センシングとは? IoTに欠かせない技術の特徴と製造業における活用事例

2022年12月13日公開

モノのインターネットと呼ばれるIoT(Internet of Things)に欠かせない技術として、センシングが注目されています。製造業がデータ活用を進めるうえでも、センシングとIoTによる無線データ通信は不可欠な技術です。

本記事では、センシングの意味、種類や用途、導入メリット、データ収集でよくある課題とその解決方法、製造業における活用事例を紹介します。

センシングとは

センシングは、センサーと呼ばれる検知器によって測定対象を計測し、定量的な情報を取得する技術です。私たちの身の回りには数多くのセンサーが存在して、人間の感覚の代わりとなって働いています。

センシング技術は次の2種類に大きく分けられています。

スマートセンシング
対象物の近くにセンサーを設置して計測や検知を行う技術
リモートセンシング
対象物に触れることなく定量的な情報を取得する技術

センシング技術は既にあらゆる分野で導入が進み、取得した情報をもとに機器を制御したり、情報を分析してより付加価値の高い情報に変換したりして活用されています。製造業では上述したスマートセンシング技術の活用が効果的とされ、多くの企業が導入を進めています。

センシング技術の種類

代表的なセンサーの種類と用途例は以下の通りです。

画像センサー(イメージセンサー)
カメラで撮影した映像をもとに対象物の特徴量を計測するセンサー。カメラによる外観検査を行ったり、作業員や設備の状態を把握したりするために用いられています。
レーザーセンサー
レーザー光を照射して物体を検知するセンサー。対象物との距離を計測したり、幅・厚み・高さなどの寸法を計測したりするために用いられます。
加速度センサー
単位時間あたりの速度変化を意味する加速度を計測するセンサー。物体の移動量を計測したり、衝撃を検知したりするために用いられます。
風量センサー
空気の流れる量や速さを計測するセンサー。空調機器や設備のメンテナンスに用いられています。
水位センサー
液体の液面の高さを計測するセンサー。タンクや容器に入っている液体の残量を把握するために用いられます。
振動センサー
物体の振動を計測するセンサー。設備の異常な振動を検知して故障や損傷を早期発見するために用いられます。
電流センサー
回路内の電流を計測するセンサー。設備の稼働状況を検知したり、細かな電流制御が必要なモーターの状態を把握したりするために用いられます。
温度センサー
対象物や空間の温度を計測するセンサー。設備の異常な温度変化を検知したり、製品や材料を適正な温度で管理したりするために用いられます。

製造業がセンシング技術を導入するメリット

次に、製造業がセンシング技術を導入するメリットを紹介します。

品質管理レベルの向上

センシング技術により、人間の感覚よりも高い精度で情報を取得できます。目視検査での判別が難しい不具合を検知したり、検査を自動化してヒューマンエラーを削減したりすることで、品質向上が可能です。また、設備の加工条件を計測・分析することで、加工時の問題点を発見して品質改善に役立てることができます。

さらに、センシング技術はトレーサビリティを確保するうえでも効果的です。製造条件や品質記録を紙で保管しておくと手間がかかりますが、センシング技術で取得した情報をデータとして蓄積することで、すぐに必要な情報を検索できます。

設備保全の効率化

多くの製造現場では、設備の稼働状況を把握するために人による巡回・点検作業が行われています。保全担当者が工場内を巡回し、目視や手書きで点検していると相当な工数がかかってしまいますが、センシング技術を活用すれば省人化が可能です。

設備にセンサーを取り付けて温度や電流などの情報を取得し、遠隔で監視できる仕組みを構築すれば、保全担当者がトラブルの発生をすぐに検知して対応できるようになります。さらに、昨今ではAIを用いた予知保全や故障予測も行われて、設備トラブルの発生を未然に防いで被害を最小限に抑えられるようになっています。

生産性の向上

センシング技術を活用すれば、作業の進捗(しんちょく)状況や設備の稼働状況、製品や部品の所在地といったあらゆる情報をリアルタイムに把握できるようになります。生産の遅れを素早く検知して対処する、モノの滞留を削減してリードタイムを短縮する、といった形で生産性を向上させることが可能です。

また、製造現場の「見える化」によって改善すべきポイントが明確になる点もメリットです。ポイントを絞った改善活動によって生産効率を高めていくことで、品質(Quality)・原価(Cost)・納期(Delivery)の向上につながるでしょう。

製造業におけるデータ収集の課題と解決方法

国をあげての積極的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進により、製造業の現場でもAIや生産管理システムなどの優れたツールの導入が求められています。それらのツールを有効に活用するにはセンシング技術によるデータ収集が不可欠ですが、製造業のデータ収集には幾つかの課題があり、DXの妨げとなっている状況です。

ここでは、製造業のデータ収集の課題とその解決方法について解説します。

データの収集方法が分からない

例えば、設備から直接データを収集して生産管理などに活用したいと考えても、既存設備が古くてデータを収集できないという声をよく聞きます。実際に日本の製造現場では、10~20年以上前の設備が今でも現役で稼働しているケースが多く、そういった設備からデータをうまく収集できずにIoT化が限定的になっている傾向にあります。新しい設備であればデータ収集する機能が標準で備わっていることもありますが、既存の古い設備からどうやってデータを収集すればよいのかと悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

また、設備から直接データを収集する方法がブラックボックス化してしまい、設備メーカーでなければ分からないというケースも見受けられます。特に中小企業の場合は設備のメンテナンスを担える生産技術担当者が少ないため、メーカーやベンダーに一任していて自社では仕様がよく分からないという状況に陥りやすい傾向にあります。

こういった悩みを抱えている企業におすすめの方法は、「センサーの後付け」です。昨今では既存設備に後付けして使用できるセンサーが数多くあり、古い設備からであっても必要なデータを収集・活用する仕組みを構築できます。設備メーカーに都度問い合わせることなくデータ収集を進められるため、自社の思う通りにIoT化やDXを進められます。

どのようなデータを収集すべきかが分からない

製造現場には作業者や設備といったデータ収集の対象が数多く存在し、データの種類も多岐にわたります。それら全ての膨大なデータを収集しようとすると、膨大なコストがかかるだけでなく、せっかく収集したデータをうまく扱いきれない可能性もあります。

また、データの種類だけでなく粒度にも注意しなければなりません。例えば、温度を計測する場合に、1℃単位で計測するのか、0.01℃単位で計測するのかではセンサーに求められる精度が大きく異なります。より詳細なデータを収集しておきたいと考える気持ちはよく分かりますが、目的に見合わない過剰なデータを収集していても余計なコストがかかるだけです。

このように、センシング技術を活用してデータ収集を行う際には、やみくもにデータを集めるのではなく、自社の目的や用途に応じて収集するデータの種類や粒度を選定する必要があります。しかし、どういったデータを収集すべきなのか、どの程度の粒度で収集すべきなのか、といったノウハウを持つ企業はまだまだ少ないのが現状です。センシング技術やIoTに精通した外部のベンダーに相談し、PDCAを回しながら少しずつデータ収集に取り組んでいくことをおすすめします。

製造業でのセンシング取り組み事例

電話機をはじめとする情報通信機器を開発・製造している株式会社ナカヨでは、自社の製造現場においてセンシング技術を積極的に活用し、大きな成果をあげています。

ここでは、ナカヨでのセンシング取り組み事例を紹介します。

1.設備立ち上げ時間の「見える化」

成形機の稼働状況を把握するためにセンサーを取り付けた結果、始業後に全ての成形機が稼働開始するまでに最大90分もの時間がかかっていることが判明。

この結果を受けて現状を分析すると、設備の始動にかかる時間が人やグループによって異なる、成形機のヒーター温度が上がるのが遅く立ち上げに時間がかかっている、といった課題が明確になりました。改善策として、設備の始動に関する手順書を作成してノウハウを共有したり、ヒーターの昇温待ちをなくすためにタイマー機能を利用したりした結果、稼働開始するまでの停止時間を75%削減することに成功しました。

2.成形材料の残量監視

樹脂成形に用いる材料は、成形不良を防ぐために十分に乾燥させておかなくてはなりません。専用の乾燥機へ事前に材料を投入して乾燥させておく必要がありますが、材料の補充忘れによって材料乾燥待ちの時間が発生していることが分かりました。

改善策として、乾燥機に材料の残量を把握するセンサーとアラーム警報装置を取り付け、材料の補充忘れを防止する仕組みを構築しました。その結果、材料乾燥待ちによる停止時間を100%削減することに成功しています。

3.ファンの異常検知

成形機の多くは、設備が高温になりすぎるのを防ぐために冷却ファンを備えています。冷却ファンに風量センサーを後付けして風量のモニタリングを実施していると、突然風量が弱くなり、アラームが発生しました。

冷却ファンを点検すると、汚れとベアリングの劣化によって風量が弱くなっていることが分かったため、清掃とベアリングの交換を実施しました。その結果、冷却ファンの風量は回復し、故障によって大きな修理費と長時間の設備停止が発生するのを未然に防ぐことができました。

4.日常点検と兆候監視

板金部品の洗浄機では、洗浄液の汚れによって不良が発生するのを防ぐために定期的に交換を行う必要があります。洗浄機に導電計を後付けで設置し、導電率や水素濃度イオン指数といった液汚れに関するデータを「見える化」すると、適切な液交換のタイミングが分かるようになりました。

「見える化」された結果にもとづいて液交換を実施した結果、年平均で1.3カ月に交換周期を延ばすことができ、廃液処理にかかる費用を23%削減することに成功しました。

まとめ

製造業がデータを活用したDXを進めるうえで、センシングとIoTによる無線データ通信は不可欠な技術です。前述のセンシング取り組み事例のように、実際にセンシング技術を積極的に活用している企業では、生産性や品質の向上、設備保全の効率化が進んでいます。

大塚商会が提供している製造業向けIoTシステム「ファクトリーNYC(ナイス)」は、設備の機種・年式を問わず、センサーを後付けして既存設備からデータを収集できます。また、収集したデータは、グラフによる「見える化」によって分析・改善に役立てることが可能です。興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください

この記事に関連する製品

製造業向けIoT見える化システム「ファクトリーNYC(ナイス)」

「ファクトリーNYC」は、無線通信モジュール/ゲートウェイとセンサー、タブレット端末とを活用して、製造ラインの稼働状況、生産計画に対する進捗(しんちょく)状況、設備の予防保全などの一括管理ができるIoTシステムです。

この記事に関連する記事

AIによる故障予測と異常検知とは

機械学習やディープラーニングなどのAI技術が進歩により、AIによる故障予測・異常検知の手法が確立し、製造業への導入が進んでいます。今回は、AIによる故障予測・異常検知の概要や導入方法、事例など紹介します。

[2022年 7月20日公開]

IoT・スマートファクトリー化を進めるうえでデータ収集に課題をお持ちの製造業様必見の動画を配信中!

自社工場で培ったセンサー選定、設置、活用ノウハウと通信技術を活用したIoT無線データセンシングシステムについて、株式会社ナカヨ様が自社でのIoT導入改善事例を交えながら、具体的にご紹介しています。
その他にも、製造業の皆様に役立つセミナー動画を多彩にご用意。無料でご視聴可能ですので、お気軽にお申し込みいただき、情報収集にご活用ください。

  • * コンサルタント、同業、生産管理システムメーカーおよび販売店の方のお申し込みはお断りしております。あらかじめご了承ください。

他の記事を読む(新着記事)

生産管理システム導入検討・活用ヒント集 全記事一覧

生産管理システムに関するセミナー・展示会情報

開催中のセミナー情報

生産管理セミナー動画

お役立ち資料ダウンロード

生産管理システム導入事例集

大塚商会のERPソリューションが現場の課題をどのように解決し、成功へと導いたのか。導入前の課題、導入後の効果、当社との出会い・活用法、今後の展開など、製造業のお客様の事例を集めました。

ダウンロード資料:PDF・24ページ(4事例)

事例集をダウンロードする

生産革新ファミリー総合カタログ ダウンロード

「生産革新ファミリー」は、製造業における受発注・在庫・品質・原価など、さまざまな生産管理のお悩みを解決し、販売や会計などの基幹業務システムとのデータ連携も実現します。お客様の要望を製品開発に生かした大塚商会オリジナルの生産管理システムで、五つのパッケージシステムにより、全ての製造業に対応します。
ダウンロード資料:PDF・20ページ

カタログをダウンロードする

お問い合わせ・ご依頼はこちら

製品導入に当たって、疑問・質問はございませんか? お取引実績130万社の経験からお客様のお悩みにお答えします。資料のご請求、お見積りから、実機でのデモ希望など、お気軽にご相談ください。

お電話でのお問い合わせ

0120-220-449

受付時間
9:00~17:30(土日祝日および当社休業日を除く)
総合受付窓口
インサイドビジネスセンター

卸販売について

ページID:00235052