第161回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その90~中小中堅製造業のM&A(Mergers&Acquisitions 吸収・合併)と考え方(2)

中小中堅製造業の事業承継問題は、相変わらず製造業ニッポンの行く末を揺るがす課題として横たわっています。その解決策として、M&Aという手段を選ぶ機会が増えています。しかし、この異文化合併のマネジメントに手を焼く経営層が多く、おのずと相談案件も増えているのが実情です。前回に引き続き、具体的な事例を紹介します。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その90~中小中堅製造業のM&A(Mergers&Acquisitions吸収・合併)と考え方(2)

スマドリ派に転身して初めて迎える「桜」です。
「花見」と称する呑みの機会へのお誘いがめっきり減りました。その代わりとでもいいましょうか、近所のレストランでランチをTake outして「花より団子」を楽しむようになりました。スマドリ派になって見える景色がいろいろ変わりましたが、「団子」がお酒からお弁当になったことも、その一つです。われながら信じられません(笑)

M&Aの成否を握る「初動」とは……

前回のコラムでは、事業承継問題に重ねて円安環境も手伝って、活発になっている中小中堅製造業を対象としたM&Aに対する基本的な考え方と経営層の関わり方を述べました。

第160回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その89~中小中堅製造業のM&A(Mergers&Acquisitions 吸収・合併)と考え方(1)

今回は実際にお預かりした会社の事例を紹介しながら、問題・課題を共有しましょう。

A社(買収する側)は中堅の上場建設系重機械製造業です。特殊用途に特化して経営数字も悪くありません。A社が10年ほど前にB社(買収される側)の経営権を獲得しました。B社は電子計器設計製造業で、A社から見れば全くの異業種としてのカテゴリーになります。B社経営者は事業承継問題も抱えていたとのこと。

従って、よく目にする敵対的買収という経緯ではなく、経営者同士の「手打ち」の末だったようです。しかし、「シャンシャンM&Aで良かったですね」とは安易に喜べません。

A社の経営層はB社をM&Aで買収すると決断した時、このM&Aに対する目論見(もくろみ)が明確であったのか否か? この事例からは、この点に疑問を禁じ得ません。そして、社員としての目線も重要です。「社員だからM&Aなんて関係ない」などと能天気なことを言わないでください。その理由はこのコラムの後半を一読いただければ理解してもらえると思います。

敵対的買収の場合は目論見がしっかり存在して、その結果、ある意味の戦いを仕掛けるわけですが、シャンシャンM&Aの場合は「将来必要になるかもしれないから取りあえず買っておこう」とか、「社長同士が知り合いで、泣きつかれてやむを得ず買収する」という目論見の甘いM&Aが行われる場合が案外多いのです。

前回のコラムにある事項を再述しますと……

  1. 将来のコンペティター(商売敵)に成長しないうちに芽を摘んでしまう
  2. 自社にないノウハウ(人材)や新規テクノロジーを入手する=時間を買う(承継問題解消策としての選択)

この二大テーマを軸とした目論見なきM&Aの延長線上には、経営的目的の達成は難しいのです。その意味で本事例は「初動」の欠如といえます。つまり、買収(吸収)する側にその覚悟や経営方針、それを実行するための傾向と対策、それら全容を包括する「中・長期経営計画」が欠如していたことになります。
従って、本事例では失敗とはいわずとも、現状としてはうまくいっていないということになります(ですから私に相談があるわけです)。しかし、反省点としての学びは多くあると思います。

氏素性の異なる社員の同化を図る! 異文化への同化の導き

そもそも吸収される側であるB社の社員の立場からすれば、A社にM&Aをされたこと自体、「青天のへきれき」そのものでしょう。要は「聞いてないよ!」という表現に尽きます。

同じ製造業といわれても氏素性の異なる企業ですから、上流側の設計成果物から始まって購買・生産の下流側まで、さらに対象となる市場(=顧客)も含めた業務フローが「今までと全て異なる」わけです。

B社社員は、それなりの工夫をしてB社の生産管理システムの不都合を補いながら、つい昨日まで日々業務をこなしていたのです。それがある日突然、全く知らない、理解できないA社の業務フロー(生産管理システム)を使って業務をすることを強いられます。設計成果物から生産方法、そして顧客対応まで異なるわけで、私はこれを「強制転職状態」と呼んでいます。

このような環境下でB社の多くの人々は、新たな(A社)の業務フローに対し結果的にあらがうことになります。「どのようにしたら適応できるのか思考停止状態に陥ってしまった」というのが本音でしょう。異文化に放り出されて思考も行動も固まってしまったB社の人々への対処をどのようにすべきか? なのです。
いずれにしてもA社経営層のマネジメント力が最も試されるところです。つまり、M&Aの成否を握るポイントであり、おのずと最も難度が高いマネジメントとなります。

本事例の場合、A社:建設系重機械製造業とB社:電子計器設計製造業との業務フローの大きな相違からA社側からの導きも希薄だった様子。導きといえば刺激の少ない表現になりますが、少なくとも下記の二つの断行を意味します。

  1. B社社員をA社の文化(業務フロー)に順化するか(できるか)否かの「踏み絵を」踏ませ、残留か人員整理対象かはっきり区別をする(文字にすれば安易な一行ですが、多くの悲劇が内在します)。
  2. B社の核心となるノウハウを保持している(と思われる)社員に対しては「個別対応して残留を促す(特段の対偶用意など)」

これらの導きの実行が「M&A直後のスクーリング過程」といわれる重要なステージなのです。「Buy them Kill them」といわれるM&Aプロセスのクライマックスといえるかもしれません。どちらの項目も人的な評価軸ですから、個人の真意まで推し量ることは難しいと考えます。結果、その評価に誤りが生じてしまうこともあると思います。

しかし、それでも誤りを恐れて実行をためらうことは許されません。買収される側の社員に「われわれは選別(Kill)される側なのだ」という認識と覚悟を持ってもらう必要があるからです。

残念ながら、本事例の場合、このステージを経ていなかったということです。もちろん、A社側としても誰もが手を染めたくはないステージですが、このステージを経ない目論見ではM&Aを行う意味がありませんし、何より成功しないのです。

結果どのようになってしまったのでしょうか……
B社はそのままA社の社屋内で間借りしながら、B社の業務フローのまま事業を再開したのです。江戸時代の長崎の出島を再現したような状態です。A社社員にはB社由来の社員やその業務に関わることを憚(はばか)る者まで出る始末でした。いわゆるパラサイト状態での事業運営ですから、何のためのM&Aだったのかという疑問が大いに残ります。

せめてパラサイトに対する必要経費(賃料・間接費用+αなど)は、A社に対する「上納金」として必須のはずですが、それもなさそうです。「自活できていれば捨て置け」というA社の経営層の判断、もしくは放置プレーだったのでしょう。そもそも「自活(プロフィットセンター)」の定義もあいまいです。

私に相談があった理由は「その自活がどうやらできなくなってきたようだ」というもの。
つまり、本物のパラサイトになってしまい、A社の利益をむしばむようになって来たということでした。「まーそうなるでしょうね」という私の実感でしたが、一方、お預かりする私にとってはなかなか重い課題でした。

M&Aの肝として、確固たる「目論見」の存在とM&A直後の「初動」がいかに重要で、それらが「最終結果を決めるのだ」ということが皆さんに伝わっていれば、良いと思っています。

以降の顚末(てんまつ)は悲喜交々(こもごも)のコンサルティングステージでした。いずれ機会があれば本コラムにその顛末を述べてみたいと思います。「氏素性の異なる会社同士が、おのおの持っていた企業文化を乗り越えて合併する」ということの難しさと厳しさを想像してください。

2回にわたり、中小中堅製造業の承継問題に端を発するM&Aの実例を基に問題・課題を述べました。M&Aは手段としては有効ですが、それは経営層の確固たる目論見と覚悟があっての前提です。M&Aの当事者となり得る場合はぜひ、上記の例を「他山の石」として思慮深く実行してください。

以上

次回は6月6日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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