中小製造業で重要な原価管理の基礎知識、目的や活用方法を解説

2023年 9月26日公開

製造業にとって、企業の利益に直結する原価管理は重要な取り組みの一つです。しかし、特に中小製造業においては「十分な利益を確保できていない」「価格設定が適切でなく、赤字で製造していた」といった原価管理の課題を抱えている企業が多くみられます。この記事では、原価管理の基礎知識、中小製造業が原価管理をする目的や必要性、原価を「見える化」する方法や原価の活用方法、原価管理に関連するシステム導入事例をまとめて解説します。

原価管理とは

原価管理とは、製品を作り出すために必要なあらゆる費用を把握し、適正に保つ取り組みです。原価の設定が適切かどうかを分析・判断し、材料費や労務費を調整するなどして利益率を改善していきます。

原価管理の目的

原価管理の目的は、製造時のムダをなくして利益を向上させることです。いくら売り上げを上げても、製造時にそれ以上のコストがかかっていては利益を確保できません。売り上げを上げながら原価を下げることで、製造業は利益を最大化することができます。

原価計算との違い

原価管理と似た言葉に、「原価計算」があります。原価計算は、原価を正確に計算して原価を把握する取り組みです。それに対して、原価管理は把握した原価を分析して改善策を練り、行動に移すことを指します。つまり、原価計算は原価管理の一つのプロセスであるといえるでしょう。

原価の種類と役割

ここでは、製造業が原価管理をするうえで必要な基礎知識を解説します。

製造原価とは

製造原価とは、製品を作るためにかかった費用のことです。材料費・労務費・経費の三つの要素に大きく分けられており、それらを直接原価と間接原価に分類することで、詳細に原価を把握できます。

製造原価の3要素直接原価
(特定の製品に賦課できる原価)
間接原価
(特定の製品に賦課できない原価)
材料費【直接材料費】
製造に使われる材料、部品など
【間接材料費】
塗料・接着剤などの補助材料、潤滑油・ウエスなどの消耗品、ドライバー・スパナなどの消耗工具など
労務費【直接労務費】
部品を加工したり、製品を組み立てたりする作業者の人件費
【間接労務費】
生産管理、生産技術、品質管理など、製造に直接関わらない作業者の人件費
経費【直接経費】
外注費など
【間接経費】
設備の減価償却費、水道光熱費など

標準原価/見積原価・実際原価とは

製造業の原価は、製造前に計算する標準原価/見積原価と、実際に発生した費用を計算する実際原価に分けることもできます。両者の間に大きなズレが発生することも多いため、比較・分析しながら原価管理を行う必要があります。

製造前標準原価製造前に標準的な材料の使用量や作業工数などを試算して作成する原価
見積原価製造前に歩留まりや過去の実績を考慮して作成する原価
製造後実際原価製造後に実際にかかった費用を計算する原価

中小製造業における原価管理の課題

原価管理は企業の利益に直結する重要な業務の一つですが、実際に徹底できている企業は多くありません。特に中小製造業においては、次のような悩みをよく聞きます。

  • 品質を確保して納期に間に合わせるのに精いっぱいで、原価管理まではできていない
  • 直接材料費や直接経費は集計しているが、労務費や間接費は集計できていない
  • 標準原価/見積原価と実際原価のズレが大きく、赤字で製造してしまっている

昨今では、原材料費や部品費の変動が激しいだけでなく、人手不足などの影響で人件費も高騰しています。これからの製造業には、今まで以上の精度で原価管理を行い、タイムリーに価格転嫁していくといった取り組みが求められるようになるでしょう。

原価を「見える化」する方法

原価管理をタイムリーに行うには、まずは原価を「見える化」することが重要です。ここでは、各種原価を集計して「見える化」する方法をご紹介します。

標準原価/見積原価の「見える化」

標準原価/見積原価の扱い方は、生産形態によって異なります。あらかじめ仕様の決まった製品を繰り返し製造する(=繰返生産)場合は、一般的に標準原価を目標原価として扱います。一方、顧客の要求に合わせた個別仕様の製品を製造する(=個別受注生産)場合は、見積原価が目標原価や実行予算として扱います。

標準原価は、生産管理システムなどでBOM(部品構成表)を整備し、材料・部品の購入費や外注費、製造工程ごとの標準工数を設定すれば自動で計算することができます。また、標準原価に対して製造の歩留まりや過去実績を踏まえた工数を加えることで、見積原価を算出できます。

【標準原価の算出例】

実際原価の「見える化」

実際原価は、製造原価の要素別に「見える化」しておくと後から分析・改善しやすくなります。ここでは、製造原価を構成する主な要素である材料費・外注費・労務費の三つを集計しやすくする方法を紹介します。

材料費・外注費の「見える化」

外部から仕入れる材料費・外注費は、後述する労務費に比べると集計しやすい傾向にあります。ただし、仕入れの頻度が多いと手間がかかるので、バーコードなどを活用して効率的に集計できる仕組みを構築するのがおすすめです。例えば、生産管理システムなどから発注書と一緒にバーコード付きの現品票を発行し、現品に付けて納品してもらえば、バーコードを読み取るだけで簡単に仕入れ処理を行うことができます。

【材料費(購入分)】

また、製造時に在庫から使用する材料は、見込み数量ではなく実際に使用した数量を正確に把握しなければなりません。生産管理システムで在庫の出庫処理を行う場合、見込み数量は自動で表示されるため、不良などで多めに使用したときだけ実数を入力すればよくなり、記録の手間が軽減されます。

【材料費(在庫分)】

労務費の「見える化」

労務費は実際の作業工数を細かく集計する必要があり、作業者の負担になることから、正確に把握することは難しいのが現状です。紙の日報やシステムへの手入力で労務費を集計するのは手間がかかるため、ハンディターミナルやタブレット端末の活用がおすすめです。作業者が現場に設置した端末で作業の「開始」と「終了」を記録するだけで、簡単に作業工数を集計できます。

また、機械の稼働時間はPLCやセンサーからIoTで取得することも可能です。人の作業時間はハンディターミナルやタブレット端末で、機械の稼働時間はIoTで、と使い分けることで、労務費を集計しやすくなります。

見積原価と実際原価の比較

見積原価と実際原価を比較・分析することで、どの品目で利益が出ていないのか、どの要素の比率が大きいのかを把握できるようになります。ここでは、見積原価と実際原価を比較するイメージをご紹介します。

繰返生産の場合

繰返生産品の見積原価は、標準原価に対して不良率や非稼働などの歩留まりを想定して算出します。算出した見積原価は、標準原価と共に生産管理システムなどに登録しておくことで、実際原価と比較・分析しやすくなります。

例えば、品目別に売価・見積原価・実際原価を並べることで、利益がでていない品目が一目で分かり、改善や価格転嫁の優先順位を決めやすくなります。また、実際原価の月ごとの変動を見ることで、材料費の高騰などに伴う価格転嫁のタイミングを計りやすくなります。

【見積原価と実際原価の比較例1(繰返生産品)】

【見積原価と実際原価の比較例2(繰返生産品)】

個別受注生産の場合

個別受注生産品の見積原価は、過去の実績や経験値、仕様ごとのコストテーブルなどを基に算出します。算出した見積原価は上述した繰返生産品と同様に生産管理システムなどに登録し、実際原価との比較・分析を行うことになります。

個別受注生産品の場合は案件ごとに収支を管理する必要があるため、見積原価が実行予算として扱われます。案件の進行中にも実際原価の状況を把握し、最終的な実際原価が見積原価内に収まるのかをチェックできる仕組みを構築することが重要です。

【見積原価(実行予算)と実際原価の比較例(個別受注生産品)】

【生産形態別】原価の活用方法を解説

原価は「見える化」しただけでは意味がありません。利益率を向上させていくためには、把握した原価を基に改善に取り組むことが重要です。ここでは、中小製造業がどのように原価を活用すべきなのかを生産形態別に解説します。

繰返生産の場合の活用方法

繰返生産では、同じ製品を継続的に製造することになります。時間の経過と共に利益率が悪化している可能性もあるため、把握した実際原価を標準原価/見積原価に反映し、最新の原価を基に収支割れの確認や顧客との価格交渉を行いましょう。

また、次のような個別の取り組みによって利益率の改善を図ることも重要です。

  • 不良の発生原因を分析し対策を練ることで、材料費や労務費のロスを低減する
  • RPAを使って材料単価の変動を自動で反映し、価格転嫁の根拠とする
  • 材料の仕入先や外注先への発注ロットを見直し、割高な仕入れ値を下げる
  • 想定よりも工数がかかっている作業を特定し、改善することで労務費を下げる

個別受注生産の場合の活用方法

個別受注生産で何より避けなければいけないのは、「製造が終わった後に原価を集計すると実は赤字だった」というケースです。繰返生産と違って後から利益を回収することが困難なため、仕掛段階でも原価を把握し、素早く改善していかなくてはなりません。そういったリアルタイム性が求められる点が、個別受注生産における原価管理の特徴です。

案件ごとに十分な利益を確保するためにも、次のような取り組みを行うようにしましょう。

  • 手配漏れや納期遅れ品の発見が素早くできる体制を整え、コスト増加につながりやすい緊急手配を削減する
  • 原価割れをするようであれば、仕入れ確定前の早いタイミングで加工品などの単価協力をお願いする
  • 実績のある材料や部品の流用化・標準化によって調達や製造のコストを削減する
  • 相見積りや過去の実績と比較して、外注先との価格交渉を行う
  • 得意先の要望で仕様変更があった場合は、追加費用の交渉をする

原価管理に関連するシステム導入事例

大塚商会では、業種・業界に特化した製販一体型の生産管理システム「生産革新ファミリー」などのソリューションを提供し、中小製造業の原価管理をサポートしています。実際に原価管理を改善した企業の導入事例をご紹介します。

川辺農研産業株式会社

  • 事業内容

    農業用・土木用トレンチャーをはじめとする特殊農機の製造・販売

構成部品数が多く複雑な原価計算を短時間で正確に行うために、『生産革新 Fu-jin SMILE BS2』を導入。アセンブリー単位の構成部品の細目をマスターデータとして登録することで、原価算出と在庫管理の精度が大きく向上し、売価の適正化に貢献しました。

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ニホンハンダ株式会社

  • 事業内容

    ソルダペースト、成形ハンダ、導電性接着剤などの製造・販売

手書きの生産日報をシステム化し、リアルタイムでより正確な実績情報を収集するためにIoT実績収集システム『実績班長』を導入。収集した作業実績データを『生産革新 Ryu-jin』に反映することで、より正確な労務費管理が実現しました。

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株式会社マグトロニクス

  • 事業内容

    産業機械装置の制御盤、ハーネスなどの製造・販売

グローバル化の進展によって価格競争が激しくなる中で、製品原価を「見える化」して利益率を高めるために「生産革新 Raijin」を導入。製品原価を含めたさまざまなデータが「見える化」されたことで、経営判断を迅速に行えるようになりました。

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まとめ

原価管理のあり方を見直すことで、中小製造業の利益率向上が期待できます。まずは現在の原価の把握状況や、どのような課題が発生しているのかを振り返ることから始めてみてはいかがでしょうか。

また、原価の集計や分析を効率化するには、生産管理システムなどのITツールの活用が効果的です。大塚商会では原価管理に役立つさまざまなITツールを提供しているため、お気軽にご相談ください。

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製造業の生産管理システム「生産革新ファミリー」

受発注、在庫、品質、原価など、さまざまな生産管理の悩みを解決し、販売や会計など基幹業務システムとのデータの相互連携も実現。組立業向けの「Fu-jin」「Raijin」、加工業向けの「Ryu-jin」、配合業向けの「Brendjin」など、業種・業界に特化しています。

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