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経理業務の効率化を阻む課題とは? 効率化実現のためのポイント
この記事では、経理業務の効率化が求められる背景や阻害要因、改善に向けた具体的なポイントや導入すべきシステムについて解説します。
経理部門は、企業の数字を正確に管理し、健全な経営判断を支える重要な役割を担っています。しかし近年、業務の煩雑化や人手不足に加え、インボイス制度や電子帳簿保存法などの法改正への対応も求められるようになり、その負担はますます増しています。加えて、紙ベースの運用や属人的な業務フローが残っている企業も多く、業務効率の向上が進まないケースも少なくありません。こうした状況を放置すると経営リスクにつながります。
本記事では、経理業務の効率化が求められる背景や阻害要因、効率化を怠ることで起こりうるリスクを整理しながら、改善に向けた具体的なポイントや導入すべきシステムについて解説します。経理業務の見直しを検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
1.経理業務の効率化が求められる背景
企業経営の根幹を支える経理業務は多岐にわたり、正確性とスピードが求められます。しかし近年、法制度の変化や業務の複雑化、さらには人手不足などの要因により、従来のやり方では対応しきれないケースが増えています。
経理・財務業務の複雑化と業務負担の増加
企業のお金の流れを正確に管理する経理・財務業務は、ただでさえ幅広い業務をカバーしているにもかかわらず、消費税やインボイス制度などの法改正にも都度対応する必要があり、常に最新の知識と高度な専門性が求められます。さらに企業の成長や事業の多角化に伴って取引先や契約形態が多様化すると、それに応じて処理内容も複雑化します。例えば、複数の子会社や海外拠点をもつ場合、それぞれ異なる会計基準や通貨、税制にも対応しなければなりません。
一方で、他部門ではDXの推進によりシステム化が進んでいても、経理部門ではいまだに紙ベースの帳票や手作業中心の運用が残っているケースも少なくありません。その結果、膨大なデータ入力やチェック作業に時間を要し、決算期や月末には長時間労働が常態化している場合も多く、業務負担は年々増加しているため、効率化への取り組みが急務となっています。
慢性的な人手不足
財務・経理部門は、営業部門のように直接的に売上を生み出す部署ではないため、原価を抑えるためにも必要最低限の人員しか配置されない傾向があります。その結果、日々の仕訳処理から請求・支払対応、決算業務や税務申告まで、多岐にわたる業務を少人数でこなさなければならず、担当者一人あたりの負担が大きくなりがちです。
特に月末月初や決算期などの繁忙期には、残業や休日出勤が常態化するケースも多く、長時間労働によるミスのリスクや担当者の離職につながる恐れもあります。また、人手不足の状態が続くと、業務の属人化が進み、担当者が急に退職・休職した場合に業務が回らなくなるといったリスクも抱えることになります。人材確保と同時に、業務効率化によって負担を軽減することが、今後の大きな課題です。
2.経理業務における課題とは?
経理業務を効率化しようとしても、現場にはさまざまな障壁が存在します。紙ベースでの運用が根強く残っていたり、業務の複雑さ故にミスが許されなかったりと、改善が難しい要因が多く潜んでいます。ここでは、経理業務の効率化を妨げている主な課題について詳しく解説します。
紙ベースでの書類が多い
経理業務では、請求書、領収書、契約書などの証憑(しょうひょう)書類を扱う機会が多く、いまだに紙で管理されている企業も少なくありません。紙書類での運用が中心の場合、書類の保管や検索に時間がかかるだけでなく、内容をシステムへ手作業で入力する必要があるため、ヒューマンエラーや入力漏れといったミスが発生しやすくなります。
また、ペーパーレス化が進んでいない環境では、書類の郵送、印刷、押印、回覧といったアナログなフローが業務に組み込まれており、作業のスピードや柔軟性が大きく制限されます。特にリモートワークとの相性が悪く、押印や紙書類の確認のために出社せざるを得ないといった非効率な運用も、業務全体のボトルネックになっているのが現状です。
処理が複雑なうえにミスが許されない
経理業務は、企業の財務状況を正確に管理する重要な役割を担っており、全てが会計基準や税法などのルールにのっとって行われなければなりません。そのため、仕訳一つにも専門的な知識が求められます。
税率の適用ミスや仕訳分類の誤りがあると、決算書の数値に影響を及ぼすだけでなく、誤った申告によって税務調査の対象となり、追徴課税や延滞税が発生するリスクもあります。また、経理データは社内外の意思決定にも使われるため、信頼性のある数字を提供することが絶対条件です。
なお、ミスが発生した場合、その修正や確認作業には多くの時間と労力がかかり、業務全体の遅延につながります。特に月末や決算期など、厳しい締め切りに追われるタイミングでは、わずかなミスが大きなトラブルを引き起こしかねません。
締め切りがあるのに他部署が協力的ではない
経理業務は単独で完結するものではなく、経費精算や取引先への支払処理、売上データの確認など、他部署からの情報提供や申請に依存する業務が多く存在します。しかし、他部署が経理部門の業務スケジュールや締め切りを十分に理解していない場合は、書類の提出が遅れたり、不備のある申請が送られてきたりすることもしばしばあります。
そうした場合、経理側では内容確認や修正依頼、再提出のやりとりが発生し、予定していたスケジュールが大きく狂ってしまいます。特に、月次・四半期・年次決算や税務申告といった動かせない締め切りがある業務では、他部署の協力が得られないことで経理部門の負担が一層増大し、残業の常態化や業務の質低下につながるリスクもあります。
3.経理作業の効率化を怠ることによるリスクとは?
経理業務における課題を放置し、効率化の取り組みを後回しにしていると、企業にとってさまざまなリスクを招く恐れがあります。
手作業が多くあると作業ミスの可能性も増える
手作業といったアナログ運用が多ければ多いほど、その分数字の誤入力や転記ミス、計算ミスなどの人的エラーを引き起こしやすくなります。エラーがあると、その後のデータ突合作業や確認作業にも時間がかかります。
さらに、ミスを防ぐためにチェック作業を増やす必要があり、結果的に業務全体の効率がさらに低下します。こうした状況は、限られた人員で業務をこなしている経理部門にとって大きな負担となり、残業が増えることにつながります。残業時間が増えることで原価が上昇し、最終的には会社の財務状況にも悪影響を与えることにもなりえます。
請求関係に不備が発生して取引先との信頼関係を失う
請求業務において、請求書の発行漏れや誤請求が発生すると、取引先に多大な迷惑をかけることになり、クレームを引き起こす原因となります。これにより、取引先との信頼関係が損なわれ、信頼回復が難しくなるばかりか、取引の継続が困難になるなど契約の見直しを迫られるリスクが高まります。
また、支払の遅れや二重払いが発生すると、企業の資金繰りにも深刻な影響を及ぼす可能性があります。キャッシュフローに不安定さが生じ、資金調達や経営判断にも支障をきたすため、企業の財務状況を圧迫し、最終的には事業運営に大きなリスクをもたらします。
経理データが出るのが遅くなり、経営判断も遅れる
経理業務で経費や売上データの集計に時間がかかると、月次や年次決算の進行が遅れ、企業の財務状況を把握するのが後手に回ります。このような遅延が続くと、経営陣は正確な財務データを基にした投資判断や資金調達のタイミングを逃すリスクを抱えることになります。
また、経営層が適切な意思決定を下すために必要な情報が不足しているため、戦略的な立案や改善策の実行も遅れ、競争力の低下を招く恐れがあります。
4.経理業務の効率化を実現するポイント
経理業務の効率化は、業務負担の軽減だけでなく、企業全体の生産性向上にもつながります。単に手作業を減らすだけでなく、業務プロセスの見直しや適切なシステム導入が必要です。この章では、経理業務の効率化を実現するための具体的なポイントについて解説します。
業務プロセスの可視化と標準化
経理業務の効率化を実現するためには、まず現状の業務プロセスを洗い出し、どこにムダや属人化があるのかを明確にすることが重要です。業務の流れを可視化し、非効率な部分を特定することで、改善点が浮かび上がります。その後、ムダな作業を排除し、手順を標準化することで、誰が担当しても一定の品質で業務を進める仕組みを作り上げることができます。
さらにマニュアルやチェックリストを活用して、業務の属人化を防ぐことが効果的です。これにより、担当者が変わった場合でもスムーズに引き継ぎができ、業務の継続性が確保されます。標準化と可視化を進めることで、業務全体の品質が均一化され、効率的に運営できるようになります。
システム導入による作業の自動化
システムを導入することで、経費精算や請求書処理など、手作業が多い業務を自動化できます。自動化により、入力ミスや計算ミスを防ぎ、確認作業の負担を軽減できるため、作業効率が大幅に向上します。また、月次・年次決算のスピードも向上し、経理業務全体の処理時間を短縮することが可能です。
さらにシステムにデータを蓄積することで、売上や経費などのデータをリアルタイムで把握できるようになります。これにより、経営判断の遅れを防ぎ、迅速かつ適切な意思決定をサポートすることができます。
5.経理業務効率化を支援するシステムとは?
経理業務の効率化には、適切なシステム導入が欠かせません。手作業を減らし、自動化とデータの可視化を実現することで、業務の精度とスピードが大幅に向上します。この章では、経理業務の効率化を支援する代表的なシステムについて解説し、それぞれがどのように業務の改善に貢献できるかを紹介します。
ワークフローシステム
ワークフローシステムは、経費精算や支払申請、承認プロセスを電子化することで、業務の進行をスムーズにします。従来の紙ベースでの申請や承認作業をデジタル化することで、申請の遅れや承認の滞留を防ぎ、締め切りギリギリでの対応を減らすことができます。これにより、経理部門の負担が軽減され、業務の効率化が図られます。
また、システム上で申請内容の履歴を管理できるため、監査対応が容易になり、業務の透明性も向上します。過去の申請や承認履歴を簡単に参照できるため、疑義が生じた場合でも迅速に対応することができ、コンプライアンス強化にも有効です。
財務会計システム
財務会計システムは、財務諸表の作成機能などを備えたシステムで、手作業で行っていた会計処理の一部を自動化します。これにより、会計業務をスピーディーに行うことができるようになります。システム内で財務諸表のデータを一元管理するため、個別にデータを入力する際に発生しがちな数値のずれを防ぎ、正確な会計処理も可能になります。
さらに、最新の税制や会計基準に対応した機能を備えているため、コンプライアンスを確保しやすくなります。これにより、税務調査や監査に対応する際も安心でき、企業としての信頼性を高められるでしょう。
管理会計システム
管理会計システムは、収益やコストを可視化し、戦略的な経営判断をサポートするツールです。会計情報の分析機能を活用することで、企業は現在の財務状況を深く理解でき、即座に必要な対策を講じることができます。また、予算管理や予実帳票機能を使って、計画と実績の差異を管理し、シミュレーション機能によって将来のリスクを予測しながら、より効果的な経営戦略を立てることが可能になります。
これにより、企業は経営環境の変化に迅速に対応でき、リスクを軽減しつつ、持続可能な成長を支えるためのデータに基づいた意思決定が行えるようになります。
まとめ
本記事では、経理業務の効率化が求められる背景や、効率化を阻む課題、その課題を放置することによって起こりうるリスクなどについて解説しました。
経理業務の効率化は、企業の生産性を向上させるために欠かせない要素です。手作業が多い経理部門では、業務の複雑化やミスが発生しやすく、効率化を怠ることが重大なリスクにつながる可能性があります。業務の可視化や標準化、システム導入による自動化などを進めることで、これらの課題を解消し、業務のスピードアップとミスの削減が実現できます。
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