総合的な技術力とチーム力で新たなニッチ市場を開拓する

2013年10月取材

海外の製造・販売パートナーと連携 カーボンブラシの“小さな巨人”が40期連続黒字の秘訣を語る

組織横断型のチームで同じ目標に向かって走る

事業の特徴を聞かせてください。

馬場氏:当社は小型精密モーターを回すために必要な心臓部品である「カーボンブラシ」を開発・製造・販売しています。
この市場の大きな特徴は、知名度の高い企業が世界に計10社ぐらいしか存在しないこと。その理由は、高い信頼性を要求されるために新規参入が難しいからです。
例えば、用途の一つである自動車の場合、1台に搭載されるモーターは約50個。モーター1個にカーボンブラシが2個設置されるので、1台に約100個が設置されます。そのため、自動車メーカーはモーターを厳選し、モーターのメーカーはカーボンブラシを厳選する。結果、限られたメーカーしか生き残っていないのです。

自動車電装用(左)とマイクロモーター用(右)のカーボンブラシ。自動車、デジタルカメラ、パソコン、プリンターなど、さまざまな製品を支えている

御社の強みはどこにあるのですか。

馬場氏:組織横断型のプロジェクトをすぐに立ち上げる製品開発のチーム力、そして総合的な技術力。この二つだと思います。
新しい製品をつくるには営業の作戦が重要ですし、材料の製造技術や量産技術も必要。そこで、最初に全員が集まって製品の目的とコンセプトを議論。メンバーの目標を一致させて、チームとして走り出します。

境氏:馬場には根っからの“技術屋魂”があり、技術開発のプランニング能力がすぐれています。そのアイディアやビジョンに周囲が乗せられ、挑戦を楽しむ社内風土が醸成されたと思いますね。

後発・小資本から世界トップ10に入った理由

どのように、挑戦を楽しむ風土を育んできたのでしょうか。

馬場氏:当社の設立時、国内だけで約10社のカーボンブラシメーカーがありました。新規参入した私たちは、他社のやらない仕事を丁寧に拾うしかない。そうやってお客様の要求に応えるなかで、新技術にチャレンジする風土が形成されました。

境氏:お客様に恵まれた結果ですね。既存の分野に参入しなかったので、これから伸びていく新しい製品に携わることができたんです。

長寿命、低騒音など、強みをもつ製品群。世界的家電メーカーから指名されている

約40年にわたって黒字経営を継続していると聞きました。その秘訣はなんですか。

境氏:特定の分野に絞らず、常に4~5分野におよぶ販売戦略をとってきたことでしょう。ある分野の売上が落ちても、他の分野で支えられるからです。リーマン・ショックのときも、利益を確保できました。
また、国内の従業員数は50名弱。外部環境の変化に対応するため、創業時から少数精鋭主義を貫いてきました。 この方針を支えてきたツールが、大塚商会から導入した生産管理システム「生産革新 Ryu-jin(旧製品名、『遉』)」や文書管理システム「eValueNS ドキュメント管理」です。生産計画や事務処理の効率化、技術情報の共有化に大きく役立っていますね。

馬場氏:もう一つの秘訣は“戦わずしてすむ”市場ポジショニングです。
例えば、カメラ用モーターに搭載されるカーボンブラシの組み立ては顕微鏡でしかできません。同業者の多くが肉眼で作業できるサイズを主流としているため、私たちは戦わずしてすんでいます。こうした市場はどんな時代にもあるので、どんどん開拓していく方針です。

5年以上先を見すえて、新技術を研究

高品質の製品で夢に挑戦電動バイクで世界一を獲得

御社は1988年に中国・大連に工場を設立するなど、海外展開に積極的です。今後のグローバル戦略を教えてください。

境氏:夢のある分野に力を入れていきたいと考えています。最近の例では、英国マン島で開催されるバイクレースの電動バイクに、何度も改良を重ねた銀のカーボンブラシを提供しました。そのバイクは全体で6位、ブラシつきモーター搭載車のなかでは1位を獲得したんです。
これは私たちにとって、カーボンブラシの金メダル。「Aupac」のロゴが刻まれたバイクがゴールラインを切ったと聞いたときは、社内がお祭り騒ぎになりましたよ(笑)。
これからは風力発電など、世界中に需要があり、社会貢献のできる分野を強化していきます。

馬場氏:大手企業のように、各国に自前の拠点を構えることはできません。当社純正の材料や仕掛品を提供し、製造・販売のパートナーを世界中で増やしていきます。
具体的には、発展が目覚ましい新興国BRICsのメーカーに技術供与する予定のほか、販売パートナーは中国と韓国にくわえて、ヨーロッパで開拓する方針です。同業者と共存共栄しながら、オーパックブランドの製品を世界にひろめたいですね。

2013年、英国マン島TTレースに出場した日本製の電動バイク(チームMIRAI)。ブラシつきモーター搭載車で1位、全体で6位に入賞した。そのモーターにはオーパックのカーボンブラシが使われている

【まとめ】創業55年のオーパックに学ぶ 黒字経営4つのポイント!

少数精鋭で変化に対応

大きな組織は変化に対応しにくい。おもな製造は中国で行い、日本の従業員を50名未満に厳選。生産管理システムをいち早く導入し、生産計画の効率化と労務コストの削減を実現している。

戦わずしてすむ市場戦略

例えば、デジカメ用モーターに搭載されるカーボンブラシは、顕微鏡を使わないと組み立てられない。同業他社は肉眼で作業できるサイズを扱うため、戦わずして圧倒的な市場シェアを占めている。

多分野への納品でリスクを分散

ヒット商品が生まれても特定の分野に絞らず、常に4~5分野へ部品を供給。ある分野の売上が落ちても、他の分野で支える構造をつくった。

5年先を見すえた技術開発

開発体制を「直近」「次世代」「5年先以降」の3チームに編成。5年先以降の開発で蓄積した技術のストックが、顧客からのどんな要求にも応用できる資産になっている。

インタビュー企業 プロフィール

オーパック株式会社

代表取締役社長 境 君夫氏(さかい きみお)

1977年に入社。1988年、中国法人の設立にかかわり、総経理として大連に赴任。取締役、常務取締役を経て、2013年6月に代表取締役社長に就任。

オーパック株式会社

監査役・総合顧問 馬場 悟氏(ばば さとる)

1971年に入社。中国法人のトップを経て、2003年に代表取締役社長に就任。組織横断型の技術開発に取り組み、挑戦を楽しむ社内風土を醸成。2013年6月より現任。

オーパック株式会社
創業/1958年8月 資本金/4,500万円 売上高/18億7,000万円(2013年3月期:単体) 従業員数/46名(中国法人は550名) 事業内容/カーボンブラシの材料開発・設計・製造・販売、ブラシと周辺部品のアッセンブリ、精密板ばねの設計・製造・販売、ブラシおよび精密板ばねの金型製作
関連会社/大連奥巴克有限公司

オーパック株式会社 Webサイト

[記事・写真提供/雑誌「経営者通信」]