労働人口の減少や競争の激化といった背景から、製造業では生産性向上が重視されています。しかし、多くの企業が製造現場の生産性にしか注目できておらず、ホワイトカラー(オフィス業務)の生産性向上にはあまり取り組めていないのが現状です。
そこで本記事では、製造業がホワイトカラーの生産性向上にも取り組むべき理由や、生産性向上につながるファイリングのポイントを解説します。
2022年11月28日公開
労働人口の減少や競争の激化といった背景から、製造業では生産性向上が重視されています。しかし、多くの企業が製造現場の生産性にしか注目できておらず、ホワイトカラー(オフィス業務)の生産性向上にはあまり取り組めていないのが現状です。
そこで本記事では、製造業がホワイトカラーの生産性向上にも取り組むべき理由や、生産性向上につながるファイリングのポイントを解説します。
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目次
多くの製造業が、日々改善を繰り返して生産性の向上に取り組んでいます。ここでは、製造業における生産性向上のメリットを三つ紹介します。
生産性を向上させるためには、作業のムダをなくし、誰でも作業ができるように標準化を図らなくてはなりません。そういった取り組みを根気よく進めることで、作業スピードが速まり、作業品質を一定に保(たも)てるようになります。作業品質の安定は製品の品質向上やサービスの向上につながり、顧客満足度を高められます。
少子高齢化に伴う労働人口の減少によって、多くの企業が深刻な人手不足に陥っています。しかし、生産性向上に取り組んで少ない人数・工数で大きな成果を上げられるようになれば、人手不足の解消につながるでしょう。また、不要な残業や休日出勤がなくなることで、近年求められている働き方改革を実現することも可能です。
生産性向上に取り組んで作業のムダや不良によるロスを削減し、より少ない資源で製品を生産できるようになれば、利益率が向上します。また、需要に応じて生産量を増やせるようになるので、利益をさらに増大させることも可能です。昨今の製造業では国内外での競争が激化していますが、生産性向上によって企業の競争力を高められます。
製造業において、製造現場の生産性向上に向けた取り組みは伝統的に行われており、次のような手法が確立されています。
| 手法 | 内容 |
|---|---|
| 5S活動 | 「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」の五つの視点から職場環境を整備する |
| ボトルネック工程の解消 | 一連の製造工程の中で、生産能力や作業効率の低いボトルネック工程を見つけて重点的に改善する |
| レイアウトの最適化 | 製品の流れや作業者の動きが最適化されるように、生産ラインや設備の配置を見直す |
| テクノロジーの導入 | ロボットによる自動化や、IoTによるデータ収集・分析・改善を行う |
その一方で、管理・間接部門といったいわゆるホワイトカラー(オフィス業務)の生産性向上はなおざりにされてきた傾向にあります。ここでは、ホワイトカラーの生産性向上に取り組んでいない企業の課題を二つ紹介します。
製造業の原価構造は、一般的に次のようになっています。
| 原価構造 | 内容 |
|---|---|
| 直接原価 | 製品を製造するために使用した材料費(直接材料費)、製品の製造に直接関わった作業者の人件費(直接労務費)、製品の製造にかかった諸経費(直接経費)など |
| 間接原価 | 製品ごとの消費量が不明確な材料費(間接材料費)、直接労務費以外の労務費(間接労務費)、製品の製造以外にかかった諸経費(間接経費)など |
| 総原価 | 直接原価+間接原価で計算される売上原価に対して、販売管理費(販売費および一般管理費)を加えた原価 |
この中で、間接原価や総原価にはホワイトカラー(オフィス業務)に起因する原価も含まれていることを忘れてはいけません。例えば、設計や生産管理のような管理・間接部門の業務にかかった工数は間接労務費として計上され、人事・経理のような本社部門の費用は販売管理費として計上されることになります。
製造業の原価構造においては、直接原価の占める割合が多い傾向にありますが、間接原価や販売管理費も無視することはできません。製造現場の生産性向上によって直接原価を低減するだけでなく、ホワイトカラーの生産性向上によるコストダウンも図らなければ、最終的な営業利益向上を実現できない可能性があります。

設計・生産計画・生産指示といった管理・間接部門の業務は、製造現場にとっての「川上」、すなわち前工程という位置づけにあります。そのため、前工程の生産性が低く、設計の出図遅れや非効率な生産計画、購買の受け入れ検査遅延などが発生すると、そのシワ寄せが後工程である製造現場にいってしまうのです。
製造現場の生産性向上に日々取り組んでいるにもかかわらず、手戻りや残業がなくならない場合、その原因は管理・間接部門の非効率さや作業品質の低さにあるのかもしれません。そういった意識を持つことが、全社的な改善を進めるために必要といえるでしょう。
上述した課題を解消するためにも、製造業各社はホワイトカラー(オフィス業務)の生産性向上に取り組むべきです。労働生産性を測る指標は、大きく次の二つに分けられます。
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| 物的労働生産性 | 生産量や販売金額などの物的な数値をもとに生産性を測る指標 |
| 付加価値労働生産性 | 業務によって生み出された付加価値額をもとに生産性を測る指標 |
ホワイトカラーの生産性向上においては、後者の「付加価値労働生産性」が重要であり、「産出(アウトプット)÷投入(インプット)」で測定できます。つまり、より少ない人数・短い時間で、より多くの仕事量をこなしたり、付加価値を出したりする必要があるということです。
管理・間接部門のインプットを低減する効果的な手段の一つが、適切なファイリングの実施です。ここでのファイリングとは、「書類を一定のルールに従って分類・整理すること、およびその仕組み」を意味します。
適切なファイリングの効果は、組織内の情報共有を促すだけではありません。業務の体系・分類にもとづくファイリングを実施することは、ホワイトカラーの従業員のマルチスキル化を促し、負荷の平準化に向けた相互支援を可能にします。このように、業務の属人化・固定化を排除して不要な残業や休日出勤をなくし、インプット(投入工数)を削減して生産性を向上させることが、ファイリングの最終目標となります。

ファイリングと聞くと、書類名を記載した背表紙を貼るといった内容が思い浮かびます。しかし、そのような一般的なファイリングを実施するだけでは、書類を探す手間をなくすといった限定的な効果は期待できるものの、組織の生産性向上までの効果は見込めません。ここでは、製造業の生産性向上につながるファイリングのポイントを紹介します。
生産性向上を実現するファイリングのポイントは、書類ではなく「業務」を中心に据えることです。
例えば、多くの製造業が認証取得している品質マネジメントシステム(ISO9001)や、環境マネジメントシステム(ISO14001)、昨今重要視されている情報セキュリティ関連の文書や、法令順守の評価記録が「ISO関係書類」として、ひとまとめにファイルにとじられているとします。この場合は、単にISOのための書類がまとまっているだけであり、生産性向上には結びつきません。ISO関連書類がどこに保管されているのかは分かるものの、その中にどのような書類があるのか、どのような業務が関わっているのかが分からず、一部の従業員しか理解していない状況(=属人化・固定化)になってしまいます。
しかし、この「ISO関連書類」を業務中心で見ると、次のように区分できます。
| 区分 | 書類例 |
|---|---|
| 大分類 | 経営管理 |
| 中分類 | システム管理 |
| 小分類 | マネジメントシステム維持・改善、法令順守管理、情報リスク管理など |
このように、組織の業務と文書の体系をまとめ、業務体系にもとづく背表紙を作成することで、業務の「見える化」が実現します。キャビネットに並ぶ背表紙を見れば、その職場で担っている業務や関連書類が一望できるため、組織内での情報共有ができるようになるのです。

組織内での情報共有ができた後は、ボトルネックになりやすい業務や、担当者が限られていてリスクが高い業務から優先的にマルチスキル化を進めていきます。マルチスキル化に必要なことは、知識(ナレッジ)の共有です。その業務を行うために必要なノウハウや経験、知識を明文化していき、誰であっても効率的に業務をこなせるようにしていきましょう。情報共有だけで終わらず、知識の共有まで行って生産性を向上させるのが、ファイリングの目的となります。
製造業が生産性を向上させるためには、製造現場だけでなくホワイトカラー(オフィス業務)にも目を向ける必要があります。ホワイトカラーの生産性向上は、営業利益の向上や製造現場の生産性向上にもつながる重要な取り組みであることを覚えておきましょう。書類中心ではなく、業務を中心とした適切なファイリングによって、ホワイトカラーの生産性向上を図ってみてください。デジタル化によってさらに生産性を高めていくためにも、適切なファイリングによって業務の「見える化」を実現しておくことが重要になります。
中部産業連盟 Webサイト
本記事の提供および監修者
鈴木 秀光(一般社団法人中部産業連盟 東京事業部 経営革新コンサルティング部 主任コンサルタント)
製造業やサービス業に対して、5S・VM、生産性向上、品質向上、原価低減、管理間接部門における業務改善・改革、書類・電子データのファイリングシステムの構築などの指導に従事している。全能連認定マネジメント・コンサルタント。主な著作・論文に『マネジメント格差』『品質管理大事典』など。
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