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AIとロボット技術の活用で建設現場での効率化・自動化を目指す
仕事は持続的な環境であるべき――。
世界各国でも共通認識になりつつあります。そのためには、効率的な仕事の仕方を模索する必要があります。
「国内の人口低下や高齢化に伴い労働力が減少していく未来に向けて、仕事を支える労働力は減少していく」この事実からは免れません。そこで着目をしたいのが生成AIにおよびロボットを活用した業務の自動化です。特に技術面においては生成AIの活用と、ロボットを用いて作業を行うことは、建設業界内での労働効率アップにも期待ができるのではないでしょうか。
本記事では、これら二つの機能がどれほどの期待値があるのかを考察した上で、実際の活用例についてご紹介していきます。
目次
世界中で、建設市場にてAIとロボット技術の使用が求められている
建設現場では人材不足が課題です。国土交通省が発表する「建設業を巡る現状と課題」 を見てみると、建設業就業者数は2022(令和4)年平均が479万人でしたが、これはピーク時である1997(平成9)年の685万人から3割ほど減少している傾向にあります。
- * 出典:建設業をめぐる現状と課題 p.2 建設投資、許可業者数及び就業者数の推移(国土交通省・PDF)
上記グラフがその推移を40年分ほど追ってきたものになりますが、昨今はほぼ下がり基調であることから、今後も余程のことがない限りは上向き傾向になることはないと想定されます。
人材確保に勤しむことはあるものの、それだけでは根本解決に至るのは難しいことが考えられます。
そこで、人材確保だけではなく、新技術の活用という手段について考えてみます。特に、生成AIの技術とロボット技術の活用は積極促進し、減りつつある労働力のサポート活用として検討していきます。
建設業界においてAIとロボット技術の活用については、ニーズが高まっており、今後市場参入するにあたって規模が大きいものだと予想されています。例えばドイツの調査会社であるスタティスタ社の予測によると、世界の建設ロボット市場は、2020年時点で7,170万ドルという予測から、2030年には2億4,240万ドル規模に成長すると予想されています。これから先大きく成長することを見越すならば、日本の市場でも取り入れるべきと考えられます。
ロボットや自動化技術を中心に一定の市場規模が予想される
日本の建設ロボット市場の売上予測、市場のニーズは、どの程度で推移していくと見越しているのでしょうか。データから把握していきます。
株式会社矢野経済研究所が発表した、「自動化技術」「遠隔操作技術」「遠隔臨場技術」「ドローン活用技術」「建設用3Dプリンター」の5分野からなる建設現場におけるDX市場の予測によると、国内では2028年度に1,000億円を超えることが示されており、さらなる将来展望としては、2030年度の建設現場DX市場(5分野計)を1,250億円規模になると予測しています。
- * (1)自動化技術、(2)遠隔操作技術、(3)遠隔臨場技術、(4)ドローン活用技術、(5)建設用3Dプリンターの5分野を対象とした。
- * 5分野におけるデバイス・機器の販売、レンタル、周辺サービス等の事業者売上高ベース
- * 製品・サービスとして市場を通じて外販されるものを対象とし、例えばゼネコン等が自社の建設工事において使用する技術は含めていない。
- * 出典:株式会社矢野経済研究所「建設現場DX市場に関する調査(2024年)」(2024年5月22日発表)
「建設現場におけるDX」とは建設施工現場にダイレクトに導入されるようなハードウェア面に関する技術動向を指しており、大手ゼネコン等におけるデジタル戦略やICT施工、現場の自動化・省力化技術などから、
- 自動化
- 遠隔操作
- 遠隔臨場
- ドローン活用
- 建設用3Dプリンター
の5つの技術について、具体的には動向が調査されています。
同発表によると、これら技術の多くは現在実証実験段階にあるとのこと。建設現場における本格的な実装はこれからですが、大手ゼネコンを始め、建設機械メーカー、ロボットメーカー、システムインテグレーターなどによって現場実装に向けて着実に進んでおり、今後の建設現場において欠かせない技術・サービスとなっていくでしょう。
国の施策としては、国土交通省が舵をとる「i-Construction」があります。これは建設現場のDXを後押しし、建設現場へのICTの導入・活用を促進する取り組みです。自動・遠隔施工技術の推進による、建設現場のリモートオフィス化や工場化など、既存建設現場から大きく異なる概念が打ち出され、技術実装が進められています。
またデジタル庁では、DX技術の導入を妨げるような人による直接目視点検や巡回、管理者常駐などを義務付ける「アナログ規制」について整備をしています。規制の見直しや撤廃、代替技術の導入が進められていることも注目すべきところです。
このように、各所での施策が網羅的に推進されており、年々取り組みが進んでいくことで、建設現場における建設機械の自動化や遠隔操作、遠隔臨場の技術などがより積極的に活用されていくことになると考えられます。
業界内では生成AIへの認知度は高まるも、定着が課題
生成AIの活用の市場の推移売上、ニーズ推移はどれほどを見越しているのでしょうか。こちらもデータを見て動向について考えていきます。
以下のデータは、生成AIサービスを提供する、株式会社エクサウィザーズのグループ会社の分析データです。この調査の前提として、生成AIの定着レベルを5段階に分けて認識しています。
具体的には
- レベル1(関心なし)
- レベル2(関心はある)
- レベル3(試しに利用)
- レベル4(時々使用)
- レベル5(日常的に使用)
の5段階です。
- * 出典:株式会社Exa Enterprise AIプレスリリース「生成AIの利用実態アンケート」
上記の前提に基づくと、現在はレベル4以上が60%以上、レベル3以下が40%と業務にも取り入れられるようになってきています。これは生成AIの導入までは定着してきていることを示しているでしょう。
さらにレベル4以上の活用レベルのなかで業種別に分けてみると、明確に差が出る結果となりました。建設業界においては活用状況が他の業種よりも低いことが分かります。
- * 出典:株式会社Exa Enterprise AIプレスリリース「生成AIの利用実態アンケート」
このように各業界で生成AIのニーズは徐々に高まっていっていますが、建設業界においてはやや減少傾向にあるようにも見受けられます。
せっかくのツールですから、活用しないことには業界の発展は見込めないのではないでしょうか。課題の論点を整理し、導入に向けて積極的に解決を図っていくことで、よりメリットを発見できるのだと思われます。
生成AIやロボットの事例活用
生成AIや自動ロボットを積極的に利用すれば、事務的な業務の短縮はもちろん、物理的な作業、たとえば建物などの修繕の対応をすることも可能です。
実際にはどのような事例があるのでしょうか。業界での活用例を考えるとともに、各企業での活用例もご紹介します。
建設業での具体的な活用事例
- 資材盗難防止策
- 現場のAIカメラで就労者以外の来訪者を、画像認識することが可能になった。資材高騰による現場資材の盗難防止対策としても活用されている。
- 離職予測モデルの導入
- 勤怠データや業務成績をAIで分析し、離職リスクの高い従業員を推測し、個別のカウンセリングや支援策を提供することが可能になった。
- メンタルヘルスケアの強化
- AIを活用して従業員のメンタルヘルス状態をモニタリング。早期に問題を察知して対策を講じることで、離職率の低下にも寄与。勤怠データや業績データを分析し、メンタルヘルスの兆候を素早く察知することが可能になった。
- 業務効率化と従業員満足度の向上
- AIチャットボットを導入して顧客対応を実施。業務プロセスを効率化し、従業員の労働負担軽減につながった。その結果、従業員は複雑な問い合わせのみに集中できるようになった。
- 接近検知による安全対策
- フォークリフトや低車両による衝突や、巻き込みによる死傷事故が毎年発生している状況があり、特に運転士以外の人がフォークリフト後退時に遭うケースが多かった。そのため、監視カメラとAI技術を活用し、工場内の車両や人同士の接近を検知した際のアラートや、禁止エリアへの侵入や走行の検知を実施し、事故の軽減に貢献した。
- 現場の危険予知
- AIは人の動きを撮影した動画から「何をしているか」の推測ができるため、例えば高所からの落下など「こういう場所でこういう行動を起こすと、こういう事故を起こしやすい」と条件を与えると、建設作業員たちの行動パターンについて危険度の計算が可能になる。
危険行動と判断した作業員の情報を、安全管理の責任者に知らせることで、事故防止につながった。
企業内での独自の生成AI活用事例
- A社
- AIにて設計図を作成を支援するツールを利用。生成AIがスケッチを基に建物の複数のデザイン案を提案。
手描きのスケッチと建物をイメージした文章を基に、さまざまなファサード(建物の正面外観)のデザイン案を短時間で出力し、生成したデザインを基に3次元(3D)モデルを作成するツールを活用。 - B社
- 対話型の独自のAIツールを活用。AIツールを用いて業務に関する質問や情報検索が可能になった。
外部の生成AIシステムを使用することは情報漏えいの観点から禁止となっているが、このAIツールを社内イントラネットに構築することで、入力した情報が外部に漏えいするリスクは防止されている。 - C社
- 生成AIを活用して建設業ナレッジの検索システムを構築。
社内文書を検索し、抽出した情報を基に回答を生成することで、建設業の専門知識を活かした独自のナレッジベースを形成。社内の専門知識を基に高精度な回答を生成し、従業員の知識共有と問題解決が効率化した。
ロボット活用例
- 現場溶接ロボット
- 「作業の半分はロボットと」をコンセプトに、積極的に建設ロボット導入を推進。特に現場溶接ロボット工法に注力しており、現場溶接ロボットのオペレータや溶接管理者の育成と直庸をスタートするなど、グループ連携による現場溶接ロボットの開発・運用体制を確立した。
- 自走式墨出しロボット
- 墨出し作業を自動で行うロボットを開発。レーザーで地点を指定し、自動で目的地まで自走して墨出し作業実行が可能。職人の手作業に比べて効率が3倍にアップするというケースもあり、建設現場の業務効率化に期待が持たれている。
- 耐火被覆吹付ロボット
- 鉄骨の柱や梁をロックウール・モルタルで耐火被覆吹付するロボットを開発中。本来耐火被覆吹き付けは職人3人掛かりで行う作業だが、ロボットの活用で約30%の時間削減を実現した。
中小企業内での生成AI活用事例
A社:施工計画システムの利用
デジタルツインと生成AIを組み合わせた施工計画システムを利用することで最大で数カ月要していた施工計画の立案を、わずか1日で実現可能となった。3次元の設計データと地形データをクラウド上に登録し、工期や機械編成などの施工条件を入力すると、AIが最小の運搬土量となる切り土量と盛り土量を自動計算。最適な土量配分計画、施工手順、重機の稼働率などを算出し、工期が最短となる施工計画を作成する。
B社:AI-OCRによる業務効率化
スキャンした手書きの文書から文字や数字を自動的に読み取り、データベースに登録することができるシステムを導入。取引先や仕入れ先からの伝票、納品書や作業報告書など業務負荷の高い作業がシステム導入をきっかけに作業時間やコストの削減に寄与した。入力ミスなども防ぐことができ効率化を実現している。
このように、AIやロボットを活用することで人を介さずとも対応が可能になる作業も増えてきています。人員が少ない現場で困難をだった業務も対応できる可能性が生まれてきています。
まとめ
建設業において、生成AIの活用やロボットの活用に悩む企業はまだ多いようです。
大塚商会では、AI・IoTを導入し、DXを進められたお客様実績をご紹介するとともに、お客様の環境に合わせたシステムのご提案が可能です。作業の効率化、人材不足など業務に関するお悩みごとがございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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