管理会計とは? 中小製造業における導入の目的やメリット

2022年 7月 1日公開

製造業における原価低減は限界に近づいてきており、製造現場は採算の合わない製品を作り続けています。一方で、売り上げ重視の営業部門は原価を考慮せずに値引きを行ってしまうため、作れば作るほど赤字になると悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

かつての日本では、製造現場の努力によってトータルでの収益は確保できていました。しかし、製造業の競争が激化した今では、製造現場の努力だけでは十分な収益を確保できない時代に変わりつつあります。

製造業が収益を改善するためには、従来の原価管理の方法を見直さなくてはなりません。そこでヒントになるのが、「管理会計」という考え方です。今回は、管理会計の基礎知識や目的に加えて、管理会計導入の流れや収益改善方法を紹介します。

(記事提供) 中部産業連盟 委嘱コンサルタント 山崎康夫

管理会計とは

企業が行う会計は、大きく分けて「財務会計」と「管理会計」の2種類があります。

会計の種類内容
財務会計株主や金融機関をはじめとする社外の利害関係者に提出する会計。各企業が独自の方法で行うのではなく、一定のルールに従って実施しなければならない。
管理会計自社の経営に生かすために社内向けにまとめる会計。社内で使用するので決まったルールがなく、各企業が自社の目的に応じた任意の方法で実施できる。

中小製造業の場合、財務会計のみを実施している企業も多いようですが、それだけでは自社の問題点や改善策は見えてきません。財務会計では企業全体の利益を把握することはできるものの、製品群別や顧客別など、詳細にコストを把握したり、分析したりすることには向いていません。

そのため、中小製造業が自社の問題点や改善策を見つけて収益を改善するには、「目的別管理会計」を適用した「製品別原価管理」の導入が効果的な方法となっています。

管理会計の考え方と導入の流れ

ここでは、管理会計の考え方と導入の流れをご紹介します。

管理会計の考え方

企業が管理会計を導入する際には、次の三つの視点をもとに管理会計の仕組みを構築していきます。

  • 事業部別、製品群別、顧客別などで分析を行い、収益が悪化した真の原因や問題点を明確にする
  • 製品別、顧客別など、それぞれの目標や予算に対する活動結果を判断手段にする
  • 自社の問題点を把握し、経営の意思決定や収益改善策を検討するための材料にする

管理会計導入の流れ

管理会計は、次のような流れで導入していきます。

【ステップ1】導入目的を明確にする

まずは、管理会計をなぜ導入するのかという目的を明確にしましょう。例えば、次のような目的で管理会計を導入する企業が多くあります。

  • 収益を確保できているかを明確にしたい
  • 事業や製品の評価・予算管理をしたい
  • 原価管理の仕組みを再構築したい
  • 事業計画や経営戦略に役立てたい

【ステップ2】財務状況を把握して会計区分を決定する

次に、現在の財務状況を把握し、目的を達成するために必要な会計区分を決定していきます。会計区分の例としては、次の五つが挙げられます。

  • 事業部別
  • 製品群別
  • 工場別
  • 工程別
  • 顧客別

【ステップ3】収益を分析して根本的な問題点を把握する

会計区分を決定した後は、各区分別の収益を分析していきます。財務会計でも作成するPL(損益計算書)を区分別に作成し、原価を算出しましょう。原価を算出すれば区分別の収益が分かるので、何が収益性を悪化させているのか、問題点を把握していきます。

【ステップ4】改善策を練って収益改善を目指す

収益性を悪化させている問題点が明確になれば、具体的な改善策を練ることができます。管理会計ではさまざまな改善方法があるので、自社の事情に合わせた方法を選んで収益改善を目指します。

製品別原価管理の必要性

製品別原価管理とは、製品ごとに原価を算出し、利益の出ている製品と赤字の製品を明確にしていく方法です。利益の出ている製品を中心に製造・販売しつつ、赤字の製品をなくしていくことで、収益性の改善を目指します。

製品別原価管理を実施するには、まずは原価管理の仕組みを構築しなければなりません。原価は製品の製造・販売などにかかった費用であり、次の図のような構成になっています。

原価管理では、原価のあるべき姿(標準原価)を設定したうえで、実際にかかった原価(実際原価)を算出します。その後、標準原価と実際原価を比較し、差異があれば、原因を調査して改善策を練ることになります。

標準原価と実際原価の差異が発生する原因としては、材料や労務費の差異が挙げられます。

材料費の差異標準価格と実際の価格との差異や、標準使用量と実際の使用量との数量差異など
労務費の差異標準賃率と実際の賃率との差異や、標準作業時間と実際の作業時間との差異など

中小製造業のほとんどは、トータルの原価しか管理できていませんが、製品別・製品群別・顧客別・顧客群別などの細かい単位で原価管理を実施している一部の企業では、収益改善に成功しています。

製品別原価管理による収益改善方法

上述した通り、製品別原価管理では製品ごとに原価を算出し、利益の出ている製品と赤字の製品を明確にしていきます。そこで役立つのが、製品別収益分析グラフです。

製品別収益分析グラフでは、左端に近づくほど利益額が大きい製品が、右端に近づくほど赤字額が大きい製品が並んでいます。このグラフを基に、赤字額の大きい製品を徐々に改善していけば、企業全体の収益も改善できるという考え方です。

製造現場には、赤字額の大きい製品から重点的に改善していくことが求められます。しかし、製造現場では既に原価低減を行っており、これ以上の改善が難しい場合もあるでしょう。そういった場合は、製品別収益分析グラフを営業部門や企画・開発部門も確認し、各部門の活動を見直す必要があります。具体的には、次のような活動によって収益性の向上を目指しましょう。

営業部門

  • 大幅に赤字の製品はできるだけ販売しないようにする
  • 赤字ではあるものの、他社との競争力があると考えられる製品は値上げ要請を行う
  • 利益の出る製品を常に頭に描き、顧客に提案してみる

企画・開発部門

  • 販売数が多くて収益性の悪い製品は、形状変更・材料変更・工法の見直しといったVEによるコスト削減を検討する
  • マーケティングを重点的に行い、他社との競争力をつける
  • 赤字の製品は販売終了するか、コストを見直したリニューアル製品として企画・開発を行う

製品別原価管理の実施ポイント

製品別原価管理で収益性を向上させるには、原価を正確に把握しなければなりません。ここでは、正確な原価管理を実施するためのポイントをご紹介します。

製品原価の構成と算出方法

製品原価の内訳は、製造原価と販売費・一般管理費に分けられます。ここでいう製造原価とは、製品を作るためにかかったコストであり、材料費・労務費・外注費・経費などで構成されています。

この中で、材料費や外注費を製品別に算出するのはそれほど難しくありません。しかし、労務費や経費を製品別で正確に算出するのは難しく、多くの企業の悩みどころとなっています。労務費と経費については、次のような考え方で原価を算出するのが一般的です。

製造原価算出方法
労務費製品別に余裕率を考慮した標準工数を設定し、製造従事者の賃率を掛ける
経費生産量や設備稼働時間などに応じた配賦基準を設定し、それに従って製品ごとに経費を振り分ける

製造原価の算出ができれば、次のような製品別利益一覧表を作成し、収益性を一目で分かるようにしましょう。

製品別利益一覧表では、販売単価・運送費・一般管理費・製造原価・利益単価などを表示します。製造原価は材料費・労務費・外注費・経費など細かく分けて表示し、どの要素の比率が高いのかが分かるようにしておくとよいでしょう。なお、この表における一般管理費については、上述した経費のように配賦基準を設定し、販売単価に配賦率を掛けて算出しています。

製品別利益一覧表だけでも製品ごとの収益性は一目で分かりますが、月間の収益性を示した表を別途作成すれば、自社の収益状況がさらに分かりやすくなります。

製品別収益改善計画表は、製品の販売単価と利益単価に月別平均販売数を掛けることで、月別の平均売上額と平均利益額を計算したものです。この表によって、赤字の製品とその赤字額がより明確になります。この結果を見ながら、赤字の製品ごとに改善プロジェクトを立ち上げ、担当部署を決めて収益改善を実行していくことになります。

段取り時間の考え方と工数改善

企業によっては、上述した労務費の算出方法だけでは不十分な場合があります。例えば、金型の交換や設備の調整・清掃が必要な製造工程においては、これらの段取り時間は無視できません。

段取りにかかる労務費は、段取り工数に作業従事者の賃率を掛けたうえで、製品の平均ロット数で割って計算するのが一般的です。このとき、段取りに長い時間がかかったり、平均ロット数が少なかったりすると、製品1個当たりにかかる労務費が大きくなる場合があります。そのため、段取り時間の影響が大きい製造工程では、段取りにかかる労務費も製造別原価に加えておくべきです。

もし段取りにかかる労務費が収益性を悪化させている場合は、段取り工数の削減に取り組んだり、平均ロット数を増やしたりというのが主な改善策になります。

段取り工数や作業工数の削減に取り組む場合は、関係者が集まって細分化された工程ごとに見ていくと、ムダが浮き彫りになることがあります。また、作業者によって所要時間に差がある場合も多いので、作業の早い人と遅い人をビデオ撮影して、その差を分析すると効果的です。ベテラン作業者の技術を伝承するという意味でも、実施してみることをおすすめします。

まとめ

競争の激しいこれからの時代を製造業が生き抜くためには、十分な収益を確保しなければなりません。収益を確保できないと悩んでいる中小製造業にとって、今回ご紹介した管理会計の導入は重要な施策となります。自社に最適な形で管理会計を導入し、収益改善を図っていきましょう。

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