたいか、という質問については、全体の20.6%が「既に実践している」、36.7%が「今後実践していきたい」と回答しています。

問題に対する企業の取り組み事例

深刻な社会問題やコロナ禍の影響で、長らく勝ち組ビジネスモデルとされてきたファストファッションは大きな転機を迎えています。最後に、こうした変化の波を敏感にキャッチし、持続可能な社会の実現に向けた活動を進めている、ファストファッションブランドの取り組み例を紹介します。自分たちにできることを考えるヒントにしてみましょう。

海外ファストファッションブランドA社

海外ブランドA社では、2019年7月にその親会社が「全ての製品を2025年までに、サステナブルな素材で製造する」という目標を発表しました。公式のオンラインショップでは、環境への負荷を軽減するために、新たな生産プロセスや素材で作ったサステナブルな商品を選んで購入できます。また、流行が過ぎた服は処分ではなく、世界中の店舗で回収する取り組みも進めており、オンラインと実店舗との連携も取られています。回収された服は分別され、リサイクルや寄付、再使用に回されることになります。

国内ファストファッションブランドB社

国内ブランドB社では、全商品を対象としたリサイクル・リユース活動を推進しています。回収された衣類は、世界中の服を必要としている人たちに届けられるほか、再利用できない場合は燃料やリサイクル素材として活用されます。既に商品化されたものの一例として、リサイクルナイロンを使用したバッグやペットボトルを素材の一部にした服などがあります。また、水の使用量を最大99%も削減するブルーサイクルジーンズが開発されています。さらに、取引先工場の労働環境や人権を守るための解決策の一つとして、従業員が職場の問題を当社に直接相談できるホットラインの設置も進めています。

ここまで、ファストファッションの概要、問題点とその解決策などをまとめて解説しました。裏で起こっている深刻な社会問題が広く認知されることで、アパレル業界で働く人やファストファッションを購入する人の意識が変わっていきます。

まとめ

ファストファッションブランドの多くが、問題への解決策として、一転して「エシカル」「サステナブル」な方向へと舵(かじ)を切り始めています。「衣・食・住」という言葉があるように、服への需要がなくなることは基本的にありませんが、消費者が重視する価値は時代とともに変わっていくのが自然です。これからの服づくりにおいては、環境への配慮という価値により、他社との差別化を図っていくことが重要になるでしょう。

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