原材料費の高騰や人材不足の影響により、製造業では業務の効率化が求められています。このような状況下において製造業が成長し続けるためには、業務改善の取り組みが不可欠です。今回は、製造業にとって重要な「カイゼン」の基礎知識の解説や動画を活用したカイゼン活動のメリット、事例などをご紹介します。
「カイゼン」を動画で推進! 作業分析ソフトウェアによるカイゼン活動を解説
2023年12月22日公開
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目次
製造業の共通課題と中小製造業を取り巻く状況
昨今の製造業は、原材料費や燃料費の高騰に伴う収益性の低下、深刻化する人材不足、顧客ニーズの変化などの共通課題を抱えています。しかし、中小製造業においては、大規模な設備投資や人員増加が難しく、今あるリソースで課題に対応せざるを得ない状況です。このような背景から今まで以上に業務改善の取り組みが求められています。
カイゼンとは
多くの製造現場には、非効率的な作業や業務がまだまだ残っています。これらを見直すことで作業効率を高められます。そこで重要になってくるのが、「カイゼン」の考え方です。
「カイゼン」とは
カイゼンは、作業効率の向上などを目的に製造業の現場で行われている活動です。例えば、作業するたびに工具を探したり、部品を取りに行ったりしているのであれば、最初から作業スペースの近くに置いておくことでタイムロスがなくなります。このように現状のムダや問題点を現場で働く作業者が主体となって洗い出し、作業方法などを変えることで解決していく活動がカイゼンです。
日本の製造業は、小さなカイゼンを積み重ねることでモノづくりの力を高めてきました。海外でも「KAIZEN」として認知されており、多くの企業が取り入れています。
改善とカイゼンの違い
「カイゼン」が漢字ではなく、カタカナで表現されていることに疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。実は、カタカナで「カイゼン」となっているのには、理由があります。
「改善」には「悪い部分を良くする」という意味が含まれており、英語で表現すると「improvement」となります。しかし、「カイゼン」には「現状に満足せずに今よりもっと良くする」という意味が込められているため、「改善」とはニュアンスが異なるのです。
悪い状態ではなくても常に現状を見直し、より良い状態を目指して活動し続けることが、「カイゼン」であるといえるでしょう。
カイゼンの具体的な活動
製造業におけるカイゼンの具体例としては、5Sや3Mが挙げられます。
5Sは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの五つの視点で製造現場を整備することを指し、次のような活動を行って安全性や生産性を高めます。
| 5Sの要素 | 内容 |
|---|---|
| 整理 | 必要な物と不要な物を区別し、不要な物は処分する |
| 整頓 | 物を決められた場所に置き、使いやすいように置き方を工夫する |
| 清掃 | 清掃や点検といったメンテナンスを行い、いつでも使える状態を保つ |
| 清潔 | 整理・整頓・清掃によって常に清潔な状態を維持する |
| しつけ | 整理・整頓・清掃・清潔のルールを習慣づける |
3Mは、製造現場に潜むムリ・ムダ・ムラを指し、これらを削減することで作業効率を高める活動です。特に価値のない作業(=ムダ)を削減することが重要と考えられており、以下の「7つのムダ」をチェックすることが推奨されます。
- つくり過ぎのムダ
- 手持ちのムダ
- 運搬のムダ
- 加工そのもののムダ
- 在庫のムダ
- 動作のムダ
- 不良をつくるムダ
動画を活用した作業分析でムリ・ムラ・ムダを削減
製造業がカイゼン活動に取り組む際に最初に実施すべきことは、現状の把握です。現状を正しく観測してムダや問題点を洗い出すことで、見直すべきポイントが明確になります。
現状観測の方法として代表的なものは、ストップウオッチによる計測です。しかし、ストップウオッチによる計測には次のような課題があり、継続が難しい傾向にあります。

- 作業者の横にずっと張り付いて計測しなければならない
- 正確な計測を行うためには、5回・10回と複数の作業サイクルを計測する必要がある
- 作業者や計測者が異なるとバラつきが発生し、計測結果が安定しない
これらの課題を解決するのが、動画を活用した現状観測です。作業の様子を動画で撮影して後から分析することで、計測の手間を削減できます。昨今ではスマートフォンなどで気軽に動画を撮影できるようになっただけでなく、分析を効率的に行えるソフトウェアも登場しています。
作業分析ソフトウェアの活用方法
動画を撮影してただ見返すだけでは、効果的な作業分析とはいえません。作業分析の効果を高めるためには、専門的なソフトウェアの導入がおすすめです。ここでは、大塚商会が提供する作業分析・業務最適化ソフトウェア「OTRS」を例に主な機能や活用シーンについてご紹介します。
主な機能
作業分析ソフトウェアの主な機能を4つご紹介します。
1.作業分析/集計
ソフトウェアに取り込んだ動画を再生しながら、作業内容を細かく分析する機能です。マウスをクリックして作業者の動作を要素ごとに分割(=要素分割)し、「付加価値を生む要素」「できればなくしたい要素」「ムダな要素」などに分けて改善していきます。また、分割した要素ごとの所要時間が自動で計算されるため、稼働率やバラつきを「見える化」することも可能です。



2.比較再生
動画や分析結果を比較することで、ベテランと新人の違いやカイゼン前後の差を「見える化」する機能です。動画内にコメントやマーキングを入れておけば、教育・技能継承のツールとしても活用できます。



3.山積み表/標準作業組み合わせ
分析結果を工程ごとに配置することで、負荷状況を「見える化」する機能です。山の一つ一つが分析した工程ごとの動画とひも付いており、凸凹になっている状態がフラットになるように作業手順を見直すことで、負荷を平準化できます。また、最適な作業手順に置き換えた場合にどの工程がどれだけカイゼンされたかを「見える化」する『標準作業組合せ票』も出力可能です。

4.マニュアル出力
分析結果を手順書や動画マニュアルとして出力する機能です。作業の分析結果や入力したカン・コツなどをそのまま出力できるため、マニュアルの作成工数を大幅に削減できます。

活用シーンとメリット
作業分析ソフトウェアは、製造現場での作業や設備保全のカイゼンで活用できます。ライン生産やセル生産の現場では、動作のムダ取りや標準化によって作業効率が高まり、現状のリソースでより安定した生産ができるようになるでしょう。一品物の製造現場においても、共通作業の標準化や実績工数の把握によって、より正確な工数見積りが可能になります。
また、作業分析ソフトウェアは、カイゼン事例の共有や教育・技能継承にも役立ちます。年齢、国籍などを問わず、誰でも分かりやすい動画マニュアルで効率的に技術を伝えることができるため、人材不足や技術者不足の対策にも最適です。
| 活用シーン | 作業分析ソフトウェアでできること |
|---|---|
| 作業改善 |
|
| 保全 |
|
| 発表・共有 |
|
| 教育・技術伝承 |
|
| ライン生産 |
|
| セル生産 |
|
| 一品生産 |
|
運用の流れ
作業分析ソフトウェアの運用の流れは、次の6ステップに大きく分けられます。作業分析は一度だけ実施して終わるのではなく、継続的に実施してカイゼンし続けるように意識しましょう。

- 作業の様子を動画で撮影する
- 撮影した動画を作業分析ソフトウェアに取り込む
- 動作を要素分割し、所要時間の集計や比較再生をしながらムダ取りを行う
- 標準的な動作や作業時間を作成し、最適動作でのシミュレーションを行う
- 動画マニュアルや作業手順書を作成し、作業者の教育を行う
- カイゼン後の作業を実践し、効果を測定する
AIによる効率化
作業分析ソフトウェアは、製造業のカイゼン活動で非常に役立つツールですが、要素分割が手間というデメリットがありました。人が動画を見ながら一つ一つの動作を手作業で分割していかなくてはならず、地道で時間がかかっていました。
しかし、作業分析ソフトウェアにAIを組み込むことで、要素分割の自動化が実現できます。一度サンプルデータを作成してAIに学習させると、分析したい動画を自動で要素分割してくれるため、繰り返し分析をする場合や複数作業者の比較分析をする場合などに役立ちます。カイゼン後の効果測定や作業者ごとのバラつきの検知が手間なく行えるようになり、カイゼンのサイクルを素早く回せるようになるでしょう。
また、AIは要素分割を自動化するだけでなく、「動作のバラつき」も見ることができます。例えば、AIがお手本と分析したい動画の動作を比較して、一致度合いを評価することが可能です。この機能を活用すれば、ベテランと新人の動作の違いを素早く発見してカイゼンできるようになります。

まとめ
製造業を取り巻く環境が厳しく変化している今、あらためて業務改善の重要性が高まっています。その鍵となるのが「カイゼン」の考え方です。まずは現状観測から始めてみてはいかがでしょうか。
昨今では、本記事でご紹介した作業分析ソフトウェアのように効率的なカイゼン活動を実現できるITツールが登場しています。これらのツールを有効活用しながら、カイゼン活動に取り組んでみてください。
【関連製品】作業分析・業務最適化ソフトウェア「OTRS」
「OTRS」はIE(インダストリアルエンジニアリング)に基づいた作業分析ソフトウェアです。動画を使った作業分析を支援することにより、動作のムリ・ムラ・ムダを「見える化」し、現場の作業標準化、教育・技術伝承を推進します。IEの専門知識がなくても、現場カイゼン・作業標準化の分析を行うことができます。

本記事の監修者
吉田 幸徳 氏(株式会社ブロードリーフ 営業本部 特販グループ 営業推進部 DXマネージャー)
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