第162回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その91~高精度機構部品シンポジウムに参加して見えてきたもの

半導体製造装置を頂点とした製造業ニッポンのお家芸である生産設備製造業を支える高精度機構部品メーカー3社が、IoTとメカトロニクスの現状と将来について意見を戦わせました。熱い討議から機構部品メーカーとしての戦略も垣間見ることができました。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その91~高精度機構部品シンポジウムに参加して見えてきたもの

連休を利用して、再探訪を企てていた長州の萩(山口県)を訪れ、薫風を感じながら深掘りしてきました。特に吉田松陰と松下村塾に関わる人々と学びの環境は、明治維新という改革を伴う激動の原動力としての存在であったことを再認識することができました。
一方、有名になった(なり過ぎた?)「獺祭(だっさい)」を始めとする長州の銘酒たちの存在は酒瓶を眺めるだけにとどまり、スマドリ派となってしまった今の私には、残念ながら目で楽しむだけ(?)で学びの機会はありませんでした。

高精度機構部品三大メーカーが製造業ニッポンの将来動向についてパネルディスカッション

久しぶりに興味をそそられるシンポジウムが開催され参加しました。生産財としての半導体製造装置を頂点に製造業ニッポンのお家芸であった(あえて過去形)、高精度メカトロニクス生産設備を支える部品メーカー3社がそろい踏みです。

普段はバキバキの商売敵同士が胸襟を開いてディスカッションする内容を聞き、参加者との質疑応答も許される機会はまれです。製造業ニッポンの将来を憂いての開催という意図も感じました。

登壇3社とは……

  • A社:高精度リニア・モーションスライダーの大手メーカー
  • B社:高精度ボールねじモーションスライダー、ベアリングの大手メーカー
  • C社:A、B社製品と、それらの駆動源とを連結するカップリング・ジョイントの大手メーカー

この紹介文だけで皆さんには「メーカー名」が想像できてしまうでしょう。この3社は微妙な三角関係となっていて、A社とB社は直接バッティングするメーカー同士。その両社製品に対し、高精度な駆動力を伝達するC社のカップリング・ジョイントという関係です。

「案外C社がA社・B社製品の長短所を一番理解しているな」という感触がディスカッションから伝わってきました。高密度半導体生産設備に求められているナノ描写を実現すための開発やノウハウの蓄積など、商売敵の前で大丈夫? と心配してしまうほどの熱い討議でした。
特にA、B社の2ナノごとのリニア・ステップ動作やその精度を支えるために必要な駆動トルク変動・振動を遮断するC社のメカニカルジョイントは基礎部品として、その存在の重要性を肌で感じ取ることができました。

パネルディスカッションのメインテーマは、以下の二つです。

  1. 高精度機構部品メーカーが考えているIoTの動向と将来
  2. 製造業ニッポンのメカトロニクスの将来

これらテーマを軸にディスカッションから得られた内容を簡潔にまとめます。

1. 高精度機構部品メーカーが考えているIoTの動向と将来

大きな驚きは3社ともども非常にIoTビジネスに興味を持ち、IoT専任の開発部門やマーケティング部門を新設して、新たなビジネスチャンスに向けてまい進していることです。当初、私自身「なぜ部品メーカーがIoT?」という疑問が先行していましたが、討議が進むにつれて「なるほど!」という腹落ちができました。
私としては、IoTの取りまとめ役としてシステムを構築する生産設備メーカーが統合システムとしてIoTをユーザーに提案していく傾向ではないかと考えていました。それはそれで誤りではないと今でも思っていますが、今回の大きな気づきとして「核心となるIoTに関わるノウハウは今回紹介した高精度部品メーカーが握っている」ということなのです。

IoTの大きな役目(需要)は稼働や保守に関わるDXへの誘いです。A、B、C社の共通項はメカ(機械)系部品メーカーであることです。メカ部品の宿命は「摩耗と疲労」です。従って稼働や保守と直結するテーマであることは理解してもらえると思います。この「摩擦と疲労」の判断、つまり「これ以上の稼働は仕様を満足できない」という「診断ノウハウ」の保持が保守には必須になるのです。

例えば、スライダーの摩擦によるノイズ(雑音)を常に監視し、判断するのですが、もう少し具体的に説明しますと……
ノイズをマイクで拾う(ノイズ⇒V変換=アナログ信号)⇒A/D変換⇒FFT変換(V⇒F変換=周波数スペクトラム変換)⇒AIによるノイズ・スペクトラムの「閾値(しきいち)判断」というフローです。

この閾値判断によって、GO / NO GOがIoT経由で保守情報として伝達されるわけですから、診断ノウハウ=閾値判断といえると考えています。

従って、肝はこの閾値判断に集約されます。3社とも「製品が不具合(仕様を満足しない)に至る過程の異常ノイズ動向はイヤというほど蓄積できています」と異口同音。つまり、ノイズ・スペクトラムの周波数や形状電力によって不具合をAI学習と兼ね合わせれば「予知判断」可能と言っているのです。この「AIによる閾値判断システム」を新たな商品として市場展開しようと考えているとのこと。

結果、先述した生産設備メーカーに対して、高精度部品としての販売とAI+閾値判断システムの販売との二毛作ビジネスを考えていることになります。まさに「マッチ・ポンプビジネス」の典型例です。これはおいしいビジネスを考えたものだと感心しました。

しかし、前途洋々とばかりいえない問題・課題もあらわになります。
ハイエンドの半導体設備に関わる中堅以上の製造業だけではなく、中小製造業に対するIoT動向も話し合われました。一転、重い雰囲気になっていった感触でした。それは、中小製造業がいまだに抱えている古い設備に対するIoT動向です。雰囲気を重くした理由とは、結論から言えば「ラスト1m問題」(注)です。

この問題は、私も当初から中小製造業のIoT移転への弊害として「この問題が解決しなければ中小製造業のIoT展開は難しい」と述べてきましたが、この3社も同意見でした。もちろん、いまだに稼働している古い設備にも各社の部品は搭載されているわけで「センサーさえ付けられれば何とかなるのです」との弁。

A社はその視点から古い設備に対して、センサー取り付けサービスも含めた「レトロ・フィットIoTサービス」というプログラムを展開したそうです。しかし、結果は「興味は持ってもらえたものの、ほとんどが費用で折り合わず、うまくいっていない」との正直な回答でした。

スポットライトが当たる(もうかる?)半導体生産設備に対するIoT動向への光の下で、この「ラスト1m問題」はいまだに暗い影を落としていることを会場全体で感じ取ることになりました。

2. 製造業ニッポン・メカトロニクスの将来

このメカトロニクスという言葉はMade in Japanの造語で、メカニクス+エレクトロニクスの合成語です。
30~40年前、Japan as No.1といわれていた製造業ニッポンが全世界の製造業のマウントを取ってブイブイ言わせていた頃にできた言葉です。いわゆる自動生産設備をきめ細かくメカ系(基本構造)とエレキ系(制御)とでうまく組み合わせ、ニッポン気質の「性能は細部に宿る」を前面に押し出して、市場を席巻していたわけです。

一方、この「メカトロニクス」という言葉にも機微があって、あくまでもメカ系が先でエレキ系は後を追いかける順番となっています。「メカ系あってのエレキ系」という意味で設計者もメカ系が重用されていた記憶です。

ところが、3社がそろって「今はエレメカニクスです。圧倒的にエレキ系、特に通信系+ソフトウェアの技術が重視され、必要とされています」と言うのです。「もちろんメカ系の基本技術の重要性は変わりませんが、以前に増してエレキ系の制御、通信+AIを含めたソフトウェアに対する能力が必須となっているのです」とのこと。

さらに「先に述べた新たな事業展開を狙っているIoTによる閾値判断システムには一切メカ系部品は存在していません」と述べていました。
なるほど、高精度機構部品というメカ系100%の部品メーカーが、エレキ系100%の商品の販売を企てるわけです。この変化を見させられて「製造業ニッポンこそ、自らの革新を必要とされているのだ」と納得した次第です。

これは全くの私感ですが……
製造業ニッポンの行く末を考えるとき、他国の台頭、少子化問題(設計者不足)や降って湧いた関税問題なども追い打ちをかけて、楽観視は許されないと考えています。しかし、このシンポジウム主導3社の発言や態度を見ていると表現が難しいのですが、言い知れぬ「余裕」を感じるのです。その「余裕」はどこから来ているのでしょうか?
「たとえ製造業ニッポンが滅びても、われわれ高精度機構部品メーカーは不滅です」と思っているのかもしれません?
確かに……と思ってしまうのでした。

以上

  • (注)ラスト1m問題
    プレスマシン、成型機、NC旋盤等々30年以上前の高齢設備がいまだ現役で稼働していますし、中古の設備として流通もしています。特に中小製造業では設備投資対象として最新鋭の設備購入は難しいのが現実です。従って中古設備の購入も行われています。そのような状況下であっても、省力化としてDXの波は押し寄せ、生産量・設備保全の自動化の手段としてIoTを志向する中小製造業は存在します。
    しかし、所有する高齢設備に何らかのセンサーを取り付けない限りIoTはかないません。このセンサーをIoTデータロガーに誰が接続して高齢設備に誰がセンサーを取り付けるのか? チョコ停検知などの目的で制御シーケンサー(PLC)との接続やソフト改修も含め誰が行うのか?(=IoTゲートウェイへの接続手段やソフト変更)
    中堅以上の製造業であれば保守部門などの専任人材が存在しますが、中小製造業には、それを期待できません。つまり「わが社にはそれらができる人材はいない」という課題を「残る接続問題」として「ラスト1m問題」と呼んでいます。

次回は7月4日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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