近畿大学附属小学校 外山 宏行

2020年6月12日公開分のTeacher's CLIPの番組サマリーをお届けします。

今週のTeacher's CLIPも、ZOOMを使った収録でお送りしています。

番組サマリー

一人1台導入への慎重論を打ち破った教員たちの声

近畿大学附属小学校では2015年から教員が一人1台のiPadを持って授業をスタート。翌年から学校共有のiPadが順次導入されました。2017年には近畿大学附属高校でICT化を実現された森田哲先生が、校長に就任されましたが一人1台のiPad導入には慎重でした。

小学校には小学校ならではの古き良き文化がたくさん残っており、従来の「近小教育」のファンも多くいます。また、機器の管理やトラブルについて、まだ保護者の力が必要だったからです。

しかし、学校共有のiPadの活用を進めていた教員たちからの「学校が変わらないと」「授業を変えていかないと」という熱い思い、そして700名を超える児童に120台の共有iPadでは「使いたい授業で使えない」「安定した使用ができない」「学校で学んだ事を持ち帰って家族で見て欲しい」という要望から、2018年の秋にプロジェクトが発足。実質5ヶ月ほどの準備期間で本格導入に至りました。

教員や保護者の不安を払拭するためのコンセプトづくり

iPadを導入しても、学校としての活用の方向性が決まっていないと「使う教員」「使わない教員」が出て、クラス差や学年差が生まれてしまいます。 それでは、学校としての良さが出せません。 iPad導入に不安を持つ教員や保護者の声として多かったのは、SNSのトラブルやネット依存、教師や友達との交流の減少、動画やゲームについての心配でした。また、これまで重ねてきた従来型の学習が無駄になってしまうのではという声もありました。

コミュニケーションや創造といった能動的なツールとしてのiPad

そこで私たちは、ICTの「C」の部分を「Communication」「Creation」と位置付けました。iPad は子供たちのコミュニケーションを活発にし、表現豊かに創造するための道具だと考え、そのコンセプトを「E-stage」と名付けることにしました。「調べる」「見る」「問題を解く」といった受け身の使い方ばかりでなく、iPadを使って自分を表現する手段を増やす能動的な使い方をしていこうと決めたのです。

一人1台のiPadを導入した事で起こった変化とは?

紙と鉛筆ではできないような表現で子供たちが主役に

まず、授業のペーパーレス化が進み教材の準備が楽になりました。算数の授業では、これまで子供たちがノートに貼るプリントを印刷し配布していたのですが、それらがiPad上で送るだけで済むようになりました。計算テストもiPad上で行うため、1日に120人分のプリントがなくなりました。 また、学習支援アプリを通して全員の考えやノートをシェアできるようになったことで、自分から挙手しない児童の考えをみんなに知ってもらうことができるようになりました。

写真を使って問題を作ったり、作図の方法や計測の活動の様子をビデオで記録したり、プレゼンテーションアプリを使って、説明アニメーションを作ったり、学習の記録やアウトプットの方法も多様になりました。国語では物語に合わせてスケッチをしたり、詩を作るのに写真を使ってイメージを広げたりしています。また理科の授業では、実験を動画に記録したり、それをもとに比較動画を作ったり、社会科でもプレゼンテーションや動画を取り入れています。

どの教科でも、子供たちが非常にアクティブかつクリエイティブになっているのが嬉しい変化です。これまでの学習方法では目立たなかった子が、iPadを使うことでイキイキと授業に参加するようになり、思わぬ子が思わぬ才能を見せてくれることもあります。表現の手段が増えたことによって、「主役」になれる子供が確実に増えてきているのです。

単純にテストで測る学力と結びつけてはいけませんが、前年度比較でテスト成績が上がっているという教科もあります。また、当初はゲームや動画に夢中になることを心配していた保護者も、子供たちの学習の様子や成果物、ノートを目にしたことで、iPadに対する不安がなくなり、捉え方が変わってきています。情報を得るだけの受け身の道具ではなく、自分の考えを表現する能動的なツールという捉え方が家庭にも浸透してきている手応えを感じています。

気軽に使える教室環境と授業づくりを楽しむことが成功の秘訣

教員用のiPadが導入された当時、私を含めてほとんどの教員が活用できませんでした。プロジェクターを出してそこにスクリーンを貼り付けて……という準備が大変だったからです。 その後、2018年に教室にプロジェクターとスクリーン、Apple TVが常設されました。これによって気軽にiPadが使えるようになり、学校全体のICT活用が一気に進みました。まずは気軽に使える教室環境こそが最優先事項だと思います。

教員自身が楽しみながら研修をした情報をシェア

また私たちも最初は視聴覚機器の延長としてiPad活用を始めました。いきなりあれもこれもではなく、写真や動画を写して見せる。そんな簡単なところから始めればいいと思います。 そして、教員が楽しみながらできることを探っていくことが大切です。実践をシェアしあって、「あんなことができた」「こんなことができる」と授業づくりを楽しむ。そういう授業であれば、きっと子供たちも楽しんでくれるのではないでしょうか。

番組視聴はこちらから

GUEST PROFILE

外山 宏行(とやま ひろゆき)

近畿大学附属小学校

近畿大学附属小学校教諭。進学塾や専門学校での講師経験を経て、平成18年より近畿大学附属小学校に勤務。ICT教育推進委員として高学年の一人1台iPad導入を実現し、現在では学校外の先生向けにもiPadの活用方法やアイデアを提案。Apple Distinguished Educator 2019

  • *本記事中に記載の肩書きや数値、社名、固有名詞、掲載の図版内容等は公開時点のものです。

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