製造業におけるAIによる需要予測

2022年 8月12日公開

製造業のうち、見込生産をする企業の多くは、過去の販売実績などをもとにした需要予測を行っています。しかし、需要予測は属人的になりやすく、予測精度も悪くなることに課題を抱えている企業も多いでしょう。

昨今では、AIを活用した高精度な需要予測が可能となり、製造業におけるあらゆる業務の効率化を実現しています。そこで本記事では、AIによる需要予測の概要や導入方法、事例などをまとめて紹介します。

需要予測とは

需要予測とは、自社の製品が将来どれくらい売れるかを予測する取り組みです。

見込生産をする多くの企業は、なんらかの形で需要予測を行っています。なぜなら、製品の需要が少ないのに過剰に生産してしまうと、製品が売れ残ってしまうためです。反対に、製品の需要が多いのにあまり生産しないと、供給が追いつかずに本来得られるはずの利益を失うことになります。そのため、製造業には将来の需要をできる限り高い精度で予測し、必要なときに必要なだけ生産することが求められているのです。

一般的な需要予測の手法としては、次の三つが挙げられます。

移動平均法
過去の売上の移動平均を算出して、将来の需要を予測する手法です。考え方がシンプルで使いやすいため、多くの企業で活用されています。例えば、4月の販売数が100個、5月が150個、6月が140個だった場合、7月の需要予測は移動平均法によると130個となります。
指数平滑法
過去の予測値と実績値を割り出し、その両方を使って需要を予測する手法です。例えば、「予測値=a×前回実績値+(1-a)×前回予測値」といった計算式に当てはめて将来の需要を予測します。aは0以上1未満の任意の数値を設定することになり、1に近いほど直近のデータを、0に近いほど過去のデータを重視した需要予測を行えます。
回帰分析
需要と因果関係がありそうな変数を組み込んだ予測モデルを用いて、需要を予測する手法です。変数が一つの場合は単回帰分析、複数ある場合は重回帰分析と呼びます。例えば、店舗の売上を予測する場合は、来店者数や品目数、時間、広告宣伝費などを変数にして計算することになります。

これらは統計的な手法ですが、それ以外にも、営業担当者の見積りや顧客からのフォーキャスト情報を基に需要予測を行うこともできます。

需要予測のメリット

高精度な需要予測によって、製造業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。主なメリットを三つご紹介します。

【メリット1】生産計画の最適化

需要予測によってどの製品を幾つ作ればよいかが分かれば、最適な生産計画を立てることができます。

上述の通り、製品の需要を無視して生産をしていると、過剰在庫や機会損失を引き起こしてしまいます。また、設備の稼働率が悪化したり、余剰人員や長時間労働が発生したりと、製造現場に与える悪影響は大きいものです。

需要予測に基づいて最適な生産計画を立てることができれば、無駄なコストをかけずに、適正な人員配置によってより多くの利益を上げられるようになります。

【メリット2】発注計画の最適化

需要予測によって最適化できるのは、生産計画だけではありません。原料・部品・資材などの発注計画も最適化することで、適正な在庫管理を実現できます。

例えば、原料がどれくらい必要になるのかがあらかじめ分かっていれば、余分に発注しなくてもよいので在庫リスクを低減できます。また、いつまでに必要かが分かれば、原料のリードタイムを考慮しながら余裕を持った発注ができ、欠品リスクも低減できるでしょう。

【メリット3】将来の販売計画の検討

需要予測は、将来の販売計画を検討するために重要な情報の一つです。

例えば、将来の売上予測が分かれば、経営層が経営戦略を立てやすくなり、設備投資や資金調達を適切なタイミングで実施できるようになります。また、営業担当者が販売計画に基づいて営業活動を行うことで、成約率や生産性の向上が期待できます。

AIによる需要予測とは

顧客ニーズや消費傾向が激しく変化する現代では、需要予測の難易度が上がっています。多くの企業はベテラン担当者の勘や経験に頼っており、予測精度にバラツキがあると悩んでいるケースが多い現状です。

そういった背景の中で、昨今ではAIによる需要予測のニーズが高まっています。膨大なデータを分析できるAIであれば、人が今まで気づかなかった傾向や需要に影響する要因をつかみ、高精度な予測が可能です。また、AIはデータ中心のアプローチで需要を予測するため、特別なスキルや経験のない担当者でも一定精度の予測ができるようになり、属人化を防げるというメリットもあります。

AIによる需要予測を行うには、データ収集・加工・特徴量設計・機械学習といったデータサイエンスのプロセスを経る必要があります。その中でも、特に重要なのは特徴量設計です。特徴量設計とは、データの中から予測に役立つ変数(特徴量)を抽出する作業であり、専門知識を持つデータサイエンティストによる試行錯誤が不可欠になっています。

最先端のデータ分析ツール「dotData」は、データサイエンスのプロセスの大半を自動化しており、データサイエンティストのいない企業であってもAIを導入しやすいのが特徴です。需要に関連しそうなデータ一式をインプットするだけで、AIが予測モデルを生成し、需要予測を行うことができます。

製造業における需要予測AIの導入方法や進め方

需要予測でAIを導入する場合、どういった手順で導入を進めればよいのでしょうか。ここでは、大塚商会が提供する「dotData AI分析サービス」を基にAIの導入方法や進め方をご紹介します。

【Step1】アセスメント

課題を整理する

まずは現在の需要予測の方法を見直して、どういった課題があるのかを整理しましょう。営業部門だけでなく、購買発注部門・製造部門・経営層といったさまざまな部署や担当者から課題を聞き、その原因についても予想しておくことが重要です。

施策と優先順位を設定する

課題を整理したうえで、具体的に取り組むべき施策を検討していきます。AIの導入も数多くある施策の一つなので、既存の業務やシステムの改善も含めてベストな方法を検討すべきです。

また、いきなり全ての製品の需要予測を始めるというのは現実的ではありません。経営への影響度の大きい主力製品から始めるなど、優先順位を設定した方が効率的に進められます。

必要なデータを確認する

AIの予測モデルを生成するために、どういったデータが必要になるのかを推測します。需要予測においては、売上実績や受注・在庫・発注情報などのデータが中心になるでしょう。ただし、一見関係のなさそうな要因が需要に影響を与えている可能性もあるので、データを限定しすぎないのがポイントです。

【Step2】PoC(概念実証)

データ収集に取り組む

Step1で確認した、需要予測に必要と思われるデータを収集していきます。製品によっては社会情勢や気象情報などが需要に大きく影響する場合もあるので、必要に応じて外部からもデータを入手するようにしましょう。

AIの予測モデルを生成し、予測結果を評価する

大塚商会では、大塚商会が保有するdotData環境を利用して、収集したデータからAIの予測モデルを生成します。需要予測の結果はレポートにまとめて提供し、大塚商会のコンサルタントや中小企業診断士がアドバイスを行います。

【Step3】実装

予測結果を基にAIを実装する

AIの予測結果が需要予測で実用できると判断したら、実際にAIの予測モデルを実装して需要予測を行っていきます。AIが予測した需要情報を基に、生産計画や発注計画を立案しましょう。「dotData」では、AIが予測した結果に対する根拠まで示されるので、人が各種計画を立案する際の参考情報として役立てられます。

このときに、AIの予測結果をうのみにしすぎず、人が精査したうえで各種計画を立てていくのがポイントです。AIによって需要予測の精度が上がるとはいっても、100%の精度ではないので、予測が外れることも想定しておく必要があります。

【Step4】分析モデル継続利用

継続的に予測を行う

「dotData」では、一度生成した予測モデルは継続的に利用できます。予測値と実績値の比較を繰り返すことで、需要予測の精度はさらに高まっていくでしょう。

製造業がAI導入で失敗しないためのポイント

ここでは、製造業がAIの導入で失敗しないための三つのポイントを解説します。需要予測以外の用途にも共通する点が多いので、AIの導入を検討している方は参考にしてください。

課題や目的を明確にする

AIの導入には、当然ながら手間やコストがかかります。解決したい課題や目的が明確でなければ、十分な費用対効果を得られない可能性があるので注意しましょう。特に、需要予測のような経営と直結する用途であれば、安易にAIを導入すると逆に混乱を招く恐れがあります。

また、一口に需要予測といっても、何を実現したいかによって分析する視点が異なってきます。製品群別・製品別・顧客別・地区別など、需要予測の切り口は数多くあるので、自社の目的にあった切り口を選ぶようにしてください。

大塚商会ではアセスメントサービスを提供しており、お客様の課題のヒアリングやAIの有効性確認などを行っています。需要予測以外にも、製造業でAIを活用できる領域は数多くあるので、それらも踏まえた総合的な提案が可能です。

十分なデータを用意する

AIによる予測の精度を上げるためには、十分な量のデータが必要です。例えば、半年分のデータしかない状態で需要予測を行うと、季節変動のある製品の正確な需要を予測するのは困難です。また、その半年間の需要に特別な事情があった場合に、その影響を排除して将来を予測するのも難しいでしょう。

需要予測においては、一般的に3年以上のデータがあるのが望ましいとされています。ただし、製品によっては半年や1年分のデータでも大まかな傾向をつかめる可能性があるので、一概に言い切れないのが難しいところです。

大塚商会では、販売管理システムや生産管理システムなど、AIでの予測に役立つデータを蓄積するソリューションを数多く提供しています。お客様の課題解決に必要なデータを特定したうえで、そのデータを収集する具体的な方法まで提案できるので、AIの導入効果を高められます。

継続的に予測・改善を実施する

AIによる予測・分析は、継続的に実施することで精度が高まっていきます。予測した結果と実績の差異分析を何度も繰り返すことで、AIの予測モデルが洗練されていくためです。

また、需要予測によって傾向が見えてくると、より精度を高めるためにどういったデータが必要なのかが分かります。そのデータを追加で収集し、AIにインプットすることで、予測精度を高められます。

大塚商会ではAIモデルの継続利用サービスを提供しています。一度作ったAIモデルは大塚商会が管理しており、初回よりもコストを抑えて再利用することが可能です。四半期ごとや1年ごとにまとめて需要を予測したり、毎月欠かさず予測をしたりすることで、各種計画の立案に役立てられます。

AIによる需要予測を活用した事例

最後に、最先端のデータ分析ツール「dotData」を活用したAIによる需要予測の事例をご紹介します。

需要予測をするためには、需要に関連すると思われるデータ一式をAIにまとめてインプットします。具体的には、次のようなデータです。

  • 売上実績
  • 受注・在庫・発注情報
  • 発注先・出荷先情報
  • 製品情報
  • 工場・倉庫情報

これらのデータをもとに、AIが予測モデルを生成して需要予測を行います。商品別需要予測・倉庫別の商品出荷予測・得意先別受注数予測、といった切り口の異なる情報を取得できるので、それらの情報を参考にしながら、担当者が生産計画や発注計画を立てていくという流れです。

需要予測をAIが行うことで、特別なスキルや経験のない担当者でも一定精度の予測ができるようになります。また、これまで人が予測にかけていた工数を大幅に削減できるので、最適な計画の立案といった人にしかできない領域に集中できることも大きなメリットです。

AIによる需要予測は、業界・業種・部署・製品によってさまざまなメリットを得られます。特に、食品製造業のように季節による需要変動があったり、原材料が入荷するまでの期間や賞味期限、輸入による為替の影響なども考慮しなければならなかったりする場合には、より多くのメリットを得られるでしょう。

製造業の需要予測は「dotData」がおすすめ

今回は、製造業でのニーズが特に高いAIによる需要予測についてご紹介しました。AIを活用して精度の高い需要予測が行えるようになれば、あらゆる業務での効率化が図れます。「需要予測がうまくできない」「適切な生産計画や発注計画が立案できない」と悩んでいる企業の方は、AIによる需要予測を検討してみてはいかがでしょうか。

大塚商会が提供している最先端のデータ分析ツール「dotData」は、AI活用において最も難しいデータサイエンスのプロセスの大半を自動化することで、飛躍的な生産性の向上を実現しています。複雑なデータ加工が必要なく、数日で予測結果を得られるので、需要予測をすぐに実施することが可能です。また、予測した結果の根拠も示されるので、各種計画を立案する際の意思決定に役立ちます。

大塚商会は「dotData」によるAI分析サービスを独自に提供しており、最新のAIをローコストで活用できます。アセスメントサービスによる課題抽出や必要データの確認、データ収集に役立つ各種業務システムの提案も併せて行っているので、AIの導入が初めてというお客様であっても安心してご利用いただけます。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。

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