第163回 設計部門BOM改善コンサルの現場から~その91~中小・中堅製造業設計部門改革の悩みは尽きないのです

設計部門改革の認識は、製造業が置かれている環境が厳しくなるにつれて高まってきています。直近、大変類似した改革に対する相談が複数件に寄せられました。それらは経営者からの直接相談でした。その内容を共有して改革の重要性の再認識をしましょう。

設計部門BOM改善コンサルの現場から~その91~中小・中堅製造業設計部門改革の悩みは尽きないのです

前職の時代に私を支えてくれたスタッフがいよいよ退職し、めでたく「無職」となることを祝して、久しぶりに集いを設けました。人生の多くを製造業にささげた歩みであったと思いますが、残し、そして去る中小・中堅製造業に対する懸念を聞くと、それは「三ない」とのこと。「人が来ない、育てられない、育たない」ということです。製造業ニッポンの行く末を案じます。
スマドリ派になってからの私の三ない「飲まない、酔わない、立ち寄らない」とは悩みの深さが違います(笑)
参加してくれたスタッフも私に気を遣ってなのか、弱くなったのか分かりませんが酒量はグッと減って、鯨飲していたころの面影はありませんでした。しかし、それでも懐かしいひと時で、救われました。

トップダウンとしての設計部門改革

相談事の共通点、類似点は……

  1. トップつまり社長自らの改革提案(いずれの社長も設計経験者)
  2. 個別仕様生産設備機器の中小・中堅製造業
  3. どのように設計部門を改革に導くべきか?

というものです。

ここで既に「???」が頭上に浮かんでいる方もいると思います。「設計部門の現状を生み出した一因は元設計者の現社長にもあるのでは?」という素朴な疑問です。その疑問は正しいのです。しかし、くしくも今回全ての社長がプロパーではありませんでした。事業承継の結果、外部から招聘(しょうへい)された新社長や親会社の傘下にあって、親会社から派遣された社長からの相談でした。

重要な共通項は「外を知っている」ということです。長年「蛸壺(たこつぼ)設計」を続けている設計部門には、自然発生的な設計部門改革への動向は生まれません。理由は、その動機付けとなる「現状否定」がそもそも存在しないからです。

社長に着任してしばらくは「観察期間」があったと思いますが、経営数字や特に設計部門の現状業務を見ていると、その個別設計の非効率や類似設計の連続は全社非効率=儲からない原因であることに気付かされることになります。この気づきの源泉は「外の設計部門を知っている」という比較があってのことです。

社長からは「恥ずかしいのですが、BOMはおろか品目コードもなく、ただひたすら図面命(いのち)の設計を繰り返しています」との吐露も聞けました。私に相談する前に設計部門長を含めた幹部に改善を求めたそうです。

設計部長:「改革は必要です」
社長:「では具体的な改革の案はありますか?」
設計部長:「……」
という問答だったそうです。面従腹背とまでは言いませんが、「現状否定」が存在しないわけですから「どのように改革をすべきか?」という自問自答の機会もない状態で自力改革に至ることができるのか否か? 容易ではないことは想像できます。

しっかりとしたトップダウンとしての改革へのビジョンは存在するのだが……

それぞれの社長と直接面談ヒアリングする機会を得ましたが、「外部の設計部門」を知っていることもあって、改革へのビジョンは明確でした。さらに中期経営計画とのリンクも想定されています。しかし、そのビジョンと現在の自社設計部門の実態との乖離(かいり)に頭を悩ませているというのが本音と感じていますし、それ故、相談に及んだのでしょう。

  1. どのように改革の必要性を設計部門(全社)に理解してもらうのか?
  2. 改革のビジョンに一定の自信は持っているが確認したい。
  3. 実際に改革を進捗(しんちょく)させる手段・方法は?

これらが主たる相談のテーマです。
「水を飲みたがらない馬を無理やり引っ張って来ても、ことは進まないですよね?」という言葉には、トップダウンとしての伝家の宝刀「業務命令」では始まらないという理解と悩みを感じました。

設計者は自分のメリットにならないことは絶対にやらない=改革へのモチベーション・プランニングが必須

現状の設計業務に大きな自己否定が存在しないということは、「設計という仕事はいろいろ不満もあるけれど、まあ、このようなものだ」と自己完結してしまっている設計者集団ということになります。

その設計部門に社長の改革ビジョンを提示しても……
「設計部門の改革?」
「こんなに忙しいのに誰がやるの? その前になぜやらなければならないの?」
「社長命令だから、やれって言われればやるけど……」

この状態で始まった業務改革命令の顚末(てんまつ)は想像に難くありません。なんとなくフェードアウトして消滅してしまうのです。このような結果は経営者として避けたいという気持ちは理解できます。
改革への準備にはトップの(経営)ビジョンから始まることになりますが、その次は? と問われれば設計者に対する改革へのモチベーション・プランニングです。

端的に表せば「改革へのやる気の醸成」ということです。このテーマは、自身の設計部門改革コンサルティングの軸として根幹をなしているものでもあります。文字で表現すれば「モチベーション・プランニング」となってしまいますが、各社各様の状況がそれぞれあって、それぞれの言い分も併せて存在するのも事実です。その意味で大変奥の深いテーマなのです。

従って、各社各様への個別対応は枝葉の豊かさを実現するために必要ですが、幹となる共通する導きは同じと考えています。その幹となる考え方を図にまとめてみました。あくまで考え方の礎となるキーワードだけですが、このモチベーション・プランニングの成否が改革の成否を握っていることの重要性を理解してください。

みなさんの会社にはモチベーション・プランニングは存在しますか? 動向はいかがですか?
トップのビジョン(=トップダウン)と設計部門のやる気(=ボトムアップ)の存在が必須で、それらをどのようにうまくかみ合わせていくべきなのか? 悩み深い設計部門改革への基本的なアプローチであると考えています。大切な「はじめの一歩」です。

以上

次回は8月1日(金)の更新予定です。

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この記事の著者

株式会社大塚商会 本部SI統括部 製造SPグループ コンサルタント

谷口 潤

開発設計製造会社に入社以来、設計開発部部長、企画・営業部部長などを経て、米国設計・生産現地法人の経営、海外企業とのプロジェクト運営、新規事業開拓に携わる。その後、独・米国系通信機器関連企業の日本現地法人の代表取締役社長就任。現業に至る。

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