製造業のデジタル化が進む中で、システムやIoTを用いたデータ収集に取り組む企業が増えています。しかし、製造業DXを実現するにはデータを収集するだけでは不十分であり、いかにデータを分析して、そこから得られた知見を実際の業務に生かせるかが重要です。この記事では、製造業DXにつながるデータ分析の導入ポイントや、AIを活用したデータ分析の事例をご紹介します。
AIデータ分析で製造業DXを実現するには? 導入ポイントや活用事例を紹介
2025年 1月29日公開
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目次
製造業におけるDXの重要性
製造業におけるDXとは、ものづくりの現場で培ってきたデータを活かしてQCD(Quality:品質/Cost:原価/Delivery:納期)を向上させると共に、顧客や社会のニーズに合わせてビジネスモデルを変革させることです。DXには、生産性の向上や安定的な事業継続、新たな製品やサービスの創出、顧客満足度の向上といったメリットがあり、昨今の製造業にとって欠かせない取り組みとなっています。
製造業では人の作業履歴や生産設備などから多くのデータを得られるため、大きな変革を起こせる可能性が高いと考えられています。しかし、まだまだアナログなやり方を継続している企業も多いため、いち早くDXに取り組むことで競争力を高められるでしょう。
製造業のデータ分析とは
昨今では、製造業のデジタル化が進んだことで人の作業履歴や設備などを対象にしたデータ収集を行う企業が増えつつあります。製造過程で生まれるさまざまなデータを収集し、的確な分析を加えたうえで業務改善に活かしていけば、次のようなメリットを得られるためです。
- 生産性向上
- コスト削減
- 品質改善
- 収益性向上
- 迅速な意思決定の実現
しかし、実際にはうまくデータを活用しきれず、範囲の狭い分析になってしまっていたり、ただデータを集めただけで終わってしまっていたりするケースも少なくありません。適切にデータを管理・分析して実際の業務改善に活かせるかどうかが、これからの製造業企業にとっての課題といえるでしょう。
製造業がデータ分析を行ううえでの課題
ここでは、中堅・中小製造業がデータ分析を行ううえでどのような課題があるのかを解説します。
データを十分に集められていない
多くの製造現場では、紙の帳票やエクセルによるアナログな管理がまだまだ残っています。その場合、それぞれの紙やエクセルに製造現場のデータが分散して記録されているため、分析するのは困難です。まずは基幹業務システムを導入するなどして、データを一元管理できるようにする必要があります。
また、製造現場ではさまざまなデータが存在していますが、それら全てを人の手で記録するのは非現実的であり、手間やミスが発生します。生産設備や各種センサー、計測器・計量器などからIoTでデータを収集し、基幹業務システムのデータにひも付けることで、データ分析の精度を高めることができます。
データ分析のノウハウがない
多くの企業では、収集したデータをエクセルで眺めたり、BIツールで簡単なグラフを作ったりすることにとどまっています。データ分析には専門的なスキルが必要になりますが、そのような人材を有している企業が少ないのが実情です。
また、もしデータ分析のスキルを持っていたとしても、その人材が製造現場に精通しているとは限りません。製造現場にも精通していなければ、データ分析の結果を実際の業務レベルに落とし込んで改善することは難しいでしょう。
手作業でのデータ分析に限界がある
現在は製造業全体で人手不足が深刻化しており、あらゆる業務で効率化が求められています。日々多くの問題が発生し、データを用いて解決していかなければならない中で、1件1件手作業でデータの加工や分析を行うのには限界があるでしょう。
製造現場でのデータ分析にはエクセルがよく用いられていますが、エクセルでは機能に限りがあります。専門的なツールを導入するなどしてデータ分析を自動化し、リアルタイムかつ手間なく分析結果を確認できる環境を構築する必要があります。
製造業がデータ分析にAIを活用するメリット
上述したデータ分析の課題を解決する手段としてAIが注目されています。ここでは、製造業がデータ分析にAIを活用するメリットについて解説します。
データ分析にかかる工数の削減
AIは膨大な量のデータ(=ビッグデータ)を扱って高精度に分析できます。人がデータ分析を行うのと比較してより早く、より多くのデータを分析して有益な情報をアウトプットすることが可能です。データ分析にAIを活用することで、これまでデータ分析にかかっていた時間が大幅に短縮され、スピーディーに業務改善できるようになるでしょう。
また、AIによる分析結果を基に業務改善を進めていくことで、製造現場の生産性向上やコスト削減、品質向上につながると考えられます。
客観的な分析結果が得られる
AIは客観的なデータに基づく分析によって、主観や属人性を排除した結果をアウトプットできます。例えば、不良品の発生原因を分析する際に、今までベテランの作業者でも気付いていなかった思わぬ要因を発見できる可能性があるのです。ベテランの作業者の経験や勘に頼ることなく、データを基にした業務改善が実現できる点はメリットといえるでしょう。
もちろん、まだまだ経験や勘に頼らなければならないシーンもありますし、AIによる分析結果が必ず正しいというわけではありません。AIの分析結果を参考にしつつ、内容によっては人が判断するといったようにバランスのよい運用を目指しましょう。
データ分析のノウハウ不足を補える
データ分析を高精度に実施するには、従来はデータサイエンティストと呼ばれる専門家のスキルが必要とされていました。しかし、昨今ではデータサイエンスのプロセスを自動化できるAIデータ分析ツールが存在しています。
現在のデジタル社会においてデータサイエンティストは不足しており、中堅・中小製造業で確保するのは難しい状況です。AIデータ分析ツールであれば、データサイエンティストのいない企業であっても導入しやすく、製造現場の担当者自らがデータをインプットして業務改善に着手できます。
製造業におけるAIを活用したデータ分析の事例
製造業がAIを活用すると、不良要因、故障要因、歩留まり要因に対するデータ分析とその結果に基づく業務改善を行えます。それぞれどのような内容なのかご紹介します。

不良要因の分析
従来の製造現場では、不良が発生した際にベテランの作業者や品質管理担当者の勘や経験を基に対策が行われていました。しかし、AIを活用すれば、今まで人が気付いていなかった不良の発生要因をデータから導き出せる可能性があります。
例えば、製造工程の最後の方で不良が発生した場合、人の手で分析できるのは当該工程やその少し前くらいの範囲に限定されます。しかしAIであれば、そもそも原材料の品質に問題があったことや、最初の方の工程における特定の製造条件が影響しているといった気付きを得られるかもしれないのです。
ほかにも、慣例的に行っていた設備の設定値を狭めることで不良が削減できるなど、AIが客観的なデータに基づく分析を行うことで、思わぬ改善点が見つかる可能性があります。
故障要因の分析
設備の故障が製造現場に与える影響は非常に大きいものですが、明確な要因にしか対策できていないケースが多いです。しかし、AIであれば設備の稼働ログや加工条件、センサーデータ、日常点検記録などのさまざまなデータを組み合わせることで、今までベテランの作業者でも気付いていなかった要因を発見できる可能性があります。
例えば、オイルや工作機械の部品交換サイクルを短くした方が良い、といった分析結果を基に設備点検業務のあり方を見直すことで、故障を未然に防げるようになるでしょう。故障後に対策する事後保全から故障を未然に防ぐ予知保全に移行することで、製造現場の安定性が高まります。
歩留要因の分析
製品の不良や設備の故障が少ない製造現場であっても、歩留要因の分析という形でAIは役に立ちます。特に高い生産性や品質で製品を生産できた場合に、通常時と何が違ったのかを導き出して業務改善に役立てるといったことが可能です。
例えば、より小ロットで作る、特定の作業のサイクルタイムを短くする、といった歩留まりが良いときの製造条件をAIが導き出した場合、その条件を常に再現できるように工夫することで、さらなる生産性向上につながると期待できます。
AIデータ分析の導入ポイント
ここでは、AIによるデータ分析を製造業が取り入れる際のポイントを解説します。
データの品質を確保する
AIはインプットしたデータに基づいて分析を行うため、データの品質には注意すべきです。データの量を重視するあまり低品質なデータまでインプットしてしまうと、AIによる分析結果が信頼できないものになる恐れがあります。
AIにインプットする予定のデータの中には、試作時のデータや導入して間もない不慣れなシステムで登録したテストデータなどが残っているケースもあるため、インプットする前に、分析に適した品質のデータかどうかを精査しましょう。
中長期的な目線で分析する
AIはデータをインプットすると素早く分析結果を提示してくれますが、その結果はあくまでもインプットしたデータを基に相関や影響度が表現されています。そのため、インプットしたデータに偏りがあると、分析結果も偏ってしまう点には注意が必要です。一度分析をして終わりではなく、継続的にPDCAサイクルを回しながら分析していくようにしましょう。
例えば、関連するデータをさらに追加してみる、反対に対象範囲を絞ったデータで分析してみる、といった多角的な分析をすることで、真の気づきを得られる可能性が高まります。
AIに関する理解を深める
昨今ではさまざまなAI技術が活用されていますが、データ分析で利用するAIの特性を正しく理解したうえで導入・活用するようにしましょう。例えば、生成AIの分野では質問の仕方によっては意図した回答を得られないケースが問題視されることがありますが、本記事で紹介した要因分析のAIとは仕組みが異なります。
要因分析の場合は機械学習をベースとしており、インプットしたデータに基づいて数学的に相関や影響度が示されます。そのため、質問の仕方ではなくデータの品質が最も重要になるのです。このように、AIに関する理解を深めながら、そのポテンシャルを最大限に発揮できる使い方を工夫するようにしましょう。
中堅・中小製造業のデータ分析に貢献する「dotData Insight Lite」
大塚商会では、中堅・中小製造業のデータ分析に貢献するAIデータ分析サービス「dotData Insight Lite」を提供しています。「dotData Insight Lite」の概要や特長を簡単にまとめてご紹介します。

「dotData Insight Lite」とは
「dotData Insight」は、製造現場によるデータに基づく業務改善を実現する革新的なデータ分析プラットフォームです。データの中からAIが隠れたパターンを発見・提供するため、製造現場の作業者自らがデータから気づきを導き出し、迅速かつ効果的な業務改善を行うのに貢献します。「dotData Insight」を利用することで、製造現場がデータの価値を最大限に活用できるようになり、DXに大きく近づきます。例えば、以下のようなことが実現できます。
業務データのパターンを網羅的に探索

「dotData Insight」はインプットした製造現場のデータの中から隠れたパターン(特徴量)を発見します。多種多様なデータから自動でさまざまな仮説を生成・探索することで、手作業による分析では見つけにくい新たな気付きを導き出すことが可能です。インプットしたデータを基にAIが項目数(特徴量)を自動で増やしながら分析していくため、データが少ない状態からでもデータ分析を開始できます。
生成AIによるビジネス仮説の生成

「dotData Insight」は発見した特徴量を生成AIと統合し、その背後にある要因や理由に関する仮説を自動で生成します。AIが重要と判断した特徴量がランキング形式で提示されるため、業務改善する際にどこから着手すればよいか、なぜ着手すべきかが一目で分かります。また、生成AIに対して業務に関する知識を追加でインプットすることで、仮説を対話的に洗練させることも可能です。
まとめ
AIを活用してデータ分析による業務改善を繰り返すことで、製造業DXの実現に大きく近づきます。基幹業務システムやIoTを既に導入し、データを蓄積できている企業は、さらに一歩進んでデータ分析に着手してみてはいかがでしょうか。
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本記事の監修者

柵山 英之
(株式会社大塚商会 本部SI統括部 ニュービジネスプロジェクト 課長)
大塚商会に転職する以前は、製造業にて生産技術関連を手掛け、生産設備の製作、PLC(Programmable Logic Controller)を駆使した開発などを通じてFA(Factory Automation)に精通していました。その経験を生かし、現在は主に生産管理システムを活用したIoTソリューションを展開しています。
【保有資格】
JDLA(一般社団法人日本ディープラーニング協会)
- Deep Learning for ENGINEER 2024#1
- Deep Learning for GENERAL 2022#3
AIPA(一般社団法人AI・IoT普及推進協会)
- 認定AI・IoTマスターコンサルタント
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