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経営計画とは? 重要性・策定手順・見直しの基本を徹底解説
本記事では、経営計画の重要性とメリット、実際の策定手順、そして変化に応じた見直しのポイントまでを解説しています。これから経営計画の策定に取り組もうと考えている経営者は、ぜひ参考にしてください。
中小企業庁の調査によると、経営計画を策定していない企業は全体の約5割にのぼります。その主な理由は「時間がない」「将来の見通しが立たない」といったもの。しかし、経営計画は経営判断の軸を明確にすることで企業の「羅針盤」としての役割を果たし、従業員の行動を統一して企業全体の成長を後押しします。
目次
1.経営計画の策定状況
経営計画は企業の成長や安定経営を支える重要な要素ですが、実際には策定に至っていない企業も少なくありません。本章では、中小企業における経営計画の策定状況や、計画を立てていない理由、そして策定が業績に与える影響について、調査データを基に確認します。
中小企業における経営計画の策定状況
中小企業庁が公表した「2025年版『中小企業白書』」によると、「経営計画を策定していないが、今後策定予定」と「策定しておらず、予定もない」事業者を合わせると、全体の48.9%にのぼることが明らかになっています。全体の約5割の事業者が経営計画を未策定の状態にあるという実態が浮き彫りになりました。
出典:2025年版『中小企業白書』(中小企業庁・PDF・p.180)
経営計画を未策定とする主な理由としては「時間的余裕がない」「事業環境の変化が激しく、先を見通せない」といった声が上げられています。
経営計画は売上向上に関わる
未策定の企業が少なくない経営計画ですが、経営計画を策定し、それを従業員と共有することで売上向上につながる可能性もあります。白書で公開されている「売上高の変化率(従業員への経営理念・ビジョンの共有への取組状況別、中央値)」を見ると、理念やビジョンの共有に取り組んでいる企業では、そうでない企業に比べて売上高の変化率が高い傾向にあることが分かります。
この結果だけで因果関係を断定することはできませんが、理念・ビジョンの共有により従業員の主体性や連携が高まることが、間接的に業績に貢献している可能性があると考えられます。
2.経営計画の重要性・メリット
経営計画は、単に事業目標や数値目標を並べた資料ではありません。企業が継続的かつ安定的に成長していくための「戦略の設計図」としての役割を持っています。特に不確実性の高い時代においては、その重要性が一層増しています。
経営の「羅針盤」としての役割
経営計画は、企業がどこへ向かうのかという将来のビジョンを明文化し、その進むべき方向を示す「羅針盤」として機能します。日々の業務や短期的な業績に追われていても、経営者としての判断に一貫性を持たせるには、中長期的な戦略や目標が不可欠です。経営計画を通じて自社の方向性を言語化することで、経営判断における「軸」が明確になり、外部環境の変化に左右されない経営が可能になります。
社内での目標共有による組織の一体感の醸成
策定した計画を従業員と共有することで、組織内の共通認識が生まれます。従業員一人一人が自分たちの業務と企業の全体目標のつながりを理解することで、自発的な行動が生まれやすくなり、部門間の連携もスムーズになります。結果として、組織全体の一体感が醸成され、目標達成に向けた行動の方向性がそろいやすくなります。
ステークホルダーへの信頼性向上
経営計画は、社外との信頼関係を構築するうえでも有効です。時流を読み取りつつ、自社が今後どのような姿を目指しているのかを具体的に示した計画は、金融機関や投資家、取引先に対して「この会社は先を見据えて事業を進めている」という安心感を与えます。特に資金調達の場面では、収支計画や成長戦略の明確さが信用力の判断材料となるため、経営計画の有無が資金調達の成否に大きく関わってくることもあります。
3.経営計画がないと企業はどうなる?
経営計画は企業の成長や安定経営に欠かせない要素ですが、実際には策定せずに事業を続けている企業も少なくありません。しかし、計画を持たないままでは、企業活動に次のような支障が生じる恐れがあります。
経営判断が場当たり的になりやすい
明確な経営計画が存在しない場合、日々の経営判断が短期的な視点に偏ります。市場の変化や外部環境への対応に追われ、その場しのぎの判断を繰り返すうちに、中長期的な視点が欠如していくことも少なくありません。
こうした状態では、事業の成長機会を見落とすリスクが高まり、企業の方向性が定まらずに迷走してしまうこともあります。また、戦略の一貫性がない企業は、取引先や金融機関など外部ステークホルダーからの信頼を得にくくなる傾向があり、事業基盤の脆弱(ぜいじゃく)化につながる恐れもあります。
従業員のモチベーションや行動がバラバラになる
経営計画がない企業では、従業員が目指すべき方向性を把握できず、業務の優先順位や判断基準が人によって異なってしまいます。その結果、各自が属人的な判断に頼るようになり、業務の重複や連携不足が発生する可能性が高まります。こうした状況が続くと、従業員間の連携が取りづらくなり、チームとしての一体感や相乗効果が失われてしまいます。
資金繰りや事業拡大に支障が出る可能性がある
経営計画を立てていないと、将来の売上や支出の見通しが不明確になります。その結果、資金繰りの管理が曖昧になり、予期せぬ支出や売上減少に直面した際に必要な資金を確保できず事業の継続が困難になるリスクがあります。
加えて、将来的な拡大投資や新規事業の立ち上げといった戦略的判断においても、裏付けとなる数値や戦略がないためタイミングを逃すなどの事態が生じて、金融機関側もリスクを感じやすくなります。
4.経営計画の策定手順
経営計画は一朝一夕に完成するものではなく、企業の理念から現場でのアクションまでを一貫性のある手順で設計することが求められます。ここでは、経営計画を策定する際の大まかなステップをご紹介します。
【1】経営理念の明確化
策定の第一歩として、企業の存在意義や社会に対する提供価値を明文化します。「なぜこの会社が存在するのか」「社会に対してどのような価値を届けたいのか」といった根本的な問いに向き合い、企業としての原点を言語化することが重要です。この経営理念は、経営上の全ての意思決定における判断軸であり、計画全体の方向性を決定づける要素となります。
【2】経営環境の分析(外部・内部環境)
続いて、自社を取り巻く外部環境・内部環境を客観的に把握します。
- 外部環境:市場の成長性、競合の動向、業界のトレンド、政治・経済の動きなど
- 内部環境としては、自社の強み・弱み、人材の質、財務基盤などのリソース状況
これらを俯瞰(ふかん)的に分析するために、SWOT分析やPEST分析といったフレームワークを活用すると、現状の理解と課題の抽出がスムーズに行えます。
【3】目標の設定
中長期的なビジョンを描き、それを達成するための現実的な目標を設定します。このとき、売上や利益、顧客数、シェアといった数値で示される定量目標に加えて、「ブランド認知の向上」や「従業員エンゲージメントの強化」といった定性目標も取り入れることが望ましいです。多面的な目標設定によって、経営の質が高まり、柔軟かつ持続可能な戦略が構築されます。
目標はSMARTの法則に基づいて設定することで、実行後の評価や改善も行いやすくなります。
SMARTの法則
- Specific:具体的
- Measurable:測定可能
- Achievable:達成可能
- Relevant:関連性
- Time-bound:期限
の五つの要素を考慮して目標を設定すること。
【4】アクションプランの具体化
設定した目標を机上の空論で終わらせないためには、実行可能なアクションプランへの落とし込みが欠かせません。「誰が・いつまでに・何を・どのように」実行するのかを明確にし、必要なリソース(人材、資金、設備など)とあわせて管理体制を構築しましょう。
また、進捗(しんちょく)の確認と見直しを行うためのモニタリングの手法や頻度もこの段階で決めておくと、計画の実効性が高まります。
5.経営計画の見直しのポイント
経営計画は一度策定すれば終わりというものではありません。外部環境や自社の状況は刻々と変化するため、ときには計画も見直し、最適な形にアップデートしていく必要があります。ここでは、見直しの際に意識すべき三つのポイントを解説します。
外的変化に応じて見直す
経営計画の見直しにおいて最も重要なのは、「外的要因に応じて柔軟に対応する」姿勢です。例えば、顧客ニーズの変化や業界構造の再編、為替や金利といった経済的要素、さらにはAI・DXといった技術革新の進展など、経営を取り巻く外部環境は日々変動しています。こうした変化に気付かず旧来の計画を踏襲し続けていては、競争力を失うリスクもあります。
だからこそ、継続的な情報収集や市場調査の体制を整えることが、見直しの精度を高めるカギとなります。
全体の流れを壊さず柔軟に調整する
経営計画を見直す際に陥りがちなのが、「全てをゼロベースで作り直してしまう」ことです。特に新任の経営者が自分らしさを打ち出そうと既存の方針を一新する場面で見られがちですが、それがかえって組織の混乱を招き、現場の信頼を損なう恐れがあります。経営計画は単なる資料ではなく、企業が歩んできた歴史や方向性を示すストーリーでもあります。
従って、大きく方向転換するのではなく、現状との整合性を取りながら適宜修正を加えることが、円滑な運用につながります。一貫性を保ちつつ、柔軟に変化へ対応する姿勢が不可欠です。
定量・定性の両面から評価する
計画を見直す際は、これまでの実行状況を客観的に振り返る必要があります。その際、数値目標であるKPIの達成度だけでなく、定性的な観点からの評価も不可欠です。例えば、売上、利益、コスト削減の進捗に加え、「顧客満足度はどうか」「従業員は意欲的に行動できているか」といった視点も重要になります。
このような多角的な評価に基づいて、修正すべき点や効果的だった施策を見極めることで、次なる計画に深みと実効性をもたらすことができます。
まとめ
経営計画は、企業が持続的に成長していくための羅針盤です。目先の利益や短期的な課題解決に追われがちな中小企業こそ、長期的な視点を持った計画の策定が求められます。そして、その計画は策定して終わらせるのではなく、必ず従業員に共有し、全社で共通の方向を目指すことが不可欠です。
また、経営者の交代や気分に応じて計画を変えてしまうと、現場が混乱し、組織の信頼性が損なわれることもあります。そうならないためにも、計画の根幹は保ちつつ、外部環境や市場の変化を的確に捉えて柔軟にアップデートしていくことが重要です。計画は「固定されたもの」ではなく、「進化させていくもの」と捉えましょう。
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