第48回 アウトソーシングについて

医療機関は、さまざまな業務を外部に委託しています。医事、検査、清掃、給食などです。しかし、そもそもなぜその委託業者になったのか覚えていますか?契約更新の交渉は、なあなあになっていませんか?外部に業務を委託するにあたり、期待していたことは、実現していますか?
今回は医療機関のアウトソーシングについて記述します。

アウトソーシング(外部委託)

医療事務や検体検査は、自前で行うことも可能ですが、外部へ委託する施設も大変多くなっています。その多くの施設でアウトソーシングに期待することは、効率化とサービスの向上です。これは実は矛盾していることでもあるので、委託する側がきちんと事前に考えていないといけないことです。
まず業務を外部へ委託する利点を考えます。これは前述したように効率化とサービスの向上ですよね。一般的に給食や検体検査業務などは大規模事業者が提供するサービス内容のほうが、規模の経済性が働き、低コストで高いサービスが受けられます。また外部委託することで、この業務に関しては責任を分散することもできます。これは管理に係るコストが低減できるということでもあります。
では、外部に委託する欠点は何でしょうか?最初に挙げられることは、医療機関から業務に関するノウハウが外部に流出してしまう危険性があるということです。その医療機関が長い期間をかけて蓄積してきたノウハウを失う可能性があるということを認識し、外部に委託する範囲を慎重に検討する必要があります。
以前にこんなことがありました。ある病院が医療業務の一部を外部に委託していました。その病院は医療事務員に対して、きちんと教育する病院で自院職員や外部委託社員の隔たり無く教育していました。委託をするようになり数年が経ったころから、委託業者から派遣される社員として明らかに新人が多く送り込まれるようになり、さらにその病院で一人前の仕事ができるまで教育し、教育が終わるころに、その社員は別の病院へ異動させられていきました。そうです。教育に熱心であることを利用され、委託業者の新人教育もさせられていたのです。お金を払って委託業者の人を育てるなどもっての外です。本来であれば委託企業が自分たちの社員を自前できちんと教育し、教育された即戦力の人員が送られてくるべきです。

外部に委託する業務範囲を整理すると、図のようになります。

専門性の高低、業務の継続性の高低により、図のように分類できます。右上の中核業務は、毎月繰り返し、継続する業務であり専門性の高い業務とします。一般的には経理や経営企画などの部門となり、このような業務は外部委託には適していません。自前職員で担当すべき業務です。一方で右下の定型業務は、毎月の繰り返し、継続する業務ではあるものの、専門性が低い業務です。一般的には医療事務や院内物流、給食などが挙げられます。これらの業務は、外部委託に適している業務と言えます。専門性の低い繰り返し行われる業務ですので、規模の経済性が働く外部事業者のメリットが活かせる分野です。
図の左下、定型時限業務も外部委託に適している業務です。一般的にはレセプトチェック業務などが該当します。

取引企業の選定

新規の業務委託でも既存の業務委託においてもどちらのケースでも応用できる考え方です。最初に取引業者の選定基準を決めておきます。基準を決めないで選定作業に入ると、経済性のみで決まりがちで、後で痛い目に合うこともあります。選定基準は次の5つの基準で決めておけばバランスの良い選定基準になります。

【1】経済性

その業者を選定したら、どのくらいコストが削減できるかという視点です。外部に委託するもっとも重要視する視点です。注意としては委託することにより、ある勘定費目は削減するが、外部に委託するので委託費は上がります。両方を考慮に入れる必要があります。また、契約当社は取引したいという理由で安価だったが、次第に価格が引きあがってしまっていたなどということもあります。契約内容をきちんとチェックする。毎年契約交渉を行うなどしましょう。

【2】安全性

委託業者が契約期間中に破綻などしてしまったら、サービスの提供は受けられなくなります。安定的にサービスの提供を受けるために、委託業者の財務的な健全性を事前にチェックしておく必要があります。

【3】信頼性

委託業者からの製品やサービスは、当然ですが信頼できる品質でなければなりません。医療機関が外部に委託する際に、特に次の8業務に関しては厚生労働省令により基準が定められており高い信頼性が求められています。

・検体検査(医療法施行規則第9条の8)
-人体から排出され又は採取された検体の微生物的検査、血清学的検査、血液学的検査、病理学的検査、寄生虫学的検査及び生化学的検査の業務

・滅菌消毒(医療法施行規則第9条の9)
-医療機器又は医学的処置若しくは手術の用に供する衣類その他の繊維製品の滅菌又は消毒の業務

・患者等給食(医療法施行規則第9条の10)
-病院における患者、妊婦、産婦又はじょく婦の食事の提供の業務

・患者搬送(医療法施行規則第9条の11)
-患者、妊婦、産婦又はじょく婦の病院、診療所又は助産所相互間の搬送の業務及びその他の搬送の業務で重篤な患者について医師又は歯科医師を同乗させて行うもの

・医療機器の保守点検(医療法施行規則第9条の12)
-医療機器の保守点検の業務

・医療用ガス供給設備の保守点検(医療法施行規則第9条の13)
-医療の用に供するガスの供給設備の保守点検の業務

・寝具類洗濯(医療法施行規則第9条の14)
-患者、妊婦、産婦又はじょく婦の寝具又はこれらの者に貸与する衣類の洗濯の業務

・院内清掃(医療法施行規則第9条の15)
-医師若しくは歯科医師の診療若しくは助産師の業務の用に供する施設又は患者の入院の用に供する施設の清掃の業務

【4】付加価値性

委託業者はさまざまな医療機関と取引しています。その取引を通じてノウハウが蓄積されていますので、付加価値を有する情報等を有していることが多いです。そのような病院に有益な情報を提供してくれる企業を選定することも重要な視点です。

【5】誠実性

最後のこの誠実性は、重要な視点ですが実は非常に難しい視点でもあります。客観的な指標となる数字もありませんし、担当営業が誠実だからといって企業が誠実とは限りません。その逆もあります。狭い世界ですから色々な風評も耳にすると思います。できる範囲で情報を精査し、判断することが重要です。そしてこの5つの選定基準ですが、足し算ではなく掛け算で考える必要があります。つまりいずれかの選定基準が「0」だったら、結果も「0」となるということです。単に取引業者を選定するのではなく、経営のパートナーを選定するという考え方が必要です。

皆さんは、どう思いますか?

次回は12月9日(水)更新予定です。

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この記事の著者

株式会社FMCA 代表取締役

藤井 昌弘

1984年に医療関連企業入社。院内の各種改善活動を指導。急性期医療機関出向、帰任後、厚生労働省担当主任研究員として厚生行政の政策分析に従事。2005年退職、株式会社FMCAを設立。原価計算の導入と活用、病院移転に伴うマネジメントも実施。
株式会社FMCA

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