製造業でAIはどのように活用できる? 事例や導入ポイントを解説

2023年 1月11日公開

昨今の製造業は、人手不足や国際的な競争の激化といったさまざまな課題に直面しています。そういった課題を解消する技術としてAIが注目されており、導入・活用する企業が増えつつある状況です。そこで今回は、製造業においてAIはどのように活用できるのか、事例や導入時のポイントも交えて解説します。

AIとは

AI(Artificial Intelligence=人工知能)は、人間の知的振る舞いの一部をソフトウェアが人工的に再現する技術です。ディープラーニングと呼ばれる手法などで学習したモデルに従いながら、自動かつ柔軟に処理を行います。

AIによって実現できることは、次の2種類に大きく分けて考えることができます。

AIの分類AIで実現できること
学習・分析AIは膨大な量のデータ(ビッグデータ)から学習・分析することで、予測や判断を行えるようになります。従来の技術では非常に時間がかかっていた処理や、人間のノウハウが必要とされていた処理が、AIでは素早く簡単に行えるようになりました。また、これまで活用しきれていなかったビッグデータを実際のビジネスで活用できるようになった点も、AIのメリットといえます。
自動応答・制御上述した学習・分析系と組み合わせることで、AIは自動での応答や制御ができます。例えば、コールセンターにおける問い合わせ対応業務を自動化する、熟練技術者のノウハウが求められる機器の操作を自動化する、といった形で、実際のビジネスの現場でAIが活躍しています。

AIによって解決できる製造業の課題

AIを導入・活用することで解決できる製造業の課題を紹介します。

人手不足の解消

少子高齢化に伴う人手不足の影響は、製造業にも及んでいます。多くの企業が人手不足に悩まされており、既存の業務をこなすだけで手一杯となっている状況です。

しかし、AIを導入すれば今まで人にしかできなかった業務の自動化・効率化を実現できます。より少ない人数で業務をこなせるようになれば、DXやスマートファクトリーといった競争力を強化するための新たな施策に取り組む余裕が生まれるでしょう。

生産性の向上

AIを導入・活用することで、今まで人の手で行われていたさまざまな業務を自動化できます。AIにできる業務はAIに任せていき、従業員は人にしかできない付加価値の高い業務に集中していけば、企業の生産性は大きく向上するでしょう。

また、AIでは人が扱いきれなかった膨大な量のデータを扱うことができます。高精度な需要予測によって最適な生産計画を導きだしたり、故障予測によって設備トラブルを未然に防いだりすることで、さらなる生産性向上も期待できます。

品質の向上

製造業に対する品質要求は年々高まり、製造現場では今まで以上に品質管理が重視されるようになっています。しかし、外観検査におけるヒューマンエラーや検査精度のバラつきなど、人の手に頼った品質管理には課題が多いのが実態です。

AIはヒューマンエラーやバラつきがなく、常に安定した精度で外観検査を行ってくれます。また、膨大な量のデータから学習・分析することで、不良原因の特定や品質予測を行うことも可能です。このように、AIは不良の発生や流出を防止するのに役立ち、品質向上に貢献します。

技能継承

人手不足などの影響により、熟練技術者の技能継承が製造業全体で課題となっています。また、生産計画の立案や設備保全など、モノづくり以外の業務も属人化しており、ノウハウの蓄積・共有ができていないと悩む企業は少なくありません。

AIは熟練技術者の動きから技術やノウハウを学びとったり、過去のデータの傾向から最適な生産計画や設備保全を行ったりできます。AIをうまく活用することで、技能継承の課題を解消できるでしょう。

従業員の負担軽減

製造現場では重量物の運搬や長時間の単純作業など、従業員にとって大きな負担となっている業務が数多くあります。そういった業務の担い手をAIが搭載された設備やロボットに移行することで、従業員の負担を軽減できます。また、危険な作業をAIが担うことで、事故を防止する効果も期待できます。

製造業におけるAI導入の現状

Google Cloudが7カ国を対象に実施した調査レポートによると、日常業務でAIを使用している製造業企業の割合は、イタリア(80%)、ドイツ(79%)、フランス(71%)、イギリス(66%)、アメリカ(64%)、日本(50%)、韓国(39%)という結果になっており、日本の製造業のAI導入率は、ほかの先進国に比べると低い水準にあることが分かります。この調査の対象は従業員500人以上の企業となっているため、従業員の少ない中小企業のAI導入率はさらに低くなるでしょう。

Google Cloudの調査レポート

製造業でAIの導入があまり進んでいない理由の一つが、AIを扱うためのノウハウや人材の不足です。実際に、「2022年版ものづくり白書」によると、製造業がデジタル技術を活用していく上での課題として、半数近くの企業が「デジタル技術導入にかかるノウハウの不足」や「デジタル技術の活用にあたって先導的役割を果たすことのできる人材の不足」と回答しています。

2022年版ものづくり白書(経済産業省・PDF)

しかし、昨今では高度な専門知識を必要としないAIソリューションが提供されるようになり、AIを導入・活用するハードルは下がりつつあるため、今後は中小企業においてもAIの導入が進んでいくでしょう。

製造業におけるAI活用事例

製造業におけるAIの活用事例をご紹介します。

歩留まり改善・品質予測

製造現場にとって、生産性や利益率を向上させるための歩留まり改善は重要な取り組みの一つです。しかし、実際に歩留まり改善に取り組もうとしても、不良品の記録をするだけで終わってしまったり、不良原因がうまく特定できずに失敗したりするケースも少なくありません。

AIは膨大な量のデータから学習・分析し、データの傾向から不良原因を特定したり、品質を予測したりできます。例えば、化粧品・食品・薬品などを配合する製造業では、品質記録・原材料情報・配合表(レシピ)情報・設備の稼働情報といったデータから品質への影響度の大きい要因を分析し、不良品が発生しそうな条件を推測するといった用途でAIが活用されています。AIが得た情報をもとに、品質に悪影響を及ぼす条件を避けて生産することで、歩留まりを改善できるのです。

AIによる歩留まり改善と品質予測

故障予測・異常検知

製造現場では、設備の故障や異常による生産ラインの停止を防ぐために設備保全が行われています。しかし、設備保全には定期的な点検やメンテナンスの実施が不可欠であり、担当者に大きな負担がかかってしまいます。

AIは故障記録や稼働ログ、センサーで取得した振動・音・電流値・AE波(弾性波)といったデータから、設備の故障予測や異常検知を行えます。故障する可能性の高い設備や時期を予測することで、最小限の手間で点検やメンテナンスを実施できるようになり、設備保全にかかる負担を大幅に軽減できます。

AIによる故障予測と異常検知とは

需要予測

見込み生産を行っている企業にとって、過去の販売実績などをもとにした需要予測は特に重要な業務の一つです。しかし、昨今では顧客のニーズや消費傾向が激しく変化することから、需要予測の難易度が上がり、予測精度の悪化や属人化が課題となっています。

AIは過去の売上実績や受注・在庫・発注情報、製品情報といったデータから高精度な需要予測を行えます。商品別・得意先別といった異なる切り口で需要予測を行い、その結果をもとに生産計画や発注計画を立てていけば、過剰生産や機会損失を削減できるでしょう。特に食品製造業のような需要に影響する要素が多い業界の場合は、AIによる需要予測が効果的です。

製造業におけるAIによる需要予測

ナレッジ共有

AIは自社内のナレッジを蓄積・共有するのにも役立てられています。例えば、自社の設計標準や過去の実績、ベテラン担当者のノウハウなどをAIチャットボットのデータベースに蓄積しておけば、各担当者が必要な情報に素早くアクセスできるようになり、生産性が向上します。

また、自社のホームページでAIチャットボットを活用し、顧客からの各種問い合わせを自動化すれば、顧客はすぐに知りたい情報を得られます。問い合わせ対応にかかる人員を削減できるだけでなく、人によって回答内容や対応の仕方が異なるといったバラつきを解消できる点もメリットです。

AIチャットボットの仕組みやメリットとは? 製造現場のナレッジ共有のすすめ

品質管理

製造現場では今でも目視による外観検査が数多く行われ、ヒューマンエラーの発生や検査精度のバラつきが課題となっています。一部では画像検査装置による自動化も行われていますが、白か黒かの判別しかできないケースが多く、人のように柔軟な判断ができない点がデメリットです。

AIは大量のサンプル画像から画像判定モデルを作成し、外観検査を自動化できます。従来の画像検査装置とは異なり、人間によるあいまいさを含んだ判定も再現できるため、個体差の大きい食品製造業などの外観検査にも適用が可能です。実際にキズ・異物混入・変色といったさまざまな外観検査で、AIによる画像判定技術が用いられています。

製造業向けAIソリューション

大塚商会では、製造業のさまざまな業務の自動化・効率化に役立つAIソリューションを提供しています。

dotData AI分析サービス

「dotData AI分析サービス」は、AIが膨大な量のデータを分析し、データの傾向をもとに予測・判別などを行うほか、分析結果をもとに中小企業診断士からのアドバイスも受けられるサービスです。このサービスで使用する「dotData」は、AI活用において最も難しいデータサイエンスのプロセスの大半を自動化した最先端のデータ分析ツールであり、複雑なデータ加工なしにすぐに分析結果を得られます。品質・故障・需要などの予測に活用することで、素早く改善に着手することが可能です。

「dotData」による分析・予測の作業は大塚商会のデータサイエンティストが実施するため、お客様はデータをご用意いただくだけで最先端AIの分析結果を得られます。アセスメントサービスによる課題の抽出や分析に必要なデータの確認、データ収集するためのシステムやIoTの提案も併せて行っていますので、AIの導入が初めてというお客様であっても安心してご利用いただけます。

dotData AI分析サービス

たよれーる AIチャットボットサービス

「たよれーる AIチャットボットサービス」は、自然言語処理に優れた最新AIを採用したサービスです。人が会話で使うような自然な表現をAIチャットボットが解釈し、適切な回答を行うことができます。

チャットボットの導入にあたっては、利用目的に応じたトレーニングデータを作成し、AIに学習させる必要があります。「たよれーる AIチャットボットサービス」では、管理画面の流れに沿って進めるだけの簡単操作でチャットボットが作れるだけでなく、実際に約80台のチャットボットを使っている大塚商会の知見を生かした導入支援サービスもご利用可能です。運用開始後のメンテナンス機能や利用ログの管理機能も充実しているため、PDCAサイクルを回しながら実際にユーザーに使ってもらえるように改善してくことができます。

たよれーる AIチャットボットサービス

MMEye / MMEye Box

「MMEye / MMEye Box」は、製造業の外観検査を自動化して検査品質の向上を実現するAI画像判定サービスです。エッジ端末を利用して製造現場でリアルタイムにAI画像判定を行うことができます。AI技術と独自の前処理技術によって、複雑な判定を高精度に行ったり、個体差のある製品へのあいまいさを含んだ判定を人と同じように行ったりすることが可能です。

また、自動画像生成技術によって不良品のサンプル画像を自動生成して学習できますので、学習に必要な大量のデータを収集する必要もありません。利用方法については、クラウド上で画像判定モデルを作成する「MMEye」と、オンプレミスで作成する「MMEye Box」をご要望に応じて選んでいただけます。

MMEye Box

製造業がAIを導入する際のポイント

さまざまなメリットを得られるAIですが、「導入してもうまく使いこなせないのではないか」と不安に感じている企業は少なくありません。ここでは、製造業がAIを導入する際に押さえておきたいポイントを紹介します。

大塚商会では、AIの導入で失敗しないためのアドバイザリーサービスも提供しているため、ご興味のある方はお気軽にお問い合わせください。

自社の課題や目的を整理したうえで導入する

AIは製造業の課題解決に役立つ優れた技術ではありますが、決して万能ではありません。そのため、「取りあえずAIを導入してみたい」といったように明確な課題や目的がないまま導入してしまうと、うまく活用しきれずに失敗する可能性が高くなります。

自社のどういった業務に課題があるのかを整理し、それらをAIで解決できるのか、どのようなメリットを得られるのかを精査したうえで、導入しましょう。

適用範囲を広げすぎず、優先順位をつけて導入する

AIの導入には、少なからず手間やコストがかかります。最初から適用範囲を広げすぎるとうまく運用できなくなる可能性があるため、優先順位をつけてから導入するのがおすすめです。まずは、特に課題の大きい業務に絞って導入し、AIの導入効果を実感してからほかの業務に展開していきますと失敗しにくくなります。

PoCによってAIの導入効果を検証する

AIの導入時には、期待どおりのAIモデルが作成できそうかを事前に検証する「PoC(Proof of Concept=概念実証)」を必ず実施しましょう。AIを活用して自動化・効率化したい業務があったとしても、必要なデータがそろわなかったり、十分な精度が得られなかったりして実現できないケースもあるためです。

PoCでは、必要なデータを収集してプロトタイプのAIモデルを作成し、実際にAIによる予測・判断を実施してその結果を評価することになります。PoCでAIの導入効果を検証できてから本格的に導入を進めるようにすれば、AIの導入で失敗しにくくなります。

データの質と量を重視する

AIによる予測・判断の精度を高めるためには、学習用データの質と量が極めて重要になります。十分な量のデータがそろっていなかったり、データに欠損が存在していたりしますと、AIによる予測・判断がうまくいかない可能性が高いので注意が必要です。現時点で目的を達成するために十分なデータがそろっていない場合は、IoTなどの技術を活用しながら追加で収集していきましょう。

継続的に改善を実施する

AIは学習・分析を繰り返すことでさらに精度を高めていくことができます。運用が始まってからも継続的にその効果を検証し、運用中に新しく得られたデータから再学習するなどして、改善を続けるようにしましょう。また、運用後に業務内容が変わったり、AIの予測や判断に影響する新たな要素が発生したりする可能性もあるため、AIを常にアップデートしていく意識が重要です。

まとめ

今回は、製造業におけるAIの活用について事例なども交えながらご紹介しました。日本のAI導入率はまだまだ低い状況にありますが、今後はAIの活用が必須になっていくと考えられます。以前に比べると製造業向けのAIソリューションも充実してきたため、これからは大手企業だけでなく中小企業においてもAIの導入が進んでいくことでしょう。自社の抱えている課題を解消するために、AIの導入・活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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