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建築業界の処遇改善に向けて、CCUSのポイントを押さえる
日本の人口が減少していくなか、労働者の減少も懸念されています。そこで課題となるのが労働者の確保です。そうしたなかで、建設技能者の担い手も減少しているのは言うまでもない状況です。現在、国をあげて就労人口の増加や労働環境の改善に着手していますが、とりわけ若年層の労働人口確保に向けて、各制度を整え始めています。
今回は課題の一つである労働者の処遇改善について、CCUSを事例にしながらポイントを押さえていきましょう。
目次
建設技能者の均一なキャリア育成を目指したCCUS
建設業の労働人口の低下については、国をあげて課題と捉えています。一体どれほどの変化をしているのでしょうか。実際に建設業に携わる就業者の人口変化について数字の経過を見てみましょう。
以下のグラフは、国土交通省の土地・建設産業局が発表した、2021(令和3)年11月の資料です。これによると、建設業の就業者は1997年をピークに減少傾向へと転じ、2018年時点ではピーク時と比較すると約26.5%も減少しています。
(出典:国土交通省 土地・建設産業局)
建設業界の担い手が減少している理由は複数あると考えらえていますが、改善策の一つとして処遇の向上を目指しています。その背景として、特に技能者に対して統一的に評価できる、業界を共通する評価基準や制度が存在しないことがあります。つまり一人一人の能力に対しての評価軸が曖昧になりがちで、結果、スキルアップや処遇の向上につながっていかないというのが課題です。
これらのような問題を懸念していた国土交通省では、「建設業の働き方改革」を提言しており、その中で担い手の課題を改善するべく、「建設キャリアアップシステム」(略称:CCUS、以下CCUSと記す)を開発。2019年4月より当該システムの本格運用が開始されました。
CCUSは導入必須へ その改善のポイントとは?
このCCUSですが、一体どういうシステムなのでしょうか。ここで改めておさらいをしていきましょう。
当該システムは、国土交通省と建設業団体が官民一体で推進、一般財団法人建設業振興基金が運営をしています。建設業に関わる技能者個人の資格や社会保険加入の有無、現場での就業履歴などを同システム内のデータベースに登録・蓄積し、技能者の適正な評価や建設事業者の業務負担軽減に役立てる仕組みです。
そんなCCUSですが、2020年3月に国土交通省が発表した「官民施策パッケージ」では、2023年にはあらゆる工事でのCCUS導入を目指すと明記されており、昨今はより積極利用を促す取り組みを行っています。その取り組みの一つが経営事項審査(略称:経審、以下同)の審査基準の改正です。
現在、企業は国や地方公共団体などが発注する公共工事に入札する場合、必ず受けなければならない経審という制度があります。
2022年8月15日に公布、2023年1月1日に施行される経審の改正では、新たにCCUSを活用している事業者を評価するための加点項目(W点)が新設されました。このことをご存じの事業者は多いのですが、この加点項目の新設に合わせて、総合点(P点)算出のための係数調整が行われることにより、新設の加点の追加がない場合、総合点(P点)が減点されていくという状況になることを把握できている事業者は、まだ多くありません。
また、今後建設業において「企業や優良経営ができているか」ということを、総合的に判断される時代が到来します。技能者の減少を食い止めるためには、技能者のワーク・ライフ・バランス向上を考え、可視化していくことが不可欠な事項となっています。
なぜ導入する必要があるの?期待されることとは
そもそも、なぜCCUSのようなシステムの導入が必須なのでしょうか。その一つとして、情報の散文化や属人化の解決というのが考えられます。建設業界は、情報や技術が属人的になりがちな傾向があり、業界全体として横断的な情報をあまり持ち合わせていません。
CCUSはこうした散文化や属人化した情報や技術の情報について、蓄積することを目的としており、さらに共有するようになるというメリットがあります。さらには、共有された情報があることで、技能者のスキルを「見える化」することができ、技能者が今「何ができて」「何を伸ばしていけばいいか」誰もが一目瞭然になるでしょう。また、万一の事故やトラブルが発生した際に、こうした情報管理や履歴管理ができていることで、リスクの回避やコントロールなどを図ることができるというメリットもあります。
もう一点のメリットとして、技能者の技術や業務の履歴を残すことで、業務の評価を図りやすくなる点があります。この点は各企業内で賃金改定などの際に指標にしやすく、より技能者の適切な評価を設定できるという期待があります。もちろん賃金面の向上以外にも、技能者個人が伸ばしていきたいキャリアポイントが一目できるという点であり、意欲ややる気を促すことができるのではないでしょうか。
各企業では労働者確保と、質の担保が今や必至
これまで建設業では3K(きつい・汚い・危険)の代表業種とも言われていましたが、CCUSをはじめとしたワーク・ライフ・バランスの取組で、いよいよ新3K(給与・休暇・希望)の本格的取り組みがはじまります。そのためにも曖昧な評価はしないことが求められていきます。
建設業の質が仕組みの力でみえる化し、担保されていくことになると、前述のとおり、給与等の処遇改善も必然となっていくことでしょう。
その処遇改善については、賃金の改善だけではなく、技能者の必要保険への加入や適用なども求められていくことになります。
各処遇の向上が進まないと、技能者はより条件の良い企業を求めて、転々と所属先を移していくことになります。つまり、技能者を保護することは、良い企業として生き残るために必須となったのです。
このように建設業の人口減少を食い止めるためには、技能者を保護することが必要であり、こうした取り組みをすることで、ひいては企業間の活性化であったり、業界の労働人口であったり業界が活性化していくも期待できるのではないでしょうか。
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