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【最終回】ものをつくるチカラは現場力にあり
「ものをつくるチカラ」コラム最終回です。コイルセンターの業務改善に携わった中で、お客様の現場担当者同士が、直接話すことで解決し効果を上げた忘れられない事例を二つご紹介します。
ものをつくるチカラは現場力にあり
コイルセンターの業務改善に携わり、忘れられない事例が二つあります。
どちらも、現場担当者同士が直接、話すことで解決し効果を上げた事例です。
1. お互いの現場で起きている最新情報を共有し問題解決につなげる
鉄鋼メーカーとコイルセンターとのSCM(サプライ・チェーン・マネジメント:Supply Chain Management)の一環で、工程進捗情報システムを打ち合わせする際に、製鉄所を見学する機会がありました。
コイルセンターの営業担当と熱延製品ヤードに行ったとき、同行したコイルセンター扱いでA社向けの出荷待ちの熱延材コイルが数本置いてありました。
通常では熱延材はコイル外周に紙を巻かない裸梱包ですが、A社向けは紙巻梱包となっていました。
製鉄所の担当者から、A社向けコイルは数年前に錆のクレームがあり、紙巻梱包を行うため、梱包作業のため同等品より出荷まで2~3日多く要しているとの説明がありました。
ところが、コイルセンターの営業からA社では加工工程に酸洗浄工程が追加され、万が一錆が混入しても酸洗浄工程で除去される。コイルセンターでも加工準備でコイルの開梱作業に梱包紙を取り除く手間が掛かっているので、裸梱包に戻して欲しいとの話がありました。
お互いに最新の情報が共有されておらず、双方で思わぬ手間が発生していたのです。
この様な双方の現場担当者が会する機会は偶然かもしれませんが、現場で起きている問題・課題を共有できる仕組みは必要です。
A社向けコイルは、すぐに裸梱包に変更され製鉄所からA社までの工期短縮につながりました。
2. お互いの違いを理解し解決策につなげる
コイルセンターの顧客(販売先)の業種は自動車・家電・鋼製家具・建材等と幅広く、顧客で購入する資材・部品も多岐にわたり、全体の調達の中では鋼材の比率は少ないことがあります。
そのため、顧客側の購買システムは他の資材を中心とした仕組みやルールで運用され、鋼材の受発注には当てはまらない場合があります。
大手顧客B社とコイルセンターの受発注システムの見直し、狙いはB社のMRP(資材所要量計画:Material Requirements Planning…生産計画に合わせて購入資材や部品の必要量を管理すること)とコイルセンターの業務システムを連携し、お互いの在庫削減と短納期を実現することです。
B社の購入資材・部品は木材・布・塗料・鋼管・ネジ等と幅広く、その他にコイルセンターから鋼材のコイル・シートの購入がありますが、購入点数では鋼材以外が圧倒的に多いとのことです。
プロジェクト打ち合わせの冒頭で工場の購買担当者から、どうしてコイルは発注数量どおりに納品されないのかとの苦情に近い質問がありました。
部品購入の例では、一つのパレットに100個単位等の指定単位で発注・納品される。
ところが、コイルセンターへコイルを1,000kgで発注しても、納品されるコイルは少なめの980kgだったり、多めの1,010kgだったりする場合があるため、MRPが不足の場合は追加発注、オーバーの場合は次納期の減量調整を行っている。鋼材だけが注文どおりの数量で納品されず管理に手間が掛かっているとのこと。
これに対しコイルセンター担当者からは、コイルは注文量にぴったりの数量での加工は難しく許容範囲を決めて加工手配を行っている(原因は鉄鋼メーカーが生産する母材コイルの重量のバラつきに起因)。
B社からは内示注文・確定注文の変更が多く、納品数量の調整に手間取り残業で対応しているとのこと。
結果的には、お互いの状況が分からず両者に無駄な業務が発生していることが分かりました。
この後、コイルセンター側からB社へ鋼材加工での制約条件、コイルの許容量設定基準等を説明し、お互いの受発注ルールの見直しを実施。
このことを皮切りに、お互いの生産・製造管理・受発注業務の理解を深め相手に押しつけの改善ではなく、お互いが効果を得られる方法を求めプロジェクトは大きな成果を上げることができました。
改善の一歩はお互いの問題点を共有することです。
現場の第一線担当者が解決策を持っていることを見た、忘れられない経験となりました。
今回で「ものをつくるチカラ」の連載を終了させていただきます。さまざまなテーマで執筆してきましたが、コイルセンターという鋼材加工業のご理解にお役に立てば幸いです。長い間ご愛読いただき、誠にありがとうございました。
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