ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
建設業の未来につなぐ~2025年の崖への挑戦
経済産業省が2018年に公表した「DXレポート」にて言及された「2025年の崖」と呼ばれる経済損失を回避するためには、あらゆる業界でDXを推進することが重要です。建設業界においては、国土交通省が「i-Construction」を推進し、企業にDXを求めています。
これからDXを推進したい方の中には、そもそも「建設業界でのDXとはどのようなものか知りたい」「DXの推進がなぜ求められているのかを理解したい」という方も多いのではないのでしょうか。本記事では、建設業界のDXにも深く関わる「2025年の崖」とは何か、また建設DXの導入が急がれる背景などについて解説します。
目次
「2025年の崖」とは
「2025年の崖」とは、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムの残存によるリスクを起因に2025年以降、発生しうる年間最大12兆円にのぼるとされる経済損失を指す言葉です。
DXが実現しない場合、企業の業務基盤の維持や継承が困難になるだけでなく、サイバー攻撃によるインシデント発生リスクが高まり、情報流出などのトラブルが多発する可能性があると懸念されています。
建設業界においては、長時間労働やノウハウ継承の難しさが兼ねてからの課題としてありました。この原因の一つには、紙を用いたアナログ業務の多さが挙げられます。加えて、若手人材の確保の困難化や既存人材の高齢化、これらによる人手不足は建設業界が抱える大きな問題です。
このような課題の解決に建設DXが貢献すると期待されています。紙の業務からITツールを用いた業務に転換するなどDXを推進し、業務効率化および生産性の向上に取り組むこと、適切な労働環境を用意することは、長時間労働の是正と採用力の強化にもつながります。
働き方改革を推進する面からも各企業が建設DXに取り組む意義は大きいといえるでしょう。
2025年の崖を乗り越える鍵は「建設DX」
経済産業省は、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
建設DXとは、建設生産プロセス全体をAIやICT、IoTなどのデジタル技術を活用してより最適化すること、あるいはビジネスそのものを変革することを指します。
ICTなどの活用で建設生産プロセスの生産性向上を目指す「i-Construction」の推進や、社会インフラの維持管理と長寿命化を目的として、センサーなどを活用する「インフラモニタリング」の拡大など、国も建設DXを後押ししています。
各企業においては、3次元モデルを生成する「3DCAD」の活用や、ペーパーレスを促進し、バックオフィスの業務効率化を実現するクラウドサービスの導入など、さまざまな面でデジタル化を進めることが建設DXにつながります。
建設DXが注目されている理由
建設DXが注目されている理由の一つに関係者が多く工程も長い建設業界では、DXによって改善できるポイントが多く、実現した際の効果が大きいことが挙げられます。
前述した建設業界における人手不足も深く関わっています。建設業の就業者数は減少傾向にあり、将来にわたって労働人口が減少していくとみられています。業務効率化による省人化、長時間労働の是正をはじめとする労働環境の改善は、採用力の向上においてもIT技術が貢献できます。
また、作業者の経験やノウハウによって品質にバラつきが出やすい課題もITツールの活用によって解決できるでしょう。各種ツールを適切に利用することで、品質の安定を望めるだけでなく、熟練作業者のノウハウを円滑に継承できると期待されています。
建設DXの実現で期待される効果
建設DXの実現で期待される効果には、主に次の三つがあります。
- 省人化
- 業務効率化
- 働き方改革の促進
省人化においては、重機の遠隔操作やAI技術を用いた自動施工などの導入のように大規模な改革だけでなく、現場の監督業務のオンライン化など、比較的コストのかからない方法でも省人化を図れます。監督業務のオンライン化では、移動時間の削減や複数現場の同時チェックが可能になり、監督業務にあたる人員を削減できるでしょう。
業務効率化においては、ITツールによる顧客管理や営業管理をはじめ、3次元モデルを用いた情報共有によって業務を大幅に効率化できる可能性があります。バックオフィス業務にクラウドサービスを活用すると、必要な過去のデータを検索ですぐに表示する、部署間を越えてデータをリアルタイムに共有することも可能です。
これらIT技術の活用は、働き方改革の促進にもつながります。建設DXは、過重労働が問題視されている建設業界の働き方改革を実現するためにも重要な鍵を握っているのです。
建設DXで用いられる代表的な技術
ここからは、建設DXを実現するために導入されている主なツールをご紹介します。
ICT
ICTとは、Information and Communication Technologyの略で、通信技術を活用したコミュニケーションを意味する言葉です。建設DXにおいては、重機の遠隔操作や3次元測量データ化技術などに用いられています。
例えば、遠隔操作が可能な重機には、複数の異なる建設機械を操作できるものをはじめ、危険エリアやトンネル工事などに利用できるものなど、さまざまなものがあります。
IoT
IoTとは、Internet of Thingsの略で、モノのインターネットと呼ばれるセンサーを通して収集したデータを活用するインターネット技術のことです。建設DXでは、機器の遠隔操作やドローンを用いた危険エリアの監視などに活用されています。
IoTの活用には、高速で安定した通信環境が欠かせません。また、IoT機器にはセキュリティリスクもあるため、安心できるインフラ基盤を用意することも重要です。
AI
AIとは、Artificial Intelligenceの略で、人工知能のことです。建設DXでは、現場の画像の分析による工事の進捗(しんちょく)状況判定システムや構造計算、解析にも用いられています。
例えば、画像解析AIを用いた安全点検箇所の自動解析や360度カメラで撮影した動画をAIに認識させ、工事の進捗状況や使用資機材の保管状況を図面表示するシステムなどがあります。
クラウド
クラウドとは、インターネット上の仮想サーバーなどのリソースを利用できるサービスのことです。クラウドサービスを導入することで、自社でサーバーやソフトウェアを用意し、環境を構築することなく、インターネットを通して各種アプリケーションなどを利用できます。
クラウドサービスには、バックオフィス業務に特化したものも多くあります。契約業務をはじめ、経費精算や請求、回収、支払いなどの経理業務、勤怠や給与管理などの人事労務業務もクラウドサービスの活用でデジタル化が可能です。
3DCAD
国土交通省が推進する「i-Constructio(アイ・コンストラクション)」では、3次元データの利活用が重要視されています。
3Dデータで製図を行う3DCADの活用もDX推進の一つの方法です。3DCADの活用によって、受発注者間で完成イメージを容易に共有できるようになるなど、業務効率化を図れます。
これからの建設業の持続的発展に欠かせない建設DX
2025年の崖への対策として推進が叫ばれているDXは、建設業界の発展に欠かせないものといっても過言ではありません。省人化や業務効率化を実現するためにも、IT技術の導入は必須といえるでしょう。
これから業務のデジタル化に着手したい企業は、バックオフィス業務の効率化が期待できるクラウドサービスのように、取り入れやすいものから検討してみましょう。
関連ページ
本ページで紹介した建設業での業務効率化を実現するシステム・ソリューションをはじめ、導入事例、話題のトピックス記事といった情報をまとめてお探しいただけます。
資料ダウンロード
大塚商会「建設DXリーフレット」
昨今の働き手の不足という課題に対して、対策は進んでいますか?
大塚商会では働く人がより働きやすい環境を構築するために、「建設DX」と位置づけ、支援しています。本資料では、大塚商会の建設DXソリューションをご紹介します。
- 形式:PDF
- ページ数:16ページ