モノづくりDX推進のカナメ、BOM構築と流用化・標準化設計とは

2021年11月10日公開

製造業の企業変革力を強化するデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進により、今注目が集まるBOM。自然災害や新型コロナウイルスの流行の際に問題視されるサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)については見直しに取り組む企業も多いですが、実は設計段階のエンジニアリング・チェーン・マネジメント(ECM)の考え方も同時に重要になっています。そこで、モノづくりの現場でDXを推進させるコツ、BOM構築や流用化・標準化設計について紹介します。

エンジニアリング・チェーン・マネジメント(ECM)が見直されている理由

サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)の限界

業務改善のため、サプライ・チェーン・マネジメント(SCM)に取り組んでいる会社は多くあります。もちろん、SCMはとても大切ですが、コロナ禍でSCM改善の限界が見えてきました。例えば、SCMを早くから推進してきた大手自動車メーカーでは、半導体不足が主な原因で、生産ラインが数週間止まるということが実際に起きています。

このような事態が生じたのは、製造現場でのあらゆるリスクを想定した設計を上流で行っていなかったことも一因だと考えられます。はじめから別の部品で代替できるような設計にしていれば、生産ラインを止めずに柔軟な対応で済んだかもしれません。

本来、ものづくりは上流から下流へ、設計から生産へ一気通貫でスムーズに流れていくことが理想です。しかし実際には、上流から下流への受け渡しがうまくいっておらず、生産現場に大きな負荷をかけているのが現状です。

SCMだけをいくらがんばってもうまくいかない理由は、「設計成果物は常に正である」という誤解にあります。実際には設計成果物が正しくないケースは多々あり、現場で補完・修正しつつ何とか製造しているというのが現状です。さらに、製造現場で補完・修正された内容が設計へ十分にフィードバックされず、一品一様を中心とした製造業では、同じものが二度と作れないといった企業も少なくありません。

上流から下流への相互連携における理想と現実のギャップ

上流側でしっかり付加価値を付けた設計をしてから下流に受け渡し、下流でもさらに付加価値付けをして製品を作り上げるのが理想です。

<理想>

しかし実際には、こうした理想形は描けていません。ECM(上流側)とSCM(下流側)では壁のようなものが存在しています。設計成果物は必ずしも常に「正」ではなく、設計どおりに製造できないことも多いため、設計で人による「成果物補完業務」、さらに製造現場でも実際に生産する上で欠落している情報などを補完している現状があります。そして、これらは人手と工数がかかり現場の大きな負荷となっています。

<現実>

現状を改善するポイントは、「ECM+SCMの双方へのアプローチが必要」という新しい視点を持って、設計業務から見直すことです。設計段階から製造段階を見据えた設計をする、設計と製造の一気通貫のマネジメントが重要です。

ECM+SCMによる効率改善のポイント

ECM+SCMにおいて効率改善を図るポイントは、デジタル変革によるECM、すなわちBOM構築と流用化・標準化設計を実現することです。ECMから見直すことで、従来かかっていた余計な工数をカットでき、設計から製造、出荷までの期間を大きく短縮することが可能になります。

設計部門が抱える二つの課題

ECM+SCMが大事だということは分かっていても、ECMがうまくいかない会社は少なくありません。理由は、旧態依然の設計手法(タコつぼ設計)、設計者の三ない(来ない・育てられない・育たない)、といった設計部門が長年抱える課題があるからです。

タコつぼ設計とは、設計者がおのおのバラバラに設計をして、設計ノウハウの共有ができないまま、無駄な類似設計、こだわり設計、使い捨て図面が増えてしまうことをいいます。一品一様でものづくりをして、設計が属人化している現場に多い設計手法です。設計がナレッジとしてまとまっていないため、似て非なる設計を繰り返してしまいます。設計がナレッジとして共有されないため、設計人材もうまく育ちません。

この二つの課題を解決するためには、流用化・標準化設計の仕組みとBOMの構築により、効率の良い設計環境を実現させる必要があります。

高効率設計を実現する流用化・標準化設計とは

手持ちのブロック(今ある設計資産)で仕様を満足させる仕組みを「ブロック設計」といいます。某ブロック玩具のイメージで、可能な限り手持ちのブロックで設計することで流用化設計・標準化設計を図り、当該案件だけでなく以後の設計でも使えるように作成します。

流用化設計とは

流用化設計とは、過去に生産された製品の設計データを新しい製品の設計に活かすことをいいます。毎回ゼロからのフルオーダー設計にせず、これまでの図面を積極的に使うことで、設計を省力化できます。たとえば、下の図では、今回の顧客要求仕様が赤線だとして、過去に生産した類似仕様が青、緑、黄の点線だとします。まずはこの類似仕様が検索・共有できることが大切です。そして、青では要求には満たしませんが、緑と黄なら要求を満たします。
「オーバースペックだが流用すれば設計部門の負担はないし、生産部門も生産過去実績があるから全社効率が良い」という判断ができます。

標準化設計とは

標準化設計とは、流用化設計を繰り返した結果、自社で汎用性が高い設計を標準品化しておき、新規の設計に最大限活かすことをいいます。標準品をメインに据え、案件ごとの特殊な設計を付加していく手法です。標準品を使うことで品質も安定し、品質を担保したスピーディーな生産が可能になります。
最初のうちは標準機ではカバーできない仕様もあると思います。カバーできない部分は、オプションによる変数対応を繰り返すことになります。そして、時間と経験と共にオプションの傾向が定まり、変数から定数に変えていくことができます。
最終的には、標準機(定数)+標準オプション群(定数)という形になり、設計部門に負担をかけず、かつ、生産部門はモノつくりに専念できるという理想的な全社効率改善につながっていきます。

図面偏重からBOM構築へ! ITの力でECMを推進

BOMとは、Bill Of Materialsの略で、一般的に「部品表」あるいは「部品構成表」と呼ばれるものです。BOM構築において重要なのは「部品表」よりも「部品構成表」です。部品構成表は階層構造、下位アイテムから上位アイテムへ製造の流れが分かるように作られています。

このように、どこに何を使っているのか一目瞭然です。製造だけでなく保守も効率化され、業務改善に大きな成果をもたらします。これまでは、図面を作成した後にオマケ的にBOMを作っていたという企業も多いですが、理想は逆です。BOMを構築し、流用化・標準化設計で必要最低限の図面を作成します。これによって、設計効率は大幅に改善することができます。

BOM構築事例

モノづくりDXは全社的に取り組まなくてはならない一大プロジェクトです。高い意識を持ってECM+SCMの改革に取り組み、BOM構築の成功事例を幾つか紹介します。BOM構築には時間がかかることもありますが、全社的にトップダウンで取り組むべき課題といえるでしょう。

株式会社ワイエイシイデンコー

  • 事業内容フラットパネルディスプレイ用熱処理装置、電子部品用加熱装置、自動車用熱処理装置、遠赤外線ヒーターおよび応用機器の設計・製造・販売

標準原価の大きな割合を占めている設計コストの抑制を目指し、設計データ流用化の仕組みとしてトップダウンで「生産革新 Bom-jin」を導入。BOM(部品構成表)による流用化・標準化設計を推進し、新たな事業展開につながるDX基盤を確立。

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株式会社東伸

  • 事業内容産業用自動化機器(主にスリッター、リワインダー)の設計・製造・販売およびシステム開発

産業用自動化機器(主にスリッター、リワインダー)の設計・製造・販売およびシステム開発する株式会社東伸は、社長直属の全社改革プロジェクトを立ち上げ、社員の意識改革を同時に進めながらBOM構築による標準化・流用化設計を実現。

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株式会社キラ・コーポレーション

  • 事業内容切削加工自動化ライン、切削加工機、難削材加工機、ボール盤/タッピング盤の製造・販売

切削加工自動化ライン、切削加工機、難削材加工機、ボール盤/タッピング盤の製造・販売を行う株式会社キラ・コーポレーションは、部品構成表管理システムを導入し、BOM構築で標準化設計を実現。標準機の構成比率が3割から6割に倍増し、設計工数を3割削減。

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まとめ

DXを推進するには、ECM+SCMで取り組むことが重要です。設計効率改善は会社の生き残りにも影響する急務であり、経営者こそが先頭に立って推進する必要があります。とはいえ、実行するのは容易なことではありません。大塚商会ではコンサルティングを行っていますので、お気軽にご相談ください。

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