昨今、あらゆる業界でIT化・DX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されています。製造業も例外ではなく、IT化・DXに対する意識が高まっていますが、やみくもに取り組んでも失敗する恐れがあるため注意が必要です。この記事では、製造業がIT化・DXを成功させるために経営層が押さえておきたいポイントを参考事例と併せて紹介します。
経営層必見! 製造業IT化・DX推進成功のポイントをわかりやすく解説
2023年 4月 7日公開
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目次
製造業におけるIT化・DXとは
昨今の製造業では、アナログな業務をデジタル技術で効率化する「IT化」に加えて、デジタル技術を活用してビジネスモデルを変革する「DX」が推進されています。IT化・DXには、生産性の向上、安定的な事業継続、新たな製品やサービスの創出、顧客満足度の向上のようなメリットがあり、多くの企業が取り組みを始めています。
IT化・DXが推進されている背景には、製造業を取り巻くさまざまな環境変化があります。例えば、外部環境の変化としては、競合他社との競争激化や顧客要求の向上、日本全体でのDX推進などが挙げられます。また、深刻化する人手不足や既存システムの老朽化、アナログで非効率的な業務によるコスト増加といった内部環境の課題も忘れてはなりません。
製造業がこれらの環境変化へ柔軟に対応し、競争力を維持・向上するためにも、IT化・DXは必須の取り組みといえるでしょう。
IT化・DX推進において経営層が意識しておくべきこと
IT化・DXは企業のあり方に深く関わる取り組みであり、担当者が個人で推進できるものではありません。経営層が強いコミットメントを持ち、どれだけ本気で関わるかによって、IT化・DXの成否は大きく左右されます。経営層がIT化・DXを推進する上で意識しておくべきことは、大きく三つあります。
- IT化・DXの方向性を打ち出す
中期経営計画や会社方針にIT化・DXでの変革を盛り込み、自社がどの方向に進んでいくのかを社内外の関係者に周知する - IT化・DXと現状のギャップを把握する
IT化・DXありきで考えるのではなく、まずは現状の課題を整理し、IT化・DXでどのように解決できるのか、どのように進めるべきかを考えて実践していく - IT化・DXが機能する環境を作り出す
従業員からの協力を得られるように働きかけたり、Go / Stopの判断基準を明確に打ち出したりすることで、IT化・DXが正しく機能する組織体制や環境を作り出す
これらを意識しつつ、経営層が主体的に取り組んでいくことで、IT化・DXの成功に大きく近づくでしょう。
IT化・DX推進の成功ポイント
経営層が自社のIT化・DXを成功させるために、経営層が行うべきマネジメントのポイント、経営層が現場に任せるべきポイントを押さえておく必要があります。
経営層が行うべきマネジメントのポイント
ここでは、経営層自身がIT化・DXを推進する上でのマネジメントのポイントを解説します。
IT化・DXで実現する企業像や働き方を示す

IT化・DXを成功させるには、従業員の協力が不可欠です。従業員が積極的に参画してくれるよう、経営層がIT化・DXで得られるメリットを具体的に示しましょう。
例えば、IT化によって業務工数やトラブル対応が削減し、時間や気持ちにゆとりが生まれれば、ワークライフバランスの充実につながります。働きながら地域活動に取り組むなどして、より社会に貢献していくことも可能です。紙ベースの業務をシステム化してテレワークができる体制が整えば、場所を選ばない柔軟な働き方も実現できるでしょう。また、IT化・DXによって生産性や品質が高まれば、少ない資源で効率的にモノづくりができるようになり、環境負荷の低減に貢献できます。
このように、多様な価値観を持つ従業員がメリットを感じてもらえるように、なるべく具体的なイメージを伝えることが重要です。
IT化・DXのプロジェクトを立ち上げる

IT化・DXは企業が一丸となって取り組むべき一大プロジェクトです。経営層がリーダーとなってプロジェクトを立ち上げ、目的や優先順位を共有しながら、管理層・担当者との三位一体で取り組む必要があります。
IT化・DXのスケジュールを立案する

システムを導入しただけでは、IT化・DXとはいえません。業務が煩雑なままシステムを導入しても業務効率化やコスト削減につながらず、十分な効果を得られない恐れがあります。経営層は四つのステップでスケジュールを立案し、体系立てながらIT化・DXを推進していきましょう。
- 業務分析
「誰が、何を、何時間で行っているのか」「どういった情報を扱っているのか」「どのような業務フローになっているのか」などの観点で現在の業務を分析する - 業務改善
業務分析によって明確になった課題に対して、システムを導入する前に自社内で改善を行い、業務フローや業務内容を最適化する - IT化・DXによる業務の自動化
システムやIT機器を導入して業務を自動化し、業務効率化やコスト削減を図る - 保守・保全
導入したシステムを正しく運用できるよう継続的に管理していく
経営層が現場に任せるべきポイント
ここでは、経営層がIT化・DXを現場に任せるべきポイントを解説します。
業務改善や5Sを実践させる
| 業務改善手法 | 内容 |
|---|---|
| 5S活動 | 「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の五つの視点から職場環境を整備する |
| ボトルネック工程の解消 | 一連の製造工程の中で、生産能力や作業効率の低いボトルネック工程を見つけて重点的に改善する |
| レイアウトの最適化 | 製品の流れや作業者の動きが最適化されるように、生産ラインや設備の配置を見直す |
| テクノロジーの導入 | ロボットによる自動化や、IoTによるデータ収集・分析・改善を行う |
いきなりシステムを導入しても、実際の現場で運用ルールが統制できていなければ十分な効果は得られません。IT化・DXを進める前に、基本的な業務改善や5Sを実践して現場の体制を整えるように指示しましょう。
例えば、5Sを徹底できていない状態で生産管理システムなどを導入しても、現場に存在するモノと登録された情報が一致しなければ正しい管理ができません。業務で必要な書類やマニュアルが正しくファイリングされていなければ、どこに何が保管されているかがわからず、業務のシステム化が難しくなります。
5Sやファイリングのポイントの詳細については、関連記事をご覧ください。
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ITツールやシステムに慣れさせる

従業員がITツールやシステムに慣れていない状態で一気にIT化・DXを進めようとすると、現場が混乱する恐れがあります。なるべくリスクが少ない業務からIT化していき、少しずつ慣れさせるように配慮しましょう。
例えば、ペーパーレス化は比較的イメージがしやすく、業務効率化も見込めます。スマートフォンやタブレットを導入して紙の帳票を少しずつ減らす、ワークフローシステムを導入して非効率なスタンプラリーを廃止する、電子決済を導入して経費申請を楽にする、といったように経営層が関わる業務から率先してIT化していき、自らが手本となってITを活用する姿勢を見せていくと効果的です。
IT化・DXを改善のアイデアに組み込ませる

製造業はこれまで、地道な改善を積み重ねて業務効率化を図ってきましたが、それだけでは限界があります。既に大きな改善はやり尽くし、現場からは小さな改善案しか出てこないと悩んでいる企業は多いのではないでしょうか。
しかし、「ITやデジタルでできることはないか?」と発想を転換し、IT機器や自動機の導入も含めて考えてみると、大幅な改善につながる可能性があります。経営層がそういった考え方を推奨していけば、担当者も従来のやり方に固執せず、柔軟な発想ができるようになっていくでしょう。
IT化・DXに取り組む前に行うべきこと
ここまでの内容を踏まえつつ、製造業がIT化・DXに取り組む前に最優先で行っておきたいことを紹介します。
IT化・DXの具体的なイメージを持つ
「ITを導入して何かやってみたい」「DXが話題だから取り組んでいきたい」といったように、経営層がなんとなくのイメージだけでIT化・DXを推進してしまうと、失敗する可能性があります。まずは、経営層自身がIT化・DXによって実現したい企業像を具体的にイメージし、経営方針に盛り込むなどして明文化しましょう。従業員の共感を得られれば、企業が一丸となってIT化・DXに取り組みやすくなります。
現在の業務の課題を洗い出す
IT化・DXといって、使えないシステムを導入してしまっては意味がありません。余計なコストや手間をかけないためにも、まずは現在の業務の問題点や課題を洗い出すことから始めましょう。どの業務にどれだけの時間がかかっているのかの分析や、業務ルールを整備した上でシステムを導入し、効率化を図っていく必要があります。社内で課題を明確化することが難しい場合は、外部のコンサルタントやITベンダーなどの専門家に相談してみるとよいでしょう。
IT化・DXが機能する現場をつくる
システムを導入しても、それらを正しく扱える現場でなければ十分な効果は得られません。システムを導入する前に、徹底した5Sやファイリング、業務の標準化に取り組み、IT化・DXが機能する現場づくりに取り組みましょう。経営層がリーダーとなってIT化・DXのプロジェクトを立ち上げ、業務分析から始まる体系立てたスケジュールに従って推進することで、IT化・DXの成功に大きく近づくことができます。
まとめ
製造業がIT化・DXを成功させるために、経営層が果たすべき役割は非常に大きいものです。実際に担当者任せ、ITベンダー任せにすることなく、経営層自身が積極的に推進している企業はIT化・DXに成功しやすい傾向にあります。
中部産業連盟では、「システム導入の下地ができているか?」「業務の標準化ができており、実態との差異がないか?」など、IT化・DXを推進する現場づくりができているかを測る「IT化診断」を行っています。通常2カ月間の現地調査にもとづく診断結果の報告や改善計画の提案、コンサルティングなどを行っており、ムダな業務や付加価値の低い業務の改善が進むだけでなく、IT化すべき業務を明確にし、システム導入効果を高めるための業務効率化を図ることが可能です。ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
IT化診断の実施例
- 自動車部品製造・多品種小ロット見込み生産企業
生産日程計画立案、統制に時間がかかり、工程納期順守率も悪かったため、スケジューラーソフトを効果的に導入するための診断を実施。 - 工作機械製造・一品個別受注生産
工数・原価管理が不十分で実態が把握できず、原価低減が進まなかったため、工数管理のIT化を進めるための診断を実施。
中部産業連盟 Webサイト
本記事の提供および監修者
中産連中部産業連盟
中産連中部産業連盟・東京事業部では、“全国ベースのマネジメント専門団体”としての中産連の一翼を担い、首都圏および東日本を中心に企業経営革新、人材能力開発と育成の支援を行い、数多くの企業で多大な成果をあげ、その誠実で着実な支援姿勢は、産業界をはじめ各方面より高く評価されている。主な業務は、マネジメントコンサルティング(経営革新、生産革新、人事革新、管理・間接業務革新、販売革新など)、ISOコンサルティング(品質、環境、食品安全など)、診断、教育、公開セミナー、 東京マネジメント大会、VM(Visual Management = 目で見る経営)事例発表大会、 先進企業・工場見学会、書籍および論文執筆(経営、生産、人事、開発の各分野)など。
丸田 大祐(一般社団法人中部産業連盟 東京事業部 次長 上席主任コンサルタント)
総合建設業の管理、企画部門から、2004年 一般社団法人中部産業連盟入職。生産管理の現状調査、5S・目で見る管理の改善支援、管理・間接部門の業務調査による効率化のための改善支援、システム、DX化前の準備、導入支援を行う。
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