【コラム】新規事業開発をできることから始めてみませんか

新規事業開発をできることから始めてみませんか。まずは何をすればよいのか、「頭の体操」から始めて新規事業につながる活動を進めていただけるようまとめてみました。

新規事業開発をできることから始めてみませんか

[2025年 10月 7日公開]

はじめに

本稿に興味を持ってくださった方は、自社で新規事業を始めた方がいいのではないかとお悩みの方や、新規事業を進めなければならないがその進め方が分からないといった方ではないでしょうか。

他方で「新規事業は当社では無理だ」といった消極的なイメージを持つ方もいらっしゃるかもしれないのですが、そういった方にも読んでいただき、まずは「頭の体操」から始めて新規事業につながる活動を進めていただくことを目的に書いています。

本稿をきっかけに自社の売上を増やす新規事業の第一歩を踏み出してみませんか。

1. 新規事業開発のためにまず行うことは

新規事業開発という言葉から連想されることはどのようなイメージでしょうか。「成功すれば企業が成長できる」「イノベーションによって社会を変える」といったポジティブなイメージもあれば、「成功率が高くない」「多大な手間と資金が必要だ」といったネガティブなイメージが交錯されたのではないでしょうか。

確かに大企業の新規事業開発においては、目標売上○○億円の新規事業を開発するために人件費を投入して部署やチームを組成し、顧客ニーズを収集し、競合企業の市場調査して……と大掛かりな仕掛けでのぞむことが少なくありません。
一方で、ベンチャー企業の新規事業は大企業ほど大掛かりではないものの、高い理念と社会への貢献を大々的に打ち出しキラキラとした事業を進めるといった事例を見かけるかもしれません。

しかしながら、新規事業とはシンプルに「その企業が現在行っていないことを新たに事業として起こすこと」を指します。
具体的には、(他社では提供しているかもしれないが自社としては)新製品・新サービスを開発して事業として売り出すこと、または、既存事業の販売先として新規顧客層を開拓することです。

そこには売上の目標や社会への貢献などは条件として決められていません。大企業は既存事業の売上が大きいため、それに見合う売上が新規事業にも求められます。また、ベンチャー企業の多くはIPO(Initial Public Offering:新規公開株式)を目的とし、資金調達を行うため成長の姿を描くことが求められるため、大きな売上と成長率を掲げる必要があるのです。
これらの企業にとっては新規事業の成功は容易ではなく冒頭のネガティブなイメージにつながることもあります。

一方で、中小企業においては、自社の規模に応じた売上と利益が継続的に立つのであれば、新規事業は十分に成功していると考えられます。中小企業においては、まずは自社の状況や環境に合致する新規事業に取り組む目的と具体的な目標を考えて進めてほしいと考えます。目的とは、なぜ新規事業を行うのかということで、例えば、「既存事業が縮小しているため新規事業でその穴を埋めたい」「そこにチャンスがあるから」「従業員が誇りを持って働ける事業をしたい」などです。

中小企業においては、経営者が新規事業の実質的なリーダーを務めることも少なくないですが、覚悟を持って進めるという意味でも目的ははっきりさせて従業員や協業先の原動力になるよう共有していただきたいことでもあります。

もう一つは目標です。例えば、「○年後に○円の売上規模になる」「○年後に顧客を○社/○人増やす」などです。数値は先述したとおり、まずは自社の規模にあったかつ現実的な目標で十分です。

また、既存事業との関係性を意識した新規事業開発を行うことを目的や目標にすることもお勧めします。既存事業の売上や信頼を向上する新規事業は見かけの売上以上に企業全体の成果を向上します。“目的と目標”この二つを意識して、実際の新規事業の一歩を踏み出してみましょう。

  • 新規事業は大企業やベンチャー企業だけのものではありません。
    中小企業には中小企業のチャンスがあります。
  • 活動の原動力となり基準となる目的を決めましょう。
  • 自社にあった新規事業の数値目標を決めましょう。
    何よりも既存事業との関係性を意識して決めましょう。

2. 新規事業開発の一歩を踏み出しましょう

一般的な新規事業の手順は次章でご紹介します。ここでは、新規事業のきっかけとなるビジネスのタネを通常業務の延長で探してみませんか、というご提案です。既存事業には顧客が必ずいるはずです。顧客との距離感や関係性にもよりますが、顧客の困りごとに耳を傾けてみることで新規事業開発の一歩を踏み出すことができます。現場・営業担当者には、どんなささいなことでもいいので、顧客がつぶやく困りごとやちょっとしたひとりごとも逃さずメモするように伝えましょう。

例えば、家庭やオフィスの機器設置・修繕業務(エアコン設置、トイレ改修、壁の塗り替えなど)を行うサービスエンジニアや職人は一定の時間、顧客と空間を共にして業務を進めます。その際に顧客からは「最近○○の調子も悪いのよね」のような他の機器の不具合やちょっとした悩みごと(ひとりごと)を受ける場合もあるでしょう。担当者が自分の仕事の領域外であれば、または自社の業務外のことであれば何気ない会話として見過ごしてしまいます。

一見、自社の製品やサービスに関係ない悩みごとでも切って捨てずに「顧客の声」として収集してください。もちろん、すぐに新規事業開発につながるわけではありません。それらをニーズとして捉え、複数の同じ(似た)悩みごとが集まったときに新規事業を考えるきっかけになるかもしれません。このとき、現場担当者には必要以上に負荷をかけないこと、悩みごとの解決方法を現場担当者に丸投げするのではなく、新規事業担当者(経営者)がひろう工夫をしましょう。

情報を収集したら面倒なことが増えると思うと、ニーズの収集がはかどりません。報告は口頭でも手書きのメモでも現場担当者が負担にならない方法で収集し、新規事業担当者や協力してくれる事務担当者がデジタルデータとして保存しましょう。データはクラウドやサーバーで共有した表計算ソフトのファイルやクラウド型ワークスペースアプリケーションなどのITツールを使って情報を整理して残し、新規事業担当者のアイデアの素(もと)として活用できるとよりよいでしょう。

  • どんなささいな情報でも顧客のニーズを収集しましょう。
  • 現場社員(営業担当者、サービスエンジニア、職人など)に大きな負荷をかけることなく情報収集できるしくみを作りましょう。
  • 口頭やメモなどアナログな方法も活用しつつ、情報はデジタルに集約し、活用しやすい情報収集のしくみを作りましょう。

3. 新規事業開発の基本的な進め方

ここからは、一般的な新規事業開発のステップについてご紹介します。新規事業開発というと、他社が行っていない、または他社と比べて競争力のあるビジネスアイデアを発想することから始めようとする方がいます。ここでいうビジネスアイデアとは想定顧客の課題を解決することを前提に考えられた新規事業の基となる着想(アイデア)のことを指します。

例えば、「中所得者向けに自分にあったカスタムメイドの服を提供するサービス」「高齢者向けに過去の思い出であるアナログの写真や撮影したビデオのデジタル化、整理保管サービス」といった特定のターゲット向けにニーズのありそうな製品やサービスを提供することです。確かにそういったビジネスアイデアを考えることは、夢も広がり楽しいことですし、関わる社員のモチベーションアップにもつながります。

しかし、ビジネスアイデアは新規事業開発においては手段にしかすぎません。新規事業開発において最初の大事なステップは「事業機会を探すこと」から始まります。なぜなら、どんな素晴らしいビジネスアイデアも世の中のニーズや課題とあっていなければ売上につながらないからです。

その一例として自撮り棒があります。2025年現在では一般消費者の使用もやや低調気味ですが一時期は多くの利用者が使っていました。自撮り棒自体は、今と少し違う形ですが1980年代から存在していました。2010年代までは少し変わった(あまり役に立たない)発明としかみられていなかったのですが、スマートフォンの普及により、どこにでも高性能のカメラ(スマートフォン)を携帯することが当たり前となり、出先で自分が写った写真を撮るニーズが増え、自撮り棒の需要が高まりました。このようにどんな素晴らしい発明も事業機会と合わなければビジネスとしては成功しません。

そのため事業機会を探すことから始め、その事業機会を基に想定顧客を設定し、想定顧客の課題を解決するビジネスを考案する方が効率よく新規事業開発を進めることができます。それらがおおよそ固まれば、ビジネスモデルを開発します。ビジネスモデルとは、自社が顧客にどのような価値を提供するかを示した「型(パターン)」のことです。

新規事業開発の進め方の一例

図1 新規事業開発の進め方の一例

4. 事業機会の探索

事業機会は、どのように発見すればいいのでしょうか。実は「新規事業開発の一歩を踏み出しましょう」でご紹介した既存顧客からの情報収集もその一つです。顧客が満たされていないことや困りごとを収集し、それを社会課題として切り出すことも立派な事業機会の探索です。

事業機会を見つける一例として、社会や技術などの顧客が置かれた環境の変化が大きい場面を探すという方法があります。顧客の環境が変化すると、変化前と変化後で必要なもの不必要なものが変わることがあり、そこに事業機会を見いだそうというわけです。事業機会が得られるような変化は、例えば以下のようなものがあげられます。

変化する分野具体的な例
社会の変化高齢化、少子化、新しい価値観の浸透、法律改正(規制緩和、規制強化)、気候変動、国際的枠組みへの参加
技術の変化AIの普及、イノベーション的製品・サービスの普及

表1 事業機会の源泉となる変化

それでは、効率よく不連続な変化による事業機会を探索するにはどうすればいいのでしょうか。
日々のニュースを書き留める、記事検索サービスなどを使って収集する、といったことも考えられますが、検索のキーワードが検索者の知見に左右されて探索者にとって新しい情報が発見されない可能性があります。情報収集手段の一つとして、政府が公表する資料の活用を勧めます。
例えば、毎年6月ごろに発表される「骨太の方針」と呼ばれる資料があります。正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」で、総理大臣が議長を務める経済財政諮問会議が策定します。ここには、政府の重要課題や翌年度の予算編成の方向性を示す方針が書かれています。

また、8月ごろには翌年度の政府の省庁別予算(概算要求)が公表されます。これらの情報には、公共事業を行う事業者だけでなく、他の民間事業者にとっても日本の社会にはどういった課題があり、今後、政府が民間と協調する新規取り組みや法律の改正の可能性が示されているといった点で参考になります。これらを理解することで、今後どのような変化が起こるかを察知することができます。多くの中小企業にとって、そこに書かれている課題や事業そのものがビジネスに直結するとは限りませんが、それらの不連続な変化から自社の事業機会の探索につなげることができます。

  • 社会の変化、技術の変化から事業機会を探索しましょう。
  • 政府資料「骨太の方針」「政府予算」は日本の課題の宝庫。課題の中に事業機会を見つけましょう。

5. ビジネスアイデア発想

自社に関連がありそうな、または新規事業の目的に合致した事業機会が幾つか見つかると次はビジネスアイデアの発想です。発想といっても事業機会を眺めているだけで急に何かが思いつくわけではありません。まずは、自社が解決策を提示できるレベルまで社会課題や顧客ニーズを個別のニーズに落とし込んでいく必要があります。

例えば、事業機会を環境問題という社会課題とした場合に、解決する対象は脱炭素なのか、水資源汚染対策なのかなど、環境問題の課題は多岐にわたります。課題を全て解決するのは貴社の役割ではありません。数ある環境問題の中から一つを取り上げ、その解決策を考案することで、それがビジネスになり、ひいては社会貢献にもつながります。
また、解決策も一つではありません。労働力不足の解決をする場合、機械で代替するのか、AIで代替するのか、または、現在働いていない人にも働いてもらうしくみを作るのかなど、解決策も多岐にわたります。

このように、事業機会となる社会課題や顧客課題をより具体的な課題に落とし込み、解決策を複数考えて実際のビジネスアイデアにしていきます。この際に、自社の経営資源だけで実行できないような解決策であっても、アイデアとしては消さずに残しておきましょう。自社の経営資源を一切活用できないビジネスアイデアだと別ですが、自社で足りない経営資源は他社と組んで実施するなどの可能性があります。アイデアを発想するときは、「××がないからダメだ」と即座に打ち消さず、アイデアをたくさん出して絞り込んでいく、結合することが大事になってきます。アイデアを発想するためには、幾つかの手法がありますが、ここではオズボーンのチェックリストといわれる手法をご紹介します。

これは新しいアイデアを思いつく際に、いろいろな方向に発散を試みるための九つの考え方を示したものです。
例えば、スマートフォンがない時代にスマートフォンのようなものを思いつくには、携帯電話を「(4)拡大」して何でもできる機器にできないかという発想もできます。一方で、パソコンの機能はそのままで「(5)縮小」した手のひらに収まるミニパソコンができないかという発想もできます。実際には、最初のスマートフォンの開発の際には、「(9)結合」で「電話も携帯音楽プレーヤーもインターネットもできる機器にできないか」という発想から生まれたようです。
こんなふうに課題を解決する手段として自社の経営資源をさまざまな方向に展開したり、課題の解決方法をさまざまな方向に展開したりすることで新しいアイデアにつながることがあります。

オズボーンの九つのチェックリスト

図2 オズボーンの九つのチェックリスト

(出所)オズボーン(2008)

ビジネスアイデアの発想には、AIを活用するというのも一つの手段です。ただし、AIにいきなり「新しいビジネスアイデアを考えて」と問いかけても有望なビジネスアイデアを出してくれるわけではありません。AI搭載ノートアプリケーションには、利用者がアップロードした情報を基に質問に答えてくれたり、アイデアを提案してくれたりする機能があります。こういったツールに、自ら集めた事業機会のタネとなる資料や顧客ニーズ、自社資源を読み込ませて、相談相手になってもらうといいでしょう。
ビジネスアイデアが幾つか固まってくれば、次はビジネスモデルです。アイデアを実現するために設計書に落とし込んでいくことになります。

  • 社会課題を全て解決しようとしない。
    社会課題を自社のビジネスにできるレベルに落とし込みましょう。
  • ビジネスアイデアの発想にはたくさんのアイデアを出しましょう。
    一見荒唐無稽に思えるアイデアでもメモして発想の素にしましょう。

6. ビジネスモデル構築

ビジネスモデルはビジネスアイデアを実現するしくみです。誰に、何を、いつ、どこで、どのように、どのくらいの価格で提供するか(4W2H)と、その結果として顧客にどのような価値を提供するのかを決めたものです。自社だけで足りない経営資源は、他社と協業しながら顧客に提供できるしくみを作ることを検討します。一見、同じような価値を提供するしくみであっても、ビジネスモデルによっては実現可能性が違うことがあります。また、利益率に大きな差が出る場合もあります。
ビジネスモデルにはさまざまなものがありますが、その紹介だけで原稿が一本書けてしまうほど多岐にわたり紹介しきれませんので、ここでは幾つかビジネスモデルの要素を紹介するにとどめます。

(1)誰から代金をもらうか

エンタメ領域のビジネスにおいては、一般消費者から直接代金をもらい収益源とするビジネス(サブスク型動画配信)。もしくは、広告を掲載することで広告主から代金をもらい、エンタメを楽しむ一般消費者は格安または無料というビジネス(テレビなど)があります。
広告収入を得るためには、利用(視聴)者が十分いることなどの成立条件が必要になりますが、ビジネスの展開の仕方に違いが出ます。

(2) 製品を売っているのかサービスを提供するのか

エアコンを作っているメーカーにとって、エアコン(製品)を製造し販売するのがビジネスなのか、快適な温度・湿度などの空間(空気)を提供するのがビジネスなのかという視点です。エアコンメーカーに限らず、タイヤメーカーでは、顧客が必要とする環境(快適で安全な運転)を提供し、月々その利用料をいただくことで、製品を売るのではなく、サービス化するといったビジネスも考えられます。また、サービス化して提供する場合は製品の所有権は利用者に移転しないことも少なくありません。モノの所有ではなく、体験(環境)をサービスとして提供するビジネスを行っていることになります。

このように、同じ課題を解決するビジネスを展開するにしても、さまざまな選択肢があり、その選択肢を設計書として検討するのがビジネスモデルなのです。
本稿では紹介しきれていませんが、ビジネスモデルに関する書籍は多く出ていますので、自社の新規事業をかたちにしていく際には、同業種にこだわらず異業種も含めてビジネスモデルを自社の新規事業開発に取り込んでいただくのがよいビジネスプランになると考えられます。

  • アイデアを実現する手段としてビジネスモデルがあります。
    4W2Hと提供価値を意識してビジネスモデルを構築しましょう。

おわりに

新規事業開発の発想方法にはさまざまな方法があり、この方法でないと開発できないといったことはありません。
また、本稿では新規事業開発の全プロセスまでは掲載できていません。ビジネスアイデアやビジネスモデルの原型ができれば、他社の類似事業の調査などの市場調査も必要になり、本格的に進めるためには資金も必要になってきます。

新規事業開発に取り組むきっかけとして、本稿をぜひご活用ください。

著者紹介

宮脇 啓透 氏 プロフィール

昭和女子大学グローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科・准教授

宮脇 啓透(みやわき ひろゆき)

ICTビジネス、ベンチャービジネスに関連する教育・研究に携わる。中小企業診断士として環境関連等の社会貢献事業の支援等。複数のシンクタンクにおいてICTビジネス、環境ビジネス、新規事業開発等のコンサルティング事業等に従事したのち現職。編著書に「モバイルバリュー・ビジネス」(中央経済社)等。

宮脇 啓透 氏

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