ITとビジネスの専門家によるコラム。経営、業種・業界、さまざまな切り口で、現場に生きる情報をお届けします。
受注業務の効率化の重要性とは? 理想の体制構築のためにできること
この記事では、なぜ受注業務の効率化が必要なのか、非効率な状態がもたらすリスクなどを解説します。
企業の売上を生み出す入り口となる「受注業務」。一見シンプルに見える業務ですが、実は多くの企業が非効率さによる課題を抱えています。受注チャネルの多様化する中、ますます素早い対応が求められる現代にあって、受注業務の効率化はもはや必須といえるでしょう。
本記事では、なぜ今、受注業務の効率化が重要なのか、非効率な状態がもたらすリスク、そして効率化によって得られるメリットを解説します。さらに理想的な受注体制の姿と、その実現に向けて進めるべき取り組みについてもご紹介します。
目次
1.なぜ受注業務の効率化が必要なのか?
一般に受注業務は、
- 受注受付
- 受注内容の確認
- 在庫確認
- 受注登録
- 受注伝票作成・送付
- 出荷指示
- 売上計上
といった複数のステップで構成されています。各ステップにおいて手作業や目視での確認が多い場合、情報伝達の遅れや、データ入力の重複・誤りといった問題が発生しやすくなります。こうした背景を踏まえ、なぜ今、受注業務の効率化が強く求められているのか、その理由について解説します。
受注チャネルが多様化したため
現在、顧客からの注文を受けるチャネルは多岐にわたります。従来の電話、FAX、対面に加え、メール、企業のECサイト、Amazonや楽天市場のようなECモール、そして企業間取引で利用されるEDI(電子データ交換)なども活用されています。
チャネルの多様化は、顧客にとって利便性が高まる一方、受注側の企業にとっては情報が分散しやすくなるというデメリットがあります。チャネルごとに形式の異なる注文情報を手作業で集約したり、それぞれのシステムに入力したりする工程は煩雑なうえ、入力ミスや確認漏れといったエラーが発生する要因となっています。
スピード感や正確性は顧客体験に影響するため
現代の顧客は、商品やサービス自体の品質はもちろんのこと、迅速かつ正確な対応を企業に求めています。特に注文から納品までのリードタイムの長短は、顧客満足度を大きく左右します。迅速に対応できる企業は、顧客からの信頼を獲得しやすく、リピート率の向上にもつながるのです。
反対に納品まで時間がかかってしまったり、数量や品番、納期などの間違いが発生したりするとクレームや顧客満足度の低下につながり、二度と取引してもらえないといった顧客離れ・リピート率の低下を招く可能性があります。つまり、受注業務のスピードと正確性は、直接的に顧客体験の質に影響を与えるのです。
非効率的だとそもそも経営が立ち行かなくなるため
低価格商品を数多く扱うビジネスモデルでは、受注業務の効率性は企業の「生命線」です。1件あたりの取引単価が数百円から数千円といった小口な場合、月に何百件・何千件もの注文を正確かつ迅速に対応する必要があり、それができなければそもそも事業継続もままなりません。
また、限られた担当者で多くの業務を処理する中小企業などでは、非効率な受注プロセスは担当者の負担を増してしまうといった問題もあります。
2.非効率な受注業務がもたらす経営リスク
受注業務の非効率さは単なる作業の遅れにとどまらず、企業経営にさまざまなリスクをもたらす可能性があります。ここでは、特に注意すべきリスクについて見ていきます。
入力ミスによるトラブルの温床になるため
受注処理が手作業でのデータ入力が多い場合、数量や品番、納期などの記載ミスが起こりやすくなります。こうしたミスの大きな問題点は、発覚するのが出荷後や納品時など、顧客に届いた時点になるケースが多い点にあります。
クレームや再手配といった対応コストが発生するだけではなく、誤出荷による返品にかかる物流費、正しい商品を送り直すための再手配コスト、そしてなにより顧客からの信頼回復に費やす労力や時間といった「見えないコスト」も発生します。損失補塡(ほてん)や顧客からの信頼低下など、単なる作業ミスが、経営的なリスクへと発展する恐れもあります。
機会損失と顧客離れにつながる
受注業務が非効率な状態にあると、社内の確認作業や情報共有に余計な工数がかかり、迅速な対応が難しくなります。たとえ丁寧に処理をしていたとしても、情報の集約や連携に時間がかかりすぎる場合、顧客からの問い合わせにすぐに正確な情報を提供できないことがあります。その結果、「対応が遅い」「本当に処理されているのか不安」といった不信感を与えてしまいかねません。
こうした「遅い」「不正確」「不安」といったネガティブな顧客体験が積み重なると、将来的な受注機会の損失につながります。一度の対応の遅れやミスが原因で、継続的な注文を失ったり、他の潜在顧客への紹介機会を逃したりする可能性もあるのです。
作業が属人化し、担当者が変わったらトラブルが起こる可能性がある
受注業務が非効率的な組織でありがちなのが、業務の「属人化」です。特定の担当者しかある処理の流れを把握していない、顧客への対応ルールが担当者によってバラバラといった状態にあると、担当者の急な退職や異動で業務が滞ったり、ミスが発生したりするなどのトラブル発生リスクが高まります。
業務の属人化は、組織全体の柔軟性と安定性を著しく損ない、成長の足かせとなる見過ごせない問題です。
3.受注業務の効率化によって得られる経営メリット
受注業務の効率化は、単なる業務負荷の軽減にとどまらず、企業全体の経営にも大きなメリットをもたらします。
対応スピードの向上による利益改善
システムなどを活用して受注処理プロセスの効率化が進むと、手作業による入力や確認にかかる時間と手間が大幅に削減されます。これにより、注文を受けてから次の工程(在庫確認、ピッキング、出荷指示など)に進むまでのリードタイムが劇的に短縮されます。
その結果、1日に処理できる受注件数が増加し、より多くの注文に対応できるようになります。さらに迅速な対応は顧客満足度を高め、リピート注文や追加注文につながり、売上拡大や利益率の向上が期待できます。
属人化の解消による業務継続性・組織力の強化
受注業務の効率化を進める過程で、業務プロセスの見直しや標準化、マニュアル化が行われます。さらにシステムを導入して業務を標準的なワークフローに乗せることで、特定の担当者しかできないという属人化を解消することができます。属人化の解消によって、一部の担当者に負荷が集中することなく、組織全体で業務を分担できるようになるほか、誰が担当しても一定レベルの品質で業務を処理できるようになります。
その結果、急な人員の入れ替えや繁忙期などでもスムーズに対応できるようになり、組織全体の生産性が向上し、組織力が強化されます。
顧客満足度の向上
受注業務の効率化は顧客満足度の向上に寄与します。まず、処理スピードの向上により、顧客が期待する納期を守れるようになります。また、システムによる自動チェックなどが導入されれば、入力ミスや確認漏れによる誤出荷のリスクが減少します。これらの基本対応をミスなくこなせるようになることで、顧客に対して「信頼できる企業」という印象を与えることができます。
さらに効率化の結果、受注状況や在庫状況が必要に応じていつでも確認できるようになれば、顧客からの問い合わせに対して、迅速かつ性格に回答することができます。丁寧な顧客応対は、顧客満足度向上につながります。
4.理想の受注体制と実現に向けてやるべきこと
前述したメリットをもたらすために、理想的な受注体制の構築に向けて、どのような状態を理想として目指すべきか整理しましょう。
「理想の受注体制」とは?
誰が担当しても同じクオリティで処理できる
誰が対応しても一定の品質で処理できる体制であることが理想的です。業務を標準化・マニュアル化することで、組織として安定的に業務を処理できるようになります。その結果、人員配置の変更や繁忙期への対応力も高まります。
全ての受注チャネルが一元管理されている
さまざまなチャネルの受注を一つのシステムや窓口で統合管理できていることが理想の受注体制です。電話、FAX、メール、ECサイト、営業担当経由など、多様化する受注チャネルを別々に処理していては確認ミスや二重対応が発生しやすくなるからです。
全チャネルを一元管理し、処理の効率化・精度向上を図りましょう。これにより重複入力の手間や、チャネル間の情報連携ミスを防ぎ、業務全体の効率と精度を高めることができます。
スムーズでストレスのない顧客応対
受注内容の確認や納期に関する問い合わせなどに、迅速かつ的確に対応できる体制も不可欠です。受注状況や在庫状況、過去の取引履歴などがすぐに参照できる環境があれば、顧客は問い合わせの際にストレスなくやり取りでき、信頼を得やすくなります。
理想の受注体制を実現するためには?
業務プロセスの「見える化」と標準化
まず、現状の受注業務の流れを可視化し、詳細に把握することが理想の体制構築のための第一歩です。フロー図を作成したり、担当者へのヒアリングを行ったりして、非効率な手順や属人化している業務を洗い出しましょう。業務を滞らせるボトルネックを特定したら、次にその課題を解消する新しい業務フローを設計します。手順を明確に定めて文書化し、関係者全員が理解・順守できるように研修などを実施し、業務の標準化を進めます。
IT・システム活用による「効率化」「一元管理」
業務プロセスを効率的に運用するためには、ITシステムの導入が不可欠です。受注管理システムや販売管理システムなどを導入して業務を効率化することで、手入力や同じ情報をあちこちに入力し直すなどの二度手間を解消し、ミスを大幅に削減して業務処理速度を向上させることが可能です。また、複数の販売チャネルを一元管理することで、担当者間での情報共有がスムーズになり、結果として、日々の業務処理がよりスピーディーかつ安定的に進められるようになります。
システム導入を検討する際は、まずは自社の受注規模、取り扱い商材、必要な機能などを明確にしたうえで、自社にとって最適なシステムを選定することがポイントになるため、ベンダーと相談しながら選定しましょう。
顧客応対力の底上げと教育
システム化による効率向上に加え、顧客と直接やり取りする担当者の応対スキルも重要です。誰でも一定レベルの応対ができるよう、システムの使い方に関する教育はもちろんのこと、顧客への適切な言葉遣い、傾聴力、問題解決力といったコミュニケーションスキルの向上にも取り組みましょう。FAQリストの整備や応対マニュアルの作成なども必須です。組織全体の顧客応対力を底上げすることで、顧客満足度のさらなる向上を目指せます。
まとめ
本記事では、受注業務の効率化の重要性について解説してきました。アナログな方法や属人化した状態では、多様化したチャネルによる受注業務には対応できません。入力ミスなどによるトラブルは、売上機会の損失や顧客離れといった深刻な経営リスクにつながります。
こうした事態を解消するには、システム導入によって受注業務を効率化していく必要があります。まず現状の業務プロセスを洗い出してボトルネックを解消し、新たな業務フローを構築したうえで新システムへ移行するのが成功の秘訣(ひけつ)です。あわせて、顧客応対を行う担当者のスキルアップにも取り組むことで、組織全体の顧客対応力を向上することができるでしょう。
受注業務の効率化は、企業の安定的な運営のどだいといえます。ぜひこの機会に、貴社の受注業務について見直しを検討されてみてはいかがでしょうか。