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海外進出の基本~進出形態・メリット・リスク・成功戦略を総まとめ~
本記事では、外務省の調査データを基にした日本企業の進出傾向を踏まえながら、代表的な進出形態、進出によって得られるメリット、注意すべきリスク、そして成功のために検討すべきポイントまでを体系的にご紹介します。
日本国内の市場縮小やグローバル化の進展を背景に、海外進出を検討する企業が年々増加しています。しかし、海外展開には法制度や文化の違い、パートナー選定の難しさなど、見落としがちなリスクが多く存在します。また、進出形態や戦略の選択を誤ると、成長機会を逃すことにもなりかねません。
目次
1.日本企業の海外進出状況
外務省が公表した「海外進出日系企業拠点数調査(2023年調査結果)」によると、2023年10月1日時点で世界各地に展開されている日系企業の拠点数は8万1,969拠点にのぼります。
地域区分と企業拠点数
地域区分 | 企業拠点数 |
---|---|
アジア | 57,082 |
大洋州 | 1,315 |
北米 | 9,964 |
中南米 | 3,047 |
欧州 | 8,619 |
中東 | 994 |
アフリカ | 948 |
合計 | 81,969 |
2.海外進出の代表的な形態
日本企業が海外進出するにはさまざまな方法がありますが、それぞれ難易度やコスト、リスクの度合いが異なります。ここでは代表的な進出形態を、比較的容易で低コストな方法から順にご紹介します。
販売代理店・海外バイヤーと契約する
最も導入しやすい進出方法が、現地の販売代理店やバイヤーと契約を結ぶ形です。この方法であれば自社で直接海外に法人や支店を設ける必要がなく、比較的低コストかつ低リスクで海外市場へのアプローチが可能となります。特に初めての海外展開や、テストマーケティング段階では有効な選択肢です。
一方で、販売やプロモーション活動はパートナー企業に依存することになるため、自社ブランドの世界観や価格戦略を完全にコントロールすることが難しいという側面もあります。パートナーの選定や契約は慎重に進めなくてはなりません。
海外支店を置く
ある程度の商機が見込める市場においては、現地に自社の支店を設置する形も有力です。支店を通じて自社スタッフが現地対応を行うことで、顧客との信頼関係構築や、サービス品質の維持・改善がしやすくなるメリットがあります。
ただし、現地の法制度・労務規制・商習慣への理解と対応が必須であり、異文化マネジメント力やローカル対応力も問われます。また、支店の開設・運営には相応のコストや人的資源が必要となるため、一定規模以上の事業展開を見込める場合に適した方法といえるでしょう。
海外に子会社を設立する
最も本格的な形態が、現地法人(子会社)の設立です。これは、長期的な市場参入や現地化戦略を進める企業にとって、有効な手段です。子会社を通じて現地人材の採用・育成が可能となり、マーケットに密着した事業展開が行いやすくなります。
一方で、子会社の設立・運営には多くの課題も伴います。例えば、設立・維持にかかるコストの高さ、税制や財務の複雑さ、コーポレートガバナンス(企業統治)体制の構築などです。さらに経営の一貫性を保つためには、本社との連携や情報共有体制の強化が不可欠です。
3.海外進出のメリット
海外進出は売上拡大だけでなく、企業の組織力や人材の質を高めるための好機でもあります。ここでは、経営者が押さえておくべき海外進出の主なメリットをご紹介します。
【1】新たな市場の獲得による売上拡大
近年、日本国内の市場は少子高齢化により需要が頭打ちになりつつあります。多くの業種で競争が激化し、成長余地が限られているのが実情です。そうした中で、人口が増加し、経済発展が著しいアジアや中南米などの新興国市場への進出は、企業にとって大きなビジネスチャンスとなります。
【2】グローバル人材の育成
海外進出は、社員にとって異文化環境で実務経験を積む機会となり、企業全体の人的資産の強化にも直結します。現地法人や海外支店への赴任、短期のプロジェクト派遣、バイリンガル人材とのチーム連携などを通じて、グローバルに通用するスキルや視点が養われていきます。
身に付く能力の例
- 異文化コミュニケーション能力(相手国の価値観の理解と対応)
- 実践的な語学力(英語・現地語を用いた商談・交渉)
- 現地商習慣・法制度への理解と応用力
- 多国籍チームでのマネジメント力・合意形成力
4.販売代理店・バイヤー契約に潜む三つのリスク
海外進出は大きなビジネスチャンスをもたらす一方で、慎重な判断とリスク管理が求められる取り組みでもあります。ここでは、中小企業が海外進出の初期段階で選ぶことの多い「販売代理店・現地バイヤーとの契約」において、代表的なリスクと注意すべきポイントを解説します。
【1】信頼できるパートナーを見極める難しさ
販売代理店や現地バイヤーと契約を結ぶ方法は、比較的手軽で低コストな海外展開の第一歩として選ばれることが多い一方、取引相手の信頼性を見極める難しさが常に伴います。
また、ブランドイメージや販売方針、価格戦略といった要素を相手企業に委ねることになるため、契約前に十分な審査や実績確認を行わずに契約してしまうと、以下のようなトラブルに発展する恐れがあります。
- 契約内容の一方的な変更
- 代金未払い・入金遅延
- 音信不通
- 自社製品の模倣品流通
【2】独占契約によって経営の選択肢が狭まる
販売代理店に独占的な販売権を付与する契約形態も少なくありませんが、この場合には期待した売上に届かない場合でも打開策が限定されるというリスクがあります。
例えば、特定の代理店と独占契約を結んでしまうと、他のパートナーや販路を自由に開拓できなくなる制約が発生します。販売が思うように伸びないにもかかわらず、新たな流通チャネルを構築できないため、結果的に市場機会を逃す可能性もあります。
【3】商習慣や文化の違いによる誤解・トラブル
海外ビジネスでは、次のような商習慣や文化、言語の違いが思わぬトラブルの引き金となることがあります。
- 納期に対する認識の違い
- 契約条項の解釈における認識のずれ
- 交渉スタイルの違い(直接交渉を重視する国/書面を重視する国)
- 契約文書や打ち合わせにおける言語の問題
また、各国の法律や規制も大きく異なるため、例えば、「契約書の効力」「損害賠償の条件」「製品クレーム対応の責任範囲」などについて、日本と同様の感覚で進めてしまうと法的トラブルに発展する危険性もあります。
5.海外進出を成功させるための検討ポイント
海外市場への進出は、単なる「拠点設置」や「製品の販売」にとどまらず、経営全体に関わる戦略的な意思決定です。ここでは、進出後に継続的な成果を出すために、経営者として押さえておくべき四つの視点をご紹介します。
中長期的な視点での戦略策定
海外進出は、一時的な売上向上や話題づくりを目的とするものではなく、数年単位のスパンで中長期的な投資と体制構築が求められる経営戦略です。短期的な成果を焦って追い求めるあまり、現地市場とのミスマッチや過剰投資に陥るリスクもあるため、中長期的な視点から戦略を設計することが不可欠です。
まずは進出予定国・地域における市場調査や競合分析を十分に実施し、自社が提供できる製品・サービスがどのような価値を生み出せるのかを把握しましょう。あわせて、現地ニーズとのギャップを埋めるための調整や、現地企業との協業可能性も検討すべきです。
さらに、海外進出の形態によってリスクや投資規模が大きく異なるため、複数のシナリオを描いた柔軟な戦略設計が重要です。為替変動や法規制の変化など、外部環境の変動にも備えたプランB・プランCを持つことで、より安定した展開が可能になります。
本社と現地の連携体制の構築
海外拠点を設置した後にビジネスを円滑に運営していくには、現地側の自律性と、本社のガバナンスとのバランスをとりながらスムーズな連携体制を構築することが不可欠です。
連携体制の構築において重要な点
- 報告・連絡・相談(ホウ・レン・ソウ)の仕組み
- 双方向のコミュニケーション手段の確保(定例会議、共有ツールなど)
- 意思決定スピードの確保と役割分担
信頼できるパートナーや専門家の確保
海外進出においては、現地特有の法務、税務、労務、規制対応など、自社単独では対応しきれない領域が多数存在します。特に初進出の場合には、現地事情に精通した以下のような専門家との連携が重要です。
- 法律事務所・弁護士
- 税理士・会計士
- 現地のコンサルタントや貿易実務の専門家
- 通訳・翻訳サービスや現地HR代行会社
海外展開支援施策の活用
経済産業省では、中小企業の海外進出をサポートするための各種海外展開支援施策を用意しています。こうした施策を活用することで、初期段階での情報収集や現地パートナー開拓の負担を軽減しつつ、リスクを抑えてスムーズに海外展開を進めることが可能です。予算に限りのある中小企業ほど、これらの施策を有効に活用することが成功への近道となります。
まとめ
海外進出は、自社の製品やサービスを新たな市場に届け、企業としての成長を加速させる大きなチャンスです。特に、国内市場の成長が鈍化する中で、輸出や海外販路の開拓が可能な製品を持つ企業は積極的に海外展開を検討すべきタイミングにあります。
ただし、海外進出は見切り発車で成功するほど甘いものではありません。現地の商習慣や法規制、文化的ギャップ、パートナー選定などには慎重な判断が求められ、想定外のリスクも数多く存在します。
初めての進出やリソースの限られた中小企業こそ、海外展開の経験やノウハウを持つコンサルタントや専門家を活用し、リスクを最小限に抑える体制を構築することが成功への鍵となります。海外販路開拓から貿易実務までをトータルで代行・支援する株式会社STANDAGE社の提供する「おまかせ貿易」を活用すれば、次のような業務を一括して任せることが可能です。
- 海外向けパンフレットやWebコンテンツの制作代行
- 世界各国の展示会・商談会への出展サポート
関連サービス
「おまかせ貿易」は海外への販路開拓から貿易実務までを代行・サポートするサービスです。中堅・中小企業における海外展開は低水準にとどまっているといわれており、その理由は、人材不足やノウハウ不足が主であるとされています。「おまかせ貿易」はそういった課題を解決し、海外への販路拡大を支援します。
こうしたフルサービス&サポートを活用することで、社内リソースを過度に圧迫せずに着実かつ効率的に海外展開を進めることが可能となります。