公認会計士・税理士
税理士法人ファーストライン 代表社員
増田 卓也(ますだ たくや)
大手監査法人にて、金融機関・外資系金融機関、製造業などの会計監査に従事した後、税理士法人ファーストライン代表社員に就任。現在、金融機関の会計監査の経験を生かし、中小企業や個人事業者を対象とした税務顧問、資金繰り改善支援、経営支援に従事している。
「照明をLEDに変えたい。経費としては単年度で計上したい」。そういった場合には「修繕費」扱いという方法があります。今回はその条件面や注意点などを詳しくご紹介します。
[2023年 8月31日公開]
税務処理からLED工事を分類しますと、
があります。
「修繕費」の定義は……、言葉のとおり、修理に関わる費用です。税法上の表現であらわすと「固定資産の修理、改良などのために支出した金額のうち、当該固定資産における通常の維持管理のため、または毀損(きそん)した固定資産につき、その原状を回復するために要したと認められる部分の金額は修繕費」となります。一方、当該固定資産の価値を高め、またはその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額は「資本的支出」となります。
それでは、具体的に修繕費とできるLED工事はどんなものがあるでしょうか。この点については、国税庁のホームページに公表されています質疑応答事例(注1)に一つの答えがありました。この事例では、“自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替える際の費用について修繕費として処理して問題ない“ということになっています。そしてこの取り替えは天井に装着された照明設備については特に工事が行われていないことが前提となっていました。
この質疑応答事例から分かることは、既存の器具を利用して蛍光灯をLEDランプに変更することは問題なく修繕費としてよいということです。しかし、既存器具の交換までを含むLEDランプへの取り替え工事は修繕費となるか、あるいは資本的支出として処理するか、この質疑応答事例では判断できないことになります。
器具ごと交換するLED工事は資本的支出として処理するか、修繕費として処理するか、もう少し検討してみましょう。
工事が実質的に資本的支出にあたるか、修繕費とすべきかは、実務において悩ましい場面が多くあります。その中で、形式的な基準による判断が許されるケースがあります。それは以下のとおりです。
ここで、金額の閾値(しきいち)が20万円未満と60万円未満の2種類があります。この違いですが……、前者の「20万円未満 or おおむね3年周期」は条件だけの判断で修繕費扱いしてもよいものです。後者の“資本的支出か修繕費か悩ましい”ケースには「60万円以下 or 取得価額のおおむね10%相当以下」であれば、修繕費扱いできるというものです。LED照明で考えますと「器具交換を含む工事(修繕費扱いできるか悩ましいケース)であれば、60万円未満を指標として修繕費として考えられる」ということです。
つまりは「金額が小さい場合には、器具ごとに交換するLED工事も修繕費として問題ない」ということです。
では、60万円以上では修繕費扱いできないのでしょうか。そうではありません。
どういうことかと言うと、「一つの計画に基づく同一の固定資産」という表現がありますが、その範囲は「送配管、送配電線、伝動装置などのように一定規模でなければ、その機能を発揮できないものについては、その最小規模として合理的に区分した区分ごと」とされています。照明設備で考えてみますと、照明設備が設置されている部屋ごと、区画ごと、スイッチ系統ごとなどの区分が合理的と言えそうです。
つまり、複数ある区分に対しての工事の場合は、一つ一つが60万円未満であれば、それぞれに対しても修繕費扱いできるということになります。規模やその場所の状況で区分単位の妥当性は異なりますので、顧問税理士、会計士と事前に相談することをおすすめします。
LEDへの交換工事をその年の修繕費として全額経費計上したいと考えた場合、上記のような法人税の規定に沿った形での見積書や請求書などを入手しておくことが重要です。
工事の内容的に全額修繕費となるようなものであっても、例えば、見積書や請求書などの書類に「LED工事一式200万円」としか記載されていない場合には、経理担当者や顧問税理士が修繕費としてよいか判断がつかないことになります。そうなってしまうと決算時に余計な手間がかかったり、意図した経費計上ができなかったりしないために、「見積書や請求書などの書類に修繕費として処理して問題ないことがはっきりと分かるように記載」してもらうことが肝要です。
既存器具を残して蛍光灯のみを交換する場合の費用は全額修繕費として問題ありませんが、見積書や請求書などの書類に既存器具を残している工事であることが明記されているとより明確になります。一つの計画に基づく同一の固定資産について行う修理・改修などにかかる金額が60万円未満という規定を使いたいのであれば、部屋やスイッチ系統ごとの工事費用が明記された見積書や請求書があるとより修繕費であることが明確化できます。もし、一覧で導入器具と工事費が記載された見積りの場合は、別添の資料として区分ごとの器具、工事費が分かるものを用意するとよいでしょう。
別添の「工事費」をどのように分けるかという点に関しては、「区分ごとにかかる固有の費用 + 共有で発生する費用を適切な指標(例えば取り付け機器数、床面積など)で案分したもの」というものが望ましいと考えます。
追加でお伝えしますと、この“区分ごとに費用を分けた別添を用意する”ことは「資本的支出として処理する場合にも少額減価償却との切り分けを示すものとして活用できる」ということになります。
最適な導入方法の考え方は企業によってさまざまです。これまでのまとめを行いながら、「資金繰り計画」を中心にとらえた内容をお届けします。
公認会計士・税理士
税理士法人ファーストライン 代表社員
増田 卓也(ますだ たくや)
大手監査法人にて、金融機関・外資系金融機関、製造業などの会計監査に従事した後、税理士法人ファーストライン代表社員に就任。現在、金融機関の会計監査の経験を生かし、中小企業や個人事業者を対象とした税務顧問、資金繰り改善支援、経営支援に従事している。
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